Elisa Eymery 展示との対話「Atode Ne」|Dialogue in see you gallery

Jul. 31. 2026

エリザ・エーメリー

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東京・恵比寿の「see you gallery」での、写真家・Elisa Eymeryさんによる写真展「Atode Ne」。

2021年に、憧れの地であった日本・東京で、ご家族とともに新たな暮らしをスタートさせたElisaさん。会場に展示されたのは、独自のカルチャーをもつ東京という街をとらえたストリートフォトや、その地域社会と深く関わりながら成長していく2人の娘さんの姿を写した、どこかノスタルジックで優しいスナップ。そこには、まもなくこの街を離れるElisaさん一家の、哀愁と情愛が込められています。

今回はElisaさんに、展示の制作背景とともに、これまでのキャリアや、ストリートフォトや写真展にかける思いについて、詳しく伺いました。

Elisa Eymery

Elisa Eymery

Director / Photographer

1987年生まれ、フランス出身。
フランス、エジプト、デンマーク、イギリスと居住地を移し、様々な文化や多様性に触れながら好奇心を育む。ロンドンで学んだ後、ロンドン、ベルリン、ソウルでファッション業界のアートディレクターおよび写真家として活動し、2021年に東京へ移住。現在は、国内外を問わずエディトリアルやキャンペーンの撮影を手掛けている。フィルム写真のみを使用し、親密で情感豊かなアプローチを融合させている。母親になった後、「子ども時代」に焦点を当てたパーソナルワークを多く発表。2026年には、ドイツの出版社teNeuesより発売された写真集『Now is Now Tokyo』に掲載された。

さまざまな国や地域で美的感性を育み、ファッションの道へ

Elisa Eymery
『Marie Claire Czech Republic 2026年5月号』より

―― さまざまな国で暮らし、多様な文化に触れてきたElisaさん。生活拠点を移すライフスタイルは、いつから始まったのでしょうか。

幼少期からです。私の父はCivil Engineer(土木技師)で、昔から、新しいプロジェクトに携わるために転居をくり返す生活を送っていました。私が5歳の頃、家族でフランスからエジプトのカイロへと移り住みましたが、それは私の人間形成におけるとても重要な経験となりました。旅や冒険、そして未知のものを発見することへの情熱を、私に抱かせてくれたのです。

エジプトでの生活は、美的感性にも大きな影響を与えてくれました。美しいイスラム建築、通りや市場の喧騒、4000年前に建てられた石造りの神殿、そしてナイル川や砂漠の美しさは、今でも鮮明に記憶に残されています。また、11歳のときに移住したデンマーク・コペンハーゲンの景色をはじめ、北欧諸国の美しさからも、視覚的に強烈な影響を受けました。

私の人生は、数年ごとに新しい土地へ移り住むことの連続でしたから、一つの場所に一生留まるなんてことは、想像もできません。世界に対する好奇心は尽きることがありませんし、なじみのない街や国に、単なる観光客としてではなくそこで暮らす一員として適応しようとする際に生じる、独特の“心地よい違和感”のようなものを、私はとても楽しんでいるのです。

―― 現在はアートディレクター・写真家として、さまざまな国で活躍されていますが、キャリアはどのようにスタートされたのでしょうか?

実は、私の学歴は、非常にオーソドックスでアカデミックなものなんです。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で国際関係学を学び、その後、オックスフォード大学で経営学の修士号を取得しました。けれど、ロンドンでの学生時代に、ファッションやファッション業界への関心が深まっていました。

学生時代にはモデルの仕事をすることもあり、そこでファッション撮影の世界を知り、ヘアメイクアップアーティスト、アートディレクター、フォトグラファーといった専門家たちが、どのように撮影をつくり上げていくのかを学びました。卒業後はロンドンの百貨店でウィメンズウェアのバイヤーとして働き、その後、小売関連のプロジェクトを専門とする経営コンサルタントになりました。けれどすぐに「もっとクリエイティブなことがしたい」「自分のプロジェクトを手がけたい」という思いを抱くようになってしまって。韓国を訪れた際、とくにファッションの面における美意識の高さに衝撃を受け、韓国のファッションブランドをイギリスに輸入するビジネスを立ち上げることにしました。

イースト・ロンドンに小さな店をオープンし、成功を収めたことをきっかけに、韓国のデザイナーとコラボレーションして自身のファッションラインを立ち上げ、私はクリエイティブ・ディレクターを務めることになりました。ブランドのルックブックはすべて、愛用の小さなフィルムカメラで私が撮影しましたが、ブランドの成功にはその写真が大きな役割を果たしたと自負しています。

Elisa Eymery
「Petit Sézane」ブランドルックより

―― ブランドのルックブックの撮影が、写真家としてのキャリアのきっかけになっていたのですね。

そうですね。ところが、第一子を出産した後「頻繁な出張を伴うファッションビジネスの経営者というライフスタイルは、自分には合わない」と感じるようになって。その立場からは退いて、美容やライフスタイル関連のブランドのアートディレクターとして、フリーランスで活動することにしました。

日本に移住してからは、フランスの雑誌向けに、トラベルフォトの撮影を専門にしていましたが、やはり「ファッションの仕事がしたい」という思いは募っていきました。なのでここ数年は、ファッション写真への情熱を再び追求するようになり、東京を拠点に、国際的なブランドや雑誌の撮影を行うようになりました。

Elisa Eymery
『Marie Claire Czech Republic 2026年5月号』より

ストリートフォトは、未来の世代へ今の世界を残すもの

Elisa Eymery
『MilK magazine』より

―― 写真というものを撮り始めたのは、いつ頃だったのでしょうか?

写真を撮り始めたのは、今から15年ほど前に、韓国・ソウルで初めて「CONTAX T2」を手にしたのがきっかけでした。そのフィルムカメラを手に入れたあと、自然とストリートフォトを撮るようになったんです。撮影を始めた当初はストリートフォトというジャンルについてとくに意識はしていませんでしたが、目の前にあるありのままの日常を記録することに惹かれていきました。

日本に移住した後、フランスの旅行雑誌の編集者に自分の作品を送ってみたところ、旅行関連の撮影の仕事をもらえるようになりました。結果として、その仕事が「私がプロとして進みたいのは、トラベルフォトの道ではない」のだと気づくきっかけにもなりましたが、それでも「街の様子を記録したい」という情熱はどの街に行っても変わらず、身のまわりの世界をありのままに撮り続けることは、きっとこの先もずっとやめないだろうと思います。あくまで自分のために撮っているので、たとえ誰にも見てもらえなくても満足なのですが、展覧会やZINE、写真集などを通じてその情熱を世界と共有できるのは、素晴らしいことだと感じています。

―― Elisaさんは撮影においてフィルムカメラしか使用しないそうですが、それはなぜですか?

仕事でもプライベートでも、フィルムカメラしか使っていません。フィルム写真は、撮影時に見た光景や感じたことを正確に再現しつつ、独特の雰囲気を写真に与えてくれるんです。

旅行雑誌の仕事などではデジタルに挑戦したこともありましたが、どうしても好​​きになれなくて……。デジタルで撮った写真は自分自身のものという実感が持てず、フィルム写真ほどの愛着をもつことができませんでした。

Elisa Eymery

―― ストリートフォトを撮る際に、意識していることや気をつけていることはありますか?

ストリートフォト、つまり街角のスナップ写真の撮影は、近年ますます難しいものになっていると感じます。SNSやAIの普及に伴い、人々のプライバシーへの懸念が高まっていますからね。正直なところ、その懸念を完全に理解しているわけではないのですが、ストリートフォトグラファーを取り巻く状況が大きく変わっていることは、肌で感じています。

それでも私は勇気を持って、あらゆる年齢や背景を持つ見知らぬ人々の姿を撮り続けています。未来の世代は、私たちが生きたこの世界が実際どのようなものだったのかを見たいと思うはずですから。私自身、過去の時代のストリートフォトグラファーの作品を見るのが大好きですし、ありのままの街の姿を捉えるこの伝統を、自分なりのやり方で受け継いでいくべきだと感じています。

日本でのかけがえない日常を写した「Atode Ne」

Elisa Eymery

―― 2021年に日本に移住されてきたElisaさん。日本で暮らすきっかけは何でしたか。

以前、数年ほど韓国に住んでいたことがあるのですが、その時期頻繁に日本を訪れていました。そのなかで東京が大好きになり、東京で暮らすことが人生の夢となりました。以来、コンピュータ科学者である夫に「東京で仕事を探してみたら?」と勧めていたのですが、ついに彼が東京での職を見つけてくれて! 念願だった東京移住が実現し、本当に嬉しかったです。

観光で訪れるのと実際にそこで暮らすのとでは全くの別物ですが、東京で過ごした6年間は、本当に忘れられないものとなりました。もうすぐ東京を離れて、家族の近くで暮らすためにロンドンへ戻るのですが、日本を去る寂しさを感じつつも、これからどんな未来が待っているのかを楽しみにしてもいます。

―― 外国から日本に移住されてきたというだけでなく、日本社会で数年間育児をされてきましたが、日本・東京という土地での育児では、どのようなことを感じましたか。

子どもを持つと、否応なしに地域社会にとけ込むことになります。地元の幼稚園への登録、小児科探し、公園通い、そして地元の家族連れとの自然な交流など、子どものいない大人として過ごす場合とは比べものにならないほど、地域での生活に深く関わることになりますから。そして、子どもがいると、生活のペースも必然的に変わります。あらゆる物事がゆっくりと進むようになりますが、新しい文化を知る上では、むしろそれがプラスに働きます。ですから幼い娘を連れて日本を知る体験は、若い頃に一人で訪れた時とは、全く異なるものになりました。かつてのように夜遊びに出かけることはできなくなりましたが、その一方で、以前なら思いもしなかったような場所を訪れる機会にも恵まれました。

さらに、娘のおかげで、日本の子どもたちの姿をより自由に記録することもできました。娘がそばにいることで、子どもたちもその保護者の方たちも、私が写真を撮る意図は善意によるものであり、決して脅威を与えるものではないと理解してくれたのだと思います。

Elisa Eymery

―― 「Atode Ne」には日常のスナップが多く採用されていますが、撮影時から作品にすることを意識されていましたか? Elisaさんのなかで、日常の写真とパーソナルワークにおける写真との間に、意識的な違いはありますか。

私は、自分の「個人的な作品」と「日常的に撮る写真」を、それほど明確に区別していません。フィルムカメラで日々撮影する写真こそが、私にとって個人的かつ生涯にわたる作品なのです。

今回のプロジェクトで、私の2人の娘を被写体として取り上げたのは、日本で暮らし、日本を見つめるという私自身の親密な体験を伝えたかったから。その体験には、写真に写っているかどうかにかかわらず、私が日々写真を撮るそばに彼女たちがいてくれるということも含まれているのです。

―― 「Atode Ne」というタイトルにはどのような意味や想いが込められていますか。

「Atode Ne(あとでね)」には、日本を離れることに対する、私たち家族のほろ苦い想いが込められています。けれど、ここでの生活に別れを告げる言葉ではあっても、永遠の別れではありません。子どもは私の作品や本書の重要なテーマですから、タイトルの言葉遣いにどこか子どもらしさが感じられる点も気に入っています。

写真集や写真展は、作品のイメージを心に深く刻むもの

Elisa Eymery

―― 「see you gallery」での写真展は、どのような経緯で開催することになったのでしょう。

「see you gallery」には、展覧会を見るために何度か訪れたことがあり、そのたびに「東京にしては珍しいほど美しく、広々とした空間だ」と感じていたんです。ロンドンへ戻ることが決まった際「出発前に、see you galleryで個展を開きたい」という想いが湧いて、ギャラリーに連絡させてもらいました。ありがたいことに、ギャラリーの方々は私の構想を快く受け入れてくださり、タイトなスケジュールにも柔軟に対応してくださいました。

―― 展示においては、額装のほかに、クリップ留めやピン留めなどのラフな方法も採用されているのが印象的でした。展示写真のセレクトや展示方法、配置などの空間構成は、どのように行われましたか?

写真のセレクトは、私にとって常にとても難しいものです。今回採用したのは、子どもたちの姿や日本の街角の風景など、一見ありふれた光景ばかりですが、私自身が愛し、深い意味があると感じる瞬間の写真たちです。

私は手焼きのプリントが大好きなので、お気に入りの写真は暗室でプリントすることにしました。暗室プリントならではの美しさを、間近でじっくりと味わってもらいたいと思ったのです。展示されているクリップ留めの写真はすべて暗室でプリントしたもので、私自身がプリントしたものと、世田谷にある「ナショナル・フォト」のラボでプリントされたものが混ざっています。

一方で、額装された写真の持つシンプルで端正な佇まいも好きなので、素晴らしい仕上がりで定評のある「アフロ・アトリエ」に依頼したデジタルプリントは、ほとんどを額装することにしました。例外として奥の部屋にピン留めした写真群がありますが、これらのデジタルプリントは、長い壁面を活かして、まるで絵コンテのように物語を追うことができる、より自由で親しみやすい配置にしたいと考えたものです。この絵コンテには、私の人生における大切な瞬間が綴られています。

Elisa Eymery

―― 展示に合わせて発行された写真集は、フランスの独立系出版社Chose Commune創設者であるCecile Poimboeuf-Koizumiさんが監修されています。Cecileさんも日本とフランスにルーツを持ち、東京で暮らした経験のある方ですが、どのような経緯で制作に参加されることになったのでしょうか。

Chose Communeは、私が以前から注目していた素晴らしい出版社です。展覧会に合わせて写真集を制作しようと計画しているとき、ぜひ協力してもらいたいと思い、創設者のCecileに連絡してみました。非常に厳しいスケジュールではありましたが、クオリティの高い印象的な作品に仕上げたいと考えていたので、外部の視点を取り入れることが必要だと思ったのです。Cecileは個人的で親密なテーマを扱った作品を数多く手掛けており、さらに自身のルーツもあって日本に特別な関心を寄せている方なので、私のプロジェクトに共感し、この写真集の編集を引き受けてくれました。

Cecileには、写真のセレクトや並び順に加え、フォーマットや、そのほかのデザイン面でも協力してもらっています。セレクトにはとくに力を入れてくれて、最終的な構成に至るまで、何度も2人でやり取りを重ねながら、共同で作業を進めました。続く並び順を決める段階でも、同様に意見を出し合い、納得できるまで協力して取り組みました。

Elisa Eymery

―― 最後に、写真作品をWeb上に発表できる現代において、実空間での写真展で作品を見せることにはどのような価値があると思うか、Elisaさんが展示をする理由とは何かを教えてください。

写真集を制作することもそうですが、展覧会をつくるのは本当に大変です! それでも私にとって、それが作品を体験する最良の方法なのです。写真集や展覧会で目にした作品のイメージは、心に深く残ります。たとえ細部を正確に覚えていなかったとしても、展覧会に足を運ぶことで、そのアーティストの作品に対する全体的な“感覚”のようなものが心に刻まれるでしょう? それは、オンラインで写真を見るだけでは、なかなか得られない体験だと思うのです。

Information

EXHIBITION

Atode Ne
会期:2026年7月18日(土) – 8月3日(月)
営業時間:13:00 – 20:00 (火水 休館日・入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

Elisa Eymery

by Elisa Eymery

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Elisa Eymery 展示との対話「Atode Ne」|Dialogue in see you gallery

Jul 31. 2026

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