さまざまな分野のクリエイターと連携し、ひとつの作品を編みあげる。いわば裏方として作品づくりを支える「編む人」たちに、クリエイティブの美学を伺います。
今回は、プロデューサー・ディレクターのJ.K.Wangさんにインタビュー。
「私が撮りたかった女優展」「私が撮りたかった俳優展」の発起人であり、東京・恵比寿に位置する「see you gallery」のギャラリーディレクターとしても活躍するWangさんに、写真展にかける想いや、作家、クリエイターとの関わり方などについて、詳しく伺いました。
「私が撮りたかった女優展」が生み出す“レジャー”としての写真展

―― 株式会社ギローチェの代表を務められ、写真展のプロデュースや写真集の編集、映像制作やフォトグラファーのマネジメントなど、さまざまな領域でマルチに活躍されているWangさん。キャリアのスタートは俳優業だったそうですが、いつから写真に興味をもたれていたのでしょうか?
恥ずかしながら、俳優業といっても、まったく売れていなかったんですよ。写真を始めたのは「誰も自分を撮ってくれないし、むしろ自分が撮る側になってみようかな」という発想からでした。僕だけじゃなく、売れない役者のなかには、自主映画を撮ったり、自分たちで宣材写真を撮ったり、裏方のようなことを始める人が一定数いたんです。僕もそういう流れで、俳優業と並行する形で写真を始めて、2017年には個展も開催しました。
―― Wangさんが初個展を開催されてから2年後、フォトグラファーが“ずっと撮りたかった”女優を指名して写真を撮るという企画展「私が撮りたかった女優展」がスタートしていますが、第一回目には、発案者でありプロデューサーでもあるWangさんご自身もフォトグラファーとして参加されていましたね。
「俳優業でやっていくのは難しい」と役者の世界を去ったあと、写真家を志したことがあったんです。その頃、恐れ多くも“撮りたい”と思う方がいて、そのうちの1人が、女優展で撮らせてもらった蒔田彩珠さんでした。
おそらく、まだ名も無き“写真家になりたい”人間だった僕が、一人で蒔田さんの事務所に「撮らせてください」と連絡をしていたとしたら、前向きなお返事はいただけていなかったと思います。僕よりもっとすごい4人のフォトグラファーに参加してもらった「女優展」だったからこそ、僕も蒔田さんを撮影するという機会に恵まれました。
―― 「女優展」をきっかけに、Wangさんご自身もフォトグラファーとして躍進することもできたのでは。なぜ“裏方”の道へ進もうと思われたのでしょうか。
この「女優展」が大きな転機になったというか、改めて「自分は作家じゃないな」と感じたからです。そもそも、撮りたいと切望する存在がいたのに、“いつかその人を撮るために写真家としてがんばる”のではなく、僕は写真展をつくって、自分より優れたフォトグラファーを集めて、そのどさくさに紛れて撮らせてもらったわけです。そんな考え方をしている時点で、アーティストじゃないですよね(笑)
それに、いざ蒔田さんを撮らせてもらったら、なんだか満足してしまったんですよ。フォトグラファーとしての一区切りがついた、というか。それに、ほかの4人の撮影に同行したときに得た「これはすばらしい展示になる!」という、企画者としての高揚感も大きかった。それで「次に開催するときには、自分は企画者の立場として尽力しよう」と、自然に心に決めていました。

―― 「女優展」はその後5度にわたり開催され、男性俳優も被写体となる「私が撮りたかった俳優展」、タレント事務所AMUSEのオーディションと掛け合わせた「私が撮りたかった俳優の原石展」といった派生展覧会を生み出すなど、業界を盛り上げる一大写真展となりました。Wangさんは企画者として、今後「女優展」をどのようなものにしたいと考えていますか?
写真展を訪れることって、一般的にはちょっと“シブい趣味”と思われがちじゃないですか。個人的に、そういった空気を変えたいな、と思っていて。たとえば「この写真展を観に行こう」と考えたとして、人と食事したり、買い物したりといった“メインの用事”のついでにちょっと寄ろう、と計画する人が多いと思うんです。そうではなくて、数ヶ月前から「絶対に行く!」と計画して、そのためにスケジュールを組むような、言うなれば昨年開催されていた「大阪・関西万博」のような、ワクワクする用事にしたいんですよ。
僕自身、毎年「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」を観に行っていて、そのために友人と京都旅行の予定を立てて、2日間かけて展示を楽しんだりしているのですが、エキシビジョンが観光につながるのもすばらしいなと感じていて。僕は、いずれ「女優展」も、レジャーとして楽しめるような、大きなものにしたいと夢見ています。

―― 2027年春開催の「私が撮りたかった俳優展」は、会場をひとつのギャラリーに留めず、複数の会場を巡る構成にされるとか。まさしく、展示を“街ごと”に進化させようとしている印象です。
そうなんです。複数のフォトグラファーが参加し、それぞれの“ずっと撮りたかった”俳優を撮影してもらうという、今までと同じフォーマットではあるのですが、1組ごとに会場を変えて多拠点の展覧会とすることで、より“お祭り”のように盛り上げたいと思っています。
それから、「私が撮りたかった俳優展」の派生版として、「私が撮りたかった俳優展 commune」という展覧会も、同時期に開催予定です。これまでの「女優展」「俳優展」では、フォトグラファーの方々には僕のほうからお声がけしていたのですが、「私が撮りたかった俳優展 commune」では公募制をとることにしました。ありがたいことに「『俳優展』に参加したい」と言ってくださるフォトグラファーの方が一定数いらっしゃいますし、そういった方々には僕も想像していないような展示を見せてもらえると期待しているので、僕自身もすごく楽しみにしているんです。
さらにこのプログラムでは、参加者のうち「commune AWARD 2027」に選出されたフォトグラファーに、次回の「私が撮りたかった俳優展」のメインエキシビジョンへの参加が確約されます。この記事をご覧になった方にも、ぜひ応募していただきたいです!
作品のもつ“力”を信じる作家と、一緒に展示をつくりたい

―― 現在Wangさんは、株式会社XICO代表の黒田明臣さん、フォトグラファーの酒井貴弘さんとともに、東京・恵比寿の「see you gallery」でディレクターとしても活動されています。こちらにはどのような経緯があったのでしょう。
きっかけは、黒田さんのSNS投稿でした。XICOがオフィスの引越しを考えられていた時期だったと記憶しているのですが、「現在候補にしている物件で、ギャラリーも営業できそうだ。でも人手などを考えると現実的じゃないかもしれない」というような投稿をされていて。当時、僕は黒田さんとそこまで関係性があったわけでもなかったのですが、恐れ多くも「やったほうがいいですよ! むしろ、人手がないなら、僕がやります」と連絡したんです。XICOにとってまたとない機会なのだから、ぜひ実現してほしかったし、もともと僕はギャラリーで働きたいという想いをもっていたので、僕でよければぜひ協力したいと思いました。
その後、黒田さんは「see you gallery」を始める決断をされて、僕をギャラリーディレクターの一人として参加させてくれました。その後、酒井さんも加わることになったのですが、フォトグラファーであり、展示においてはプレイヤー側である酒井さんが運営側にいてくれるというのは、すごく心強いんですよね。人数的な意味でも、ファウンダーである黒田さんと僕の2人という構図より、3人のほうが意見を出し合ったり、相談したりもしやすくて。現在まで、すごくいい形でやって来れていると、僕は感じています。
―― 2025年2月にオープンした「see you gallery」も、1年半を迎えました。Wangさんはこれまでにディレクターとしてさまざまな展示を支えて来られましたが、大変だったことや、やりがいを感じたことはありますか。
かねてから僕が憧れていた方や、尊敬している方が「see you gallery」で展示を開催されることも何度かありましたが、そういった場合、僕はファンではなく展示を一緒につくる立場として密に関わらなくてはいけないので、距離感というか、ファン側の目線とのバランスを取ることが難しいと感じることはありました。
でも一方で、ともに展示をつくるということは、その作品の秘密に少しふれることができるわけで、それはとても貴重でありがたい機会だと感じています。ギャラリーディレクターという立場だからこそ、尊敬する作家さんのつくり出す作品の、知られざる一面を目にすることができるわけですからね。

―― 展覧会によってWangさんの関わり方は異なると思いますが、昨年4月に開催されていた酒井貴弘さんの写真展「東京路地裏散歩 meets seju」をはじめ、キュレーションや空間デザインといった領域で関わられることもありますよね。展覧会づくりのノウハウは、どのように培われていきましたか。
どこかで専門的に学んだわけではありませんし、とくに何か特別なことをしてきたわけではないんです。でも、もともと僕は写真ファンであり、写真家を目指していた人間ですから、いろんな展示を観に行ったりするなかで展示というものを知っていって、「こういう展示方法はどうだろう」とか「僕だったらこうするかな」とか、いつも楽しみながら考えていました。だから、自分が展示づくりを得意だとは思わないけれど、ノウハウがあるとするなら、大好きな写真や写真展について考えるうちに、自然と身についていったのだと思います。
「東京路地裏散歩 meets seju」に関していえば、来場される方のなかに、写真芸術に興味がある方だけでなく、被写体のタレントさんのファン──いわゆる“推し活”を楽しみたいという方もたくさんいましたから、そういった方々が写真というものに興味をもつきっかけになってくれたら、という思いでディレクションしました。酒井さんの写真はそのままで素晴らしいし、写真展は平面で良いと思っているけれど、少しだけ複雑な空間構成にしてみたり、什器や額などに色の“遊び”を取り入れたり、鑑賞体験として楽しい、可愛いものになるように意識しました。

―― 作家の方と展示をつくるにあたって、普段から意識されていることはありますか?
自分の立ち位置を弁えるというか、出しゃばらないようには気をつけているつもりです。個人的に、空間デザインや音響デザインなどがあまりにも凝っている写真展って、あまり好きじゃなくて。あくまで写真展は写真家のものであり、ほかの部分を手掛けている方の作品のように見えてしまうのはどうなんだろう、と思ってしまうんです。だから「Wangがディレクションした」と見え過ぎてしまわないようにしたい、とはいつも思っていますね。
とはいえ、毎回違う方と展示をつくるわけですから、正解というものはありません。作家さんによってギャラリーの人間に求めることというのは違って、構成まですべて自分で考えたいという方もいれば、相談しながら決めていきたいという方も、「自分では何も決めていないので、助けてもらいたい」という方もいます。それに、作家さんの意図を尊重することは大切ですが、客観的な意見をしっかり述べることも大切。展示にどう関わっていくべきかというのは、その都度考えて、経験していくしかないと思っています。
―― Wangさんはディレクターとして、どのような方に「see you gallery」で展示してもらいたいと思いますか?
作家さんのなかには、自分の作品を信頼している方がいます。自分の作品が、観た人の世の中の見方を変えたり、世界を変えたりするはずだということを信じて、そこに義務感のようなものをもって展覧会をつくる方たち。僕はそういう考えをもつ方をすごくかっこいいと感じていて、自分の写真のもつ“力”を信じている人にこそ、ここで展示してもらいたいと思います。もちろん、ベテランだとか若手だとかは関係ありません。どんなキャリアであっても、作品に対して強固なテーマや譲れない想いをもっている方となら、ぜひご一緒してみたいです。

クリエイターのこだわりにふれたときにこそ、燃え上がる

―― Wangさんは広告制作などのクライアントワークでもプロデュースやディレクションを担当されていますが、案件を受託する立場でクリエイターと接する上で、意識していることはありますか?
クライアントワークでは、クライアントから依頼される側でありながら、フォトグラファーやデザイナーなどにお声がけをする立場にもなり、ひとつの案件で中間の立ち位置となることが多いです。でも、双方からの要望や意見によってストレスを感じたり、板挟みのようだと感じることは、あまりありませんね。クライアントとクリエイターの間で意見が割れることがあったとしても、どちらにも“こうしたい”という望みがあるのは当たり前だと思うんです。だから、中間にいる僕がしっかり対話をして、それぞれのバランスを取らなければ、と思っています。正直、うまくできているかはわかりませんが……。
時には、ものすごく強いこだわりをお持ちで、気質的に柔軟に対応することができないという方もいますが、僕はそういう人と仕事をしても、とくに消耗したりはしないんです。むしろ、そういう方は、それぞれの領域で活躍されている方であることが多いので「その立ち位置までのぼり詰めるくらいの方なのだから、強いこだわりを持っていて当然だ」と感心してしまいます。もちろん、ものづくりをする上ではさまざまな立場の人の意見や要望があるわけで、その人のこだわりだけを尊重することはできませんし、できないことはできないとハッキリ伝えることも、僕の大切な仕事だと思っていますけどね。

―― Wangさんが「一緒に仕事をしたい」と感じるクリエイターは、どんな方ですか?
個性が強めな、変わっている方!(笑) 常々思うんですが、とくに写真家なんて、変わった人じゃないとできない仕事でしょう? ふつうの人間が気づかないところまで目が行ってしまうという方が多いし、だからこそ魂を削りながら、全力で取り組んでいるという方ばかり。その情熱の度合いが強ければ強いほど「素敵だな」と思うし、僕はそういうタイプの人間ではないから、心から尊敬するんです。
もちろん、先ほどお話したように、こだわりが強かったり、情熱のある方ほど、仕事上で接するのは大変だったりもします。でも、僕はそういう“変わっている”と言われている方に好奇心を持ってしまうし、一緒に仕事をしてみたいと思う。アーティスト気質の方の強い想いにふれたときにこそ、僕は燃え上がるし、これからもそういう方のお仕事を間近で見ながら、自分なりにサポートしていけたらと思っています。
Information
EXHIBITION
私が撮りたかった俳優展 2027
開催:2027年春
詳細:https://photograph-actors.com/
NOW ACCEPTING PROPOSALS
私が撮りたかった俳優展 commune 2027 公募受付中
公募受付期間:2026年8月1日(土) – 10月31日(土)
詳細・応募:https://photograph-actors.com/news/?category=all&page=1&article=2026-08-01-commune-announcement

