宮添浩司|編む人たちの美学

May. 28. 2026

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さまざまな分野のクリエイターと連携し、ひとつの作品を編みあげる。いわば裏方として作品づくりを支える「編む人」たちに、クリエイティブの美学を伺います。

今回は、写真集をはじめとしたさまざまな書籍のエディトリアルデザインや、ポスターやフライヤーなどのグラフィックデザインを手がける、宮添浩司さんにインタビュー。自らブックレーベルやブックストアも立ち上げ、紙媒体にこだわり続ける宮添さんに、デザインの美学について伺いました。

Koji Miyazoe

Designer

1979年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、BANG! Design, inc へ入社。退社後はブックデザインを主軸に、グラフィックデザイン全般に携わりながら、写真家小林茂太との写真と本を基軸としたプロジェクト「books cairn」や、建築家滝口聡司とのブックレーベル「aptp books」主宰など、本の周辺で活動している。

レコードジャケットのアートワークに魅せられ、デザイナーの道へ

Stranger「小津安二郎特集」
Stranger「小津安二郎特集」フライヤー

―― デザイナーとして、長年さまざまなクリエイティブに携わってきた宮添さん。デザインというものに興味をもったのは、いつ頃でしたか。

具体的にデザインに興味をもったのは、高校生の頃だったと思います。当時の僕は音楽が好きで、レコードをたくさん所有していたのですが、あるテクノグループのレコードのジャケットが、すごくかっこよくて。友人のお兄さんがデザインの専門学校に通っていたのですが、そのジャケットについて「こういうデザインを考えている、グラフィックデザイナーという職業があるんだよ」ということを教えてくれたんです。そのときにはじめて、自分の好きだった電子音楽とグラフィックデザインというものが結びついて、とても興味が湧きました。パソコンが普及しはじめた時期だったこともあり「自分でもやってみたい」と思い、デザイナーを志すようになりました。

―― 武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後は、デザイナーの坂哲二さんの主宰するBANG! Design, inc へ入社され、その後は独立し、現在もフリーでご活動されていますよね。独立されたきっかけは何でしたか?

事務所に入った当初から「いつかは独立する」と決めていました。それが自然の流れだと思っていたというか、業界的に、ずっと同じ事務所に所属するデザイナーというのが、それほど多くなかったんですよね。よっぽど大手のデザイン事務所であればちがうのかもしれないけれど、個人の事務所も多いし「師匠のもとで学んでから独立する」というような構図が多かったと思います。僕も「いつかはひとりでできるようにならないと」と思っていたので、30歳を迎える頃に坂さんのもとから独立して、フリーになりました。

Stranger「J=L・ゴダール 80/90年代 セレクション」
Stranger「J=L・ゴダール 80/90年代 セレクション」フライヤー

―― フリーになられてからのキャリアの構築はスムーズでしたか?

まったくスムーズではありませんでした(笑)。むしろ、いまだに安定しているとはいえないかも。ひとつの雑誌を丸ごと担当されているようなデザイナーの方とはちがい、定期的に仕事が入ってくるというわけではありませんし、いつどこからお仕事がいただけるか、自分ではわかりませんからね。さすがに、独立した当時よりはお仕事をいただけるようになりましたが、自分としては「ここまでなんとか続けてこられた」という感覚です。

―― デザインの依頼は、どのようなルートで請けることが多いですか? 

独立当初は、それまでに出会った方々が、僕がフリーになったことを気にかけていろんな仕事をくださって、かなり助けてくれました。けれどそれは今も同じで、人との出会いが仕事につながることが多いと思います。活動が長くなるにつれ、出会う人の数も増えていきますし、知り合いの方がべつの方を僕に紹介してくれるようなこともあって、どんどん枝葉が広がっている感じがします。

あとは、僕が仕事でつくったものを見たという方から、突然ご依頼をいただくようなこともあります。ありがたいことですし、つくったものが独り立ちしているように感じられてうれしいですね。

本をつくり、売るところまで担う。ブックレーベル「aptp books」と「books cairn」

木村和平
木村和平『袖幕』『灯台』(aptp books)

―― 近年は、写真集のデザインを多く担当されている印象です。これには何かきっかけがあったのでしょうか。

きっかけといえるのは、2018年に、建築家の滝口聡司さんと共同で、ブックレーベル「aptp books」を立ち上げたことでしょうか。

もともと僕は本が好きだったので「本のデザインがしたい」とずっと思っていたのですが、フリーになってから、“本のデザインができる人”という印象がついていないこともあり、なかなか機会に恵まれることがなくて。それなら自分でつくりたい本をつくってしまおうと思い、レーベルをスタートさせることを決意したんです。そこに、当時すでに株式会社aptpという土台をしっかりともたれていた滝口さんが「一緒にやろう」と声をかけてくださって、いろいろとバックアップしてくださることになり、共同で「aptp books」を立ち上げることになりました。

レーベルから出す1冊目の本は、それまでファッションのお仕事で何年もご一緒していた、フォトグラファーの木村和平さんの写真集にしたいと思っていました。その話を木村さんにすると、ちょうど彼も写真集のデザインを僕に依頼してくれようとしていたようで、『袖幕』『灯台』を「aptp books」から出版することに決まって。そこから、いろんな書店さんに営業したりしたのですが、木村さんが、多くの方々から「作品を観たい」と思われるような作家さんだったということもあり、しっかり取り扱ってもらえたんですよね。そのおかげで、さまざまな方に「宮添は写真集のデザインもできる」と認知していただけるようになっていたのかな、と思います。

―― 1冊目を写真集にしようと思われたのは、なぜですか?

もともと写真集を観るのが好きだったというのもありますし、写真家の方との出会いが多かったというのもありますが、自分と作家さんの2人だけでつくれる本を考えたときに「写真集だ」と思ったんですよね。いわゆる読み物のような文字情報が多く構造が複雑なものだと、僕の編集力だけでは対応できないけれど、写真集や作品集なら、作家とデザイナーという最小人数でつくれるのではないかと思いました。

木村和平『袖幕』『灯台』(aptp books)
木村和平『袖幕』『灯台』(aptp books)

―― 写真家の小林茂太さんと立ち上げられた「books cairn」は、どのような経緯でスタートされたのですか?

「books cairn」は、もともと、小林茂太の写真集をつくって、彼と一緒に売る、という目的ではじめたものです。書店に営業に行くだけでなく、今はさまざまなところでブックフェアが開催されているので、出展して、彼の本を売る。だからこちらはブックレーベルというわけではなく、彼の作品をメイン軸とした“プロジェクト”に近いですね。

小林茂太『imprint matters』(books cairn)
小林茂太『imprint matters』(books cairn)

―― 「aptp books」にも「books cairn」にも共通することですが、本のデザインだけにとどまらず、企画、編集、営業など、宮添さんがさまざまな役割を担っていますよね。

そうですね。そもそも、「aptp books」や「books cairn」に限らず、デザイナーとして写真集や作品集に関わると、本をつくったらそれで終わり、となることはほとんどなくて。だいたい、出版に合わせて展示やイベントが開催されたりするので、本との世界観を統一するために、展示のお手伝いをさせていただくことも多いんですよ。

もちろん、会場を探したり展示の構成を考えたりというのは、作家とキュレーターが担当するわけですけど、フライヤーのデザインなどのビジュアルに関わる部分は、僕に任せていただくことが多いです。というのも、本を制作する時点で、作品への理解度と解像度を高くするために、作家さんとは密なコミュニケーションをとっているので、作品に対して一歩踏み込んだ関わり方をしているんですよね。だから、デザインをしたからそれでおしまい、というのは自分的にしっくりこなくて、できれば売るところまで一緒にやりたいと思っています。

木村和平写真展「石と桃」(Roll)フライヤー
木村和平写真展「石と桃」(Roll)フライヤー

作家との本づくり。デザインの打ち合わせはどのように行う?

公文健太郎『煙と水蒸気』(COO BOOKS)
公文健太郎『煙と水蒸気』(COO BOOKS)

―― デザインのイメージを共有することは簡単ではないと思うのですが、作家の方とはどのように打ち合わせをしているのでしょう。

本づくりに関していえば、基本的につくれるサイズに限度があり大枠は決まっているので、まずは写真やイラストなどの作品を見せてもらってから、「薄い・厚い」「軽い・重い」「小さい・大きい」などの簡単に答えられる選択肢を用意して、ご希望を聞いていきます。そうすれば、作家さんも答えやすいですし、こちらも「この作品なら、こちらのほうが合うのでは」と提案しやすいですから。

それから、その場で、いろんな写真集や作品集をお見せしてみます。「どんな本にしたいか、今はあまり想像できない」という方でも、とりあえずいろんな本を見せて選択肢を提示してみることで「この本よりは、この本のほうがいいかな」と、少しずつイメージの輪郭が見えてくるんです。そこまでお聞きして、ある程度、本の大枠の仕様がまとまってきたら、とりあえず僕が一度形にしてみる。その後、それを見ていただいてから、また細かく打ち合わせしていきます。こういった流れで本をつくることが、今のところいちばん多いですね。

作家さんによって制作にかかる時間はちがいますが、「打ち合わせを重ねても、ぜんぜん決まらない!」ということはあまりなくて、2人で話しているうちに自然とどんな本ができるのか見えてくる、ということがほとんどだと思います。

―― 本をはじめ、紙媒体のデザインをする上では、紙そのものや印刷なども重要となるかと思いますが、素材の選択や印刷の仕方についても、宮添さんが主導されることが多いですか?

基本的には、見積もりや仕様を決めたり、印刷所さんとやりとりしたりという部分は、僕がひとりで担当していますね。作家さんには、最初の打ち合わせの段階で「紙はツルツルか、ザラザラか」などを伺っていて、紙の見本も実際にお見せしています。もしその場で決まらなかったとしても、僕からデザインを提案する段階で、印刷されたものをお見せして、紙についても必ず確認いただくようにしています。紙もデザインの大事な要素のひとつですからね。

公文健太郎『煙と水蒸気』(COO BOOKS)/デザイン 宮添浩司
公文健太郎『煙と水蒸気』(COO BOOKS)

―― 宮添さんがデザインを担当されているのは、本やポスター、チラシなど、紙媒体がほとんどですが、やはり“紙”というものにこだわりがあるのでしょうか。

web媒体もデザインさせていただいた経験はあるんですが、基本的には、紙媒体のみお請けする、と自分のなかで決めています。あまりweb媒体のデザインが得意じゃないというのもあるんですが、単純に、自分自身がwebよりも紙のほうが好きなんですよ。最初に影響を受けたのもレコードのジャケットでしたし、やっぱり本が好きですし。今後も、紙に印刷されるものをメインにデザインしていきたいと思っています。

黒子のように作品を影から支える存在でありたい

宮添浩司
『cairn 003-007』(books cairn)

―― デザイナーとして作家の方々と関わるうえで、ふだんから大切にしていることや、意識していることはありますか?

写真家の方やイラストレーターの方って、“自分の表現”をされていますよね。僕の仕事は、そういう作家の方々の表現されたものと向き合うこと。つまり“他者の表現”のお手伝いをしているわけで、それが作家との明確なちがいだと思うんです。ですから、いわゆる裏方の役割を果たすことがいちばん重要だと思っています。

もちろん、デザイナーのなかには、強い作家性で表現をされているグラフィックデザイナーの方もいます。でも、僕にはそういう力は無くて、作家の方のつくったものをできるだけ良い形で届けることができるよう表に出ずに作品を支えている、黒子的な立ち位置で接するように心がけているんです。

―― デザイナーを志す若い世代の方のなかには、宮添さんのようなデザイナーになりたいと憧れる方も多いと思います。もしそんな方々にアドバイスをするとしたら、どんな言葉を贈りますか。

まずは「一番重要なのは、出会う人たちを大切にすることだよ」ということでしょうか。僕自身、人に助けられたおかげで、ここまで生きてこられたと思っているので。これまでに出会ってきた、まわりにいる人たちのことをしっかり大切にして、もし仕事をいただけた場合にはちゃんと応えられる準備をしておくことが大事だと思います。

僕も経験したことですが、若い頃って仕事がないとほんとうに大変で、ちょっと腐ってしまいますよね。でも、今の時代は自発的にいろんな活動ができるので、「仕事がないと何もできない」とあきらめず、まずは自分でやりたいことをやってみるのも手だと思う。僕のように、本をつくりたいタイプのデザイナーなら、ブックレーベルを立ち上げてみるのもいいんじゃないかな。

デザイナーって、依頼があって初めて成り立つ職業ではあるけれど、個人的には、受け身だけでない部分をつくっていくことも必要なんじゃないかと思っています。自分発信の活動が仕事につながることもあると思うので、とくに若い世代の方には、自分のやりたいことを思い切ってやってみてほしいですね。

by Koji Miyazoe

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May 28. 2026

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