松岡一哲 展示との対話「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」|Dialogue in see you gallery

Jul. 06. 2026

SHARE

  • xでシェア
  • lineでシェア

東京・恵比寿の「see you gallery」での、俳優・南琴奈さんと、写真家・松岡一哲さんによる写真展「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」。

南さんが14歳の頃に制作がスタートしたファースト写真集『ITTETSU MATSUOKA x KOTONA MINAMI』以来、撮影を通じて関係を紡いできた南さんと松岡さん。南さんの20歳を記念して出版された写真集『水光(みずのひかり)』に収録された写真と、6年のあいだに撮影された写真で構成された本展からは、お2人のこれまでの歩みが感じ取れます。

今回は松岡さんに、写真集『水光』や、写真展「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」の制作背景、展示へのこだわりなどについて、詳しくお話を伺いました。

Ittetsu Matsuoka

Photographer

1978年生まれ。写真家。日本大学藝術学部写真学科卒業。写真家として活動するかたわら、2008年テルメギャラリーを立ち上げ運営。日常の身辺を写真に収めながらも、等価な眼差しで世界を捉え撮影を続ける。主な個展に「マリイ」 BOOKMARC(2018年)、「やさしいだけ」amanaTIGP(2020年)、「what i know」amanaTIGP(2023年)、「もっと深くて鋭くて、危なくて、たまらなく美しいやつ。普通じゃないもの。」Taka Ishii Gallery Photography / Film(2025年)。

水面にあたる光のように、瞬間の空気や美しさをとらえた写真集『水光』

松岡一哲

―― 松岡さんと南さんの出会いは、ファースト写真集『ITTETSU MATSUOKA x KOTONA MINAMI』を撮影されたときだと伺いました。当時、南さんにはどのような印象を持たれましたか?

以前からお世話になっている編集者の澤里明さんからご紹介いただき、南さんのファースト写真集をつくることになったのですが、その当時、彼女はまだ14歳でした。初めてお会いしたときには「おとなしくて、謙虚な人だな」と思ったのですが、いざ撮影してみると「静けさのなかに芯の強さのようなものがある」と感じたのを覚えています。うまく言葉にできないのですが、カメラに向けるまなざしの強さや、物怖じしない佇まいから、14歳とは思えないものを感じたんです。自分の世界観をしっかり持っている方なんだな、と思いました。

―― 当時14歳だった南さんも、今年6月で20歳に。当時と現在とで、南さんの印象は変化しましたか?

そこまで大きくは変わらないのですが、よりいろんな部分が見えるようになったと思います。もともと感じていた落ち着きや芯の強さに加え、しなやかさや大胆さ、それにユーモアも持っている方だということがわかっていきました。南さんに出会ったときに感じた、彼女のもつ“特別なもの”の正体が、より具体的に理解できるようになったんじゃないかと思っています。

松岡一哲

―― 写真集『水光』は、どのような経緯で制作されることになったのでしょうか。

1年間通して彼女を撮影し、一冊にまとめたファースト写真集が完成したあと、南さんと「また次も、一緒に写真集をつくりたいですね」と話していました。結局、実現までには6年経ってしまいましたが、そのあいだにも、雑誌などのクライアントワークや、僕のパーソナルワークで彼女を撮影する機会は何度かあったので、「この6年間の歩みを一冊の写真集にまとめよう」ということになったんです。それで、写真集に撮り下ろし写真も収録するべく、南さんが「行ってみたい」と言っていたタイを訪れて、撮影を行うことになりました。

2泊3日の慌ただしいスケジュールだったのですが、想定していたよりも、現地でいい写真がたくさん撮れて。最終的には、タイで撮影した写真をメインに収録することになりました。

―― タイのオリエンタルな風景と、南さん独特の透明感との絶妙なバランスがすばらしかったです。現地での撮影の際には、どのようなことを意識されましたか?

いつも撮影の際には“いい瞬間を撮ろう”とがむしゃらになっているので、今回の撮影でも、明確なテーマというのはとくに設けていませんでした。でも、南さんから「タイで撮影してみたい」というリクエストをいただいたとき、タイの独特な湿度や強い光のなかに南さんが入れば、きっと特別な写真が生まれるだろうと感じたので、「土地特有の風景や空気感と彼女がどう響き合うのか、現地で実際に感じながら撮影していこう」と思っていました。

ひとつ、印象に残っているできごとがあって……。飛行機でタイに到着したあと、撮影地へ向かう車に揺られているとき、ユニークな内装の車内に、タイのバンドミュージックが爆音で流れてきたんです。その瞬間まで、撮影チーム全体に少しだけ緊張感が漂っていたのですが、それをきっかけに一気に空気が砕けて。前日までロケで北海道に滞在していたという南さんも、ちょっと一息つけたというか、安心して「楽しもう」という気持ちになれたのが感じられました。まだ撮影をスタートするタイミングでもなかったのですが、車の窓から射し込むオレンジ色の光を浴びている彼女の姿を、僕はつい写真におさめました。それが、「この作品はいいものになる」と感じた瞬間でした。

南琴奈

―― 素敵なエピソードですね。ちなみに、写真集のタイトル『水光』には、どのような意味が込められているのでしょうか。

タイトルをどうしようかと相談しているとき、南さんのほうから、本来形のない水というものが、光の当たった一瞬だけ形を成す、“水光(すいこう)”というアイデアをいただいたんです。僕はもともと、写真というものはその瞬間にしか存在しない光や空気を掬いとるものだと思っているので、その考えにも通ずる、美しいタイトルだと思いました。南さんから提案いただいたあと、「“みずのひかり”という読み方にするのはどうだろう」と、僕のほうからも提案させてもらい、このタイトルに決まりました。

6年間の集大成となる「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」

南琴奈

―― 写真展を『水光』収録写真だけで構成するのではなく、過去に撮影された写真とオーバーラップさせる「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」としたのは、なぜでしょうか?

当初、写真集が6年間の歩みをまとめたものになる予定だったとお話しましたが、展示の構成は、当時の構想にかなり近いものです。タイトルを「2020–2026」としたのも、単純に、2020年から2026年までの彼女を写したものだったから。誇張せず、シンプルに、ここまでの歩みを観てもらいたいと思いました。

―― 出版社から発売された写真集の作品からなる写真展は、なかなか珍しいのではないかと思います。どのように実現されましたか?

たしかに、大手の出版社さんから写真集を発売する場合、必ずしも展示がセットで開催されるわけではないですよね。今回の場合、ファースト写真集からご一緒している編集の澤里さんと、ずっと「展示したいですね」と話していたこともあって、出版社である小学館の方々、僕のスタッフ、そして南さんの事務所の方々など、いろんな方に協力いただき、実現することができました。

僕は写真集の魅力をより深く感じる手段として、写真を展示することがとても大切だと思っています。写真集はページを手でめくりながら観るものだけれど、写真展では空間を歩きながら写真と向き合うことができるので、会場の大きさや、写真との距離感、展示されている写真同士の関係性も含めて、作品を“体験”することができますよね。そのほうが、被写体の存在をより強く感じてもらえるような気がするんです。とくに今回は『水光』の作品だけでなく、6年間の彼女の姿をとらえた写真もあったので、ぜひ展示で観てもらいたいという気持ちがありました。

南琴奈

―― 入口近くの壁に展示されていた、海辺でカメラのファインダーを覗く南さんの写真は、展示のキービジュアルにも選ばれていました。俳優さんを被写体とした写真展で、正面を向いていない構図のものがキービジュアルになるというのは、なかなか前衛的ですよね。

この写真は、タイでの撮影がほとんど終わったあと、彼女がビーチでカメラを構えている姿があまりにも美しくて、慌てて撮影したものです。彼女もカメラを持っているし、僕も彼女を撮っているし、この一枚に“撮ること・撮られること”が共存しているんですよね。実は、ファースト写真集のなかでも、彼女が同じようにカメラを構えている写真があって、その過去と現在がシンクロする感じにも、月並みな表現だけれど、エモーショナルになりました。

この写真をキービジュアルに選んだのは、カメラのファインダーを通して、南さん自身がこの6年を見据えているような印象を受けたからです。キービジュアルにするにはめずらしい構図だと思いますが、南さんや、南さんの事務所の方々も快くOKをくださいました。

南琴奈

―― 物販へ続く通路のような小さな空間には、大きなマグをもち、ややおどけた表情を見せる南さんの額装写真が、1枚だけ展示されていましたね。メインスペースの裏側という配置もあいまって、少しだけプライベートな一面が見られたような感覚になりました。

あの写真は、撮影の合間、ヴィラに置いてあった飾りのマグを持ち上げて、ちょっとふざけている南さんを撮ったものなんですが、写真集に収録するかギリギリまで悩んで、ページの都合上泣く泣くお蔵入りになった1枚なんです。とても気に入っていたので、写真展では絶対に展示しようと決めていました。はじめは、ギャラリーに入ってすぐの場所に配置するつもりだったのですが、実際に会場に展示する段階になると、この写真は裏側にあったほうが良さそうだと感じて、最終的にはこの場所に落ち着きました。

僕は撮影を通して南さんのいろんな表情を見せてもらっていて、彼女が実はひょうきんな人で、ときどきおどけたり、ふざけたりしてくれることも知っていますが、“俳優・南琴奈”にそういうイメージがないという人も、きっと少なくないですよね。実際、この写真を目にした方から「この写真、ほかとはちがうね」「こんな顔も見せてくれるんだ」という感想をいただいたりもしました。奥まったこの場所で彼女のお茶目な一面を観てもらうというのは、構成として、なかなかおもしろかったんじゃないかと思います。

展示でしか味わえないフィジカルな体験が、より大切になっていく

南琴奈

―― 今回の展示では、大判プリント、額装、パネルと、複数の展示方法が採用されており、構成にリズムを感じました。展示の構成はどのように行われましたか?

普段の僕のプロセスでいうと、まず自分の頭のなかで「この壁にはこの写真がいいかな」「ここにはアクリルパネルのほうが合うかな」というイメージを組み立てていき、そのあとに模型で再現してみて、最後に会場で調整していくという流れなのですが、実際の展示にはいろんな制限があったりするので、最終段階ではアイデアのある方々に相談させてもらうことが多いです。

今回の展示でいうと、大判プリントの作品のうち2枚──南さんが上を向いている写真と、青い服を着て座っている写真が、フィルムを印画紙に焼いたものなのですが、大きな額に飾ろうとしたところ、さまざまな問題があり、叶わなくて。「じゃあ、このプリントを傷つけずに飾るにはどうしたらいいか」というのを相談させてもらい、最終的にはクリップで挟んで展示することになりました。

南琴奈

―― 印画紙の大判プリントは、どのように実現できたのでしょうか。

僕がいつもお世話になっているラボの方に、今回の展示についてお話した上で、それぞれの写真をどのように観せるのがベストかを相談したのですが、この2枚に関しては自分のなかで「印画紙でしっかりと観せたい」という気持ちが強くあったので、技術者の方とも直接お話させてもらい、あのサイズにプリントしてもらうことになりました。ラボの方々にはちょっと無理を言ってしまったと思うのですが、実際に展示してみると、あの2枚がすごく“効いている”感じがして。やってよかったなと思います。

―― 今回の写真展では、展示カタログZINE、ステッカー、Tシャツなど、物販もかなり充実されていましたよね。全体を通してデザインには一貫性がありましたが、グッズなどのデザインは、写真集のデザインを担当されたAYA IWAYAさんによるものでしょうか?

はい、AYAさんが担当してくれました。彼女は展示構成も少し手伝ってくれていて、とくに物販のある奥の空間づくりに協力いただいています。写真集のデザインにも物販のデザインにも、展示構成にも、心から取り組んでくれました。

物販にどういうものを出すかは、みんなでアイデアを出し合って決めていきました。今回は、普段写真展をよく訪れるという人だけでなく、南さんのファンの方々も足を運んでくださるだろうと思ったので、ファンのみなさんにも思い出として持ち帰っていただけるようなものがあったらいいね、と。Tシャツやステッカーは、打ち合わせのなかで南さんが提案してくれたものです。

―― 写真集の出版、グッズの制作、展示の準備と、開催までには、みなさんかなり忙しくされたのではないでしょうか。

そうですね。開催までに十分な準備期間があったとは言えないのですが、みんな強い想いを持って、限られた時間のなかで一生懸命やってくれました。南さん自身、「撮影が楽しかった」「展示もすごく楽しみ!」というふうに言ってくれていたし、南さんの想いに応えたい、彼女の6年間をあらわした写真展をよいものにしたい、という気持ちが、この写真展に関わる人たちのなかに生まれたように感じます。もちろん、僕も同じ想いをもって取り組みました。結果として、とてもよい写真展になったと思っています。

南琴奈

―― 最後に、松岡さんにとって、実空間に作品を展示する意義や価値はどのようなものなのか、お聞かせください。

自分のなかで、写真を撮って展示をするというのはとても自然なことなので、そこまで確固たる想いがあるわけではないのですが……。個人的に、今が画面上でいろんなことが完結できてしまう時代だとしても、それだけでは伝わりきらないものはあるだろう、と思っていて。プリントの質感や大きさ、写真同士が立体で響き合う空間、自分の足で歩いて作品と出合う時間といったものは、実空間の展示でないと味わえないものだと思うんです。

作家側の立場でいうと、自分の写真を観ている人の姿というのは、展示会場でないと見られません。僕は展示会場で、来てくれた方々の姿を端のほうから眺めるのが、すごく好きなんです。Webや写真集などだと、自分の写真を観ている人の姿というのは、僕からは見られないけれど、展示だと間近に見ることができますから。感想をすぐに聞けたり、お話したりできるのも、展示ならではの魅力。そういったフィジカルな体験というのは、作家にとっても鑑賞者にとっても、この先、より大切になっていくんじゃないかと思います。

Information

EXHIBITION

「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」
会期:2026年6月20日(土) – 7月6日(月)
営業時間:13:00 – 20:00 (火水 休館日・入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

by Ittetsu Matsuoka

松岡一哲 展示との対話「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」|Dialogue in see you gallery

松岡一哲 展示との対話「南琴奈『2020–2026』写真・松岡一哲」|Dialogue in see you gallery

Jul 06. 2026

Newsletter
弊社、プライバシーポリシーにご同意の上、ご登録ください。

このシリーズのその他の記事

関連記事

ARTICLES

Loading...