「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊『コマーシャル・フォト』との共同企画。クリエイターを俯瞰視点で見つめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにするインタビュー特集です。
聞き手となるのは、フォトグラファーの酒井貴弘さん。酒井さんのインタビューを通じて、7つの視点から気鋭のクリエイターたちの活動や価値観を深掘りし、その独自性を浮かび上がらせることで、その人の魅力や使命を体系的に解き明かしていきます。
今回は、空間デザイナーの村山圭さんにインタビュー。独自のセンスとユニークなアイデアで写真展の世界観をつくり上げる、村山さんのクリエイターキャンバスに迫ります。
空間デザイナー、エキシビションディレクター。美術館・イベントスペースの空間デザインや、インテリアデザイン、ポップアップショップ、ディスプレイなどの設計・ディレクションなどを手がける。空間デザインを手がけた展示に、瀧本幹也 写真展 「LUMIÈRE / PRIÈRE」(代官山ヒルサイドフォーラム、2024年)、吉沢亮 写真展「FOSS」(代官山ヒルサイドフォーラム、2025年)、「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」(2023,2024,2025年)、クリスティーナ・ロシュコワ 写真展「unbewitched/アンビウィッチド」(PARCO MUSEUM TOKYO、2026年)など。素材が持つ色素や香り、テクスチャを研究するラボを備えたスタジオ「Hyle」を主宰。
1.活動 / アクティビティ

今回は「クリエイターキャンバス」の第8回です。お相手は、空間デザイナーの村山圭さん。贅沢にも、村山さんが空間デザインを手がけた、クリスティーナ・ロシュコワ氏の写真展「unbewitched/アンビウィッチド」が開催されていた「PARCO MUSEUM TOKYO」でお話を伺います!(※現在は会期終了)
よろしくお願いします。
インタビュー前に、村山さんから直々に今回の展示空間について解説いただいたのですが……、細部までほんとうにこだわって、考え尽くされていて。「なんてすごいお仕事なんだろう」と感動してしまいました。
まずは、どのようにご活動をスタートされたのか、お伺いできますでしょうか。
もともと、キャリアをスタートさせる前は、大学と大学院で、建築意匠について学んでいました。でも、設計において必要となる“スケール感”というものが、今ひとつ身についていなくて。今では“1メートルはこれ、10センチはこれ”というスケールが身体化しているけれど、大学生だった当時には、まだなかったんです。「このままじゃまずい。スケールに接している大工さんのところで働いてみようか」と考えていたときに、インストーラーという仕事を見つけました。
インストーラーというのは、つまり展示空間にアートを“インストール”する仕事。世の中にそんな仕事があるというのを知り、実際にインストーラーの方々のお手伝いをしはじめたのが、この世界に入ることになったきっかけだったと思います。
初めて会場構成というものにふれたのは、僕が学生だった当時に大学で講師をされていた、ライゾマティクスの齋藤精一さんから「夏休み中に、バイトしにこない?」と誘われたときでした。「表参道ヒルズ」に映画館のような展示空間をつくるという内容だったのですが、僕も図面を描いたり、空間のユニットとなる棚をたくさんつくったりなどのお手伝いをさせてもらって。そこで、「建築士のライセンスをとらなくても、こういうことができるのか」と初めて知ったんです。

在学中から、すでに今のお仕事の下地ができていたわけですね。
大学に入ったのが20歳だったので、大学院を出たときにはもう26歳になっていたんです。さらに、そのタイミングで東日本大震災が起きてしまって。2011年3月に展示空間をつくる仕事に取り掛かっていて、それまでに就職先が決まっていなかったこともあり「これからどうしよう?」と悩んでいたのですが、4月の頭に、震災で被害を受けた東北地方を支援するチャリティイベントの仕事をいただきました。
そのイベントのプロデュースをされていた後藤繁雄さんに、今後について相談させてもらったら「そのまま独立してやってみたらいいんじゃない?」というアドバイスをくださって。さらにその少し後に「こんな企画があるんだけど」と、「篠山紀信展 写真力」の話をいただいたんです。
いきなりすごい仕事ですね!
この仕事が独立したキャリアのスタートだったわけで、ほんとうにありがたいな、と思います。「写真力」は巡回展だったので、翌年熊本からスタートし、結果的に全国を30箇所以上まわりました。そのあいだに「フリーでもやっていけるかも。もしダメだったら、やってみてから考えればいいかな」というふうに、広く考えられるようになりました。
「写真力」がスタートした頃に、蜷川実花さんが監督する映画『ヘルタースケルター』の写真展や、「伊勢丹 新宿店」のリニューアル前のポップアップのお仕事などもいただきました。展示図面を描く人間だったので、「入稿って何?」「写真のレタッチをするのって、写真家? それとも僕がやるの?」というような、右も左もよくわからない状態だったのですが、「とりあえず30歳まで、がんばって続けてみよう」と思い、試行錯誤しながら取り組んでいました。感覚としては、そのときのまま、いつの間にか現在に至っていた、という感じです。
ちなみに、村山さんのお仕事は、肩書きでいうと何になるのでしょうか。
ひとつの肩書きに絞ってしまうとその仕事しか来なくなってしまうので、「空間デザイナー」という表現でボカしています(笑)。いろんな領域を担当させてもらっていますし、展示づくりに関しても、実際には、設計やインストールだけというのとも異なった仕事をしているので。
展示によっては、キュレーターなしで、僕と作家さんと会場の方のみでつくることもあるのですが、そういうときには展示の進行管理も僕が担当することになりますし、そうでない場合にも、展示空間のデザインだけでなく、必要に応じて作品のプリントまでチェックしているので、デザイナーという枠だけで収まらないときは“展示ディレクター”に近いかもしれません。
展示にまつわるいろんな部分をチェックしながら、今回の「unbewitched/アンビウィッチド」展のように、大胆な空間づくりもされているわけですよね。

そうですね。建築士のようなライセンスを持っているわけではないんですが、個人的には“設計”という言葉を大切にしています。建築を勉強していたこともあり、なるべく図面を描かない仕事はしたくない、と思っているんです。
額のなかに作品を飾るだけというような展示は、ちょっとちがうな、という?
図面を描いてオリジナルの額装をつくっていいのなら、喜んでやります!(笑) 今回の展示でも「15ミリの額をつくって、5ミリのスペースを空けて……」と考えながら、額装づくりをしていました。

村山さんのクリエイティブの美学として、図面を描くことがあるんでしょうか。
図面を描くのもデジタル上ではあるんですが、あくまでドラフティングなので、縮小をかけず、1/1に近いスケールで描くんです。だから「これだと太すぎるな」とか「少し大きいな」とか、リアリティを重視するために試行錯誤することができます。僕のなかで、図面を描くことは、頭のなかで思考することとリアルに手を動かすことのちょうど中間にあって、単純にそれが好きなんですよね。
村山さんは、純粋に、ものづくりが好きという感じがしますね。村山さんが主体で活動されている、さまざまな素材について研究するスタジオ「Hyle(ヒュレー)」についても気になるのですが……。

展示をつくる仕事をしていると、どうしても“つくっては、壊す”のくり返しになってしまいますよね。たとえば、展示空間の裏側の構造となる木のパネル。クロスや紙を貼っていたり、塗装していたりする都合で、表面の部分は使いまわすのが難しく、毎回廃棄することになってしまう。「どうしたら、自分たちが使ったもの、つくったものを、残していくことができるんだろう」と考えてはじめたのが「Hyle」です。
スタートはコーヒー染めでした。札幌にあるコーヒーカンパニー「MORIHICO」の東京でのポップアップの際に「札幌の本店となる森彦を、ポップアップで再現したい」というご依頼をいただいて。そのままではハリボテになってしまうので、店舗の音を採集して会場で流したり、コーヒーの香りを漂わせるほかに、経年変化のような色をコーヒーの“色”で届けてみようと思い、会場の装飾用の布や木を「MORIHICO」のコーヒーで染めてみたのがはじまりです。
そこから派生して、お茶染めや、ワイン染め、泥染めなどにも挑戦してみたり。今年は、京都国際写真展「KG+ 2026」での安永ケンタウロスさんの写真展「漂着する光景 Drifted Presence」に、柿渋染めの和紙も採用しました。
すばらしい。ちょっとアップサイクルな側面もあるんですね。
そうですね。でも、サステナブルな意識からやっているというわけでもなくて、自由研究を楽しんでいるような感覚なんです。染めを通じて色のつくり方を理解することができるので、作家と色校正について打ち合わせるときに、色の振り方の役に立ってくれたりもしますし。どこかから持ってきたものをパズルのように当てはめるよりも、自分で手を動かして研究してみたほうが、その素材のもつ背景を深く理解できて、すごくおもしろいなと思うんです。

2. 専門性・特性 / スペシャリティ

村山さんは、展示のなかでも、とくに写真展を多く手がけられている印象です。
そうですね。写真に特化しているとは言えるかな、と思います。
村山さんのように、写真展づくりにおけるさまざまな部分を担っている方って、業界的にも珍しいんじゃないでしょうか。
そうだと思います。たとえば、会場構成を担当する建築家の場合、写真のプリントまでチェックすることはまれだと思いますし、グラフィックデザイナーの場合、色校正やプリントの紙質などは見るかもしれないけれど、インクジェットにするかUVプリントにするかだとか、素材のちがいだとか、それをどこまで大きくできるのか、大きくしたときに何を気をつけるべきなのか、といった、作品まで横断するテクニカルな部分は、おそらく印刷所のプリントディレクターに任せることが多いと思います。僕はそういった部分まで担当させていただくこともあるので、役割を一言でいうのがむずかしいんです。
プリントされた写真というものに、こだわりをもたれているんですね。

フランスでは、ニエプスが撮影した写真作品を起源とし、『馬を引く男』や『ル・グラの窓からの眺め』が誕生してから、今年で200年を迎えるといわれています。一方日本では、杉本博司さんが「杉本博司 絶滅写真」展の開催を予定されていて、言うなれば、銀塩写真の終焉への一つの道標にしようとしている。
僕が思うに、その理由には、銀塩プリントに必要な素材が希少かつ価格が高騰していて、フィルム文化が過渡期を迎えていることもありますし、精巧なデジタル化が進むなかで写真をモニターで見せる行為が多くなり、写真が映像的になっていって、“物質としての写真”というものが希薄になってしまっていることもあると思います。僕は写真を撮るわけではないというのもあり「写真とは物質として向き合いたい」と思っていて、だからこそプリントや素材にこだわりたくなるのだと思います。
最近では、作家の方と、“紙からつくる”ことにも挑戦しました。去年は和紙の工房に行って、職人さんと手漉き和紙をつくってみたんです。写真はプリントするまで重さがないけれど、支持体があることで質量が生まれます。楮から水が抜けて生まれた和紙に印刷したらどんな重さになるのか、大きさや厚みの違いを実験してみたりして。
すごい! 紙にこだわる方のなかでも、自分でつくるところからされている方というのは、なかなか見ないですよ。

紙のほかにも、いろんな素材で写真作品を表現する、という試みもしています。「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO 2024」では、じゅうたんブランドの「山形緞通」さんご協力のもと、土門拳さんの写真作品をタペストリーで表現してみたり、「大塚オーミ陶業」さんご協力のもと、東松照明さんの写真作品を陶板にプリントする、という挑戦もしました。
おもしろいなあ。自ら手を動かすことって、昔からお好きだったんですか?
学生の頃は、「建築を設計することでどんな未来をつくれるか」というようなアプローチの部分を学んでいたので、どちらかというと、デザインの考え方やコンセプトなど、思考実験的な部分を重視していたと思います。けれど、実際に空間をつくっていく段階になると、リアリティがわからないと全くモノにならなくて。すべての物質の重さや厚みといった、現実世界に生まれるリアリティと直面しなければならないという意識から、「素材を追求する」という視点が生まれたのかもしれません。

web上でも作品を発表できるようになって、モニター越しに鑑賞する機会も増えましたが、こうして展示で作品を観てみると、さまざまな部分にデジタルでは感じられないこだわりが配されていて、そのひとつひとつが作品の世界観を生み出しているのだということがわかります。これって、決してAIにはできないというか、人間だからこそ為せることですよね。デジタル化が進んだ現代にこそ、村山さんのようなクリエイターが必要だと感じます。
3. 使命 / ミッション

活動される上での目標や、成し遂げたいと思うことはありますか?
ヨーロッパなどの展示だと、作家やキュレーターとともに、展示全体をデザインする“セノグラファー”がクレジットされることが多いのですが、日本ではそれに特化された方はあまり見かけないですよね。でも、コロナ禍前後から、展示空間の専門家という職能が、国内にも少しずつ認知されてきている印象があるんです。
今までこの職業は、複数の役割をオーバーラップするような領域にあったかもしれないけれど、「展示空間をつくりたい」と思う人が増えていって、ひとつの文化に発展、成長してくれたらいいなと思っています。成し遂げたいこととは、ちょっとちがうかもしれないけれど。
すばらしい!
会場構成(※1)というと、展示空間をつくったら、作品自体の取り扱いは作家とキュレーターに任せるという“橋渡し”的なニュアンスが強かったと思うのですが、それだけではなく、プリント方法を考えたり、紙をつくったり、額装したり、今回の「unbewitched/アンビウィッチド」展のように、作家の背景を汲み取って、床にグレーの人工芝を敷いてみたりといった、作品のコンセプトと展示をかけあわせる“展示構成(※2)”というものが、もっと浸透したらいいなと思います。
(※1 既存空間を展示に合わせた場へ設計する建築的なアプローチのこと)
(※2 展示作品そのものの設えや素材を考えること、また展示空間に作品を配置するレイアウトや方法について設計すること)

叶うならば、僕も、いつか村山さんと一緒に写真展をつくってみたいです。村山さんが関わられた展示を見ると、作品が立体的になっているというか、作品の世界観が拡張されているような印象を受けます。僕はこれまでに展示ディレクターの方にお願いした経験もないので、写真というものがこんなに進化できるというイメージを持っていなかった。「村山さんに展示構成をお願いしたら、自分の写真はどんなふうになるんだろう」と考えると、すごくワクワクします。
ありがとうございます。実際、展示経験の少ない写真家の方とご一緒することもあるのですが、大きな会場で初めて作品を展示するというときに、僕がお手伝いすることで、安心感をもってもらえたらいいなと思っています。「自分の写真は、こんなに大きくプリントしてもいいものなんだ」と知ってもらいたいし、おもしろい空間で写真を展示するという機会を、どんどん増やしてもらいたいですから。
4. 顧客 / クライアント
仕事をするお相手というと、多いのは、作家、キュレーター、イベントプロデューサー、ブランド担当者、などでしょうか。どのようにアプローチされていますか?
実は僕、あまり営業をしたことがないんです。その昔、後藤さんに「仕事って、どうすればもらえるんですか?」と聞いたことがあるんですが、そのときに「いい仕事をすれば、それが次の仕事につながっていく。だからまずはひとつの仕事に集中するんだ」という教えを受けて、これまでずっとそれを大切に意識してきたのですが、ありがたいことに、ほんとうにその通りになっていますね。
あとは、「T3」のような大きなフェスティバルに関わると、一気にたくさんの方と出会うことになるので、そのつながりで、その後展示のお仕事などをいただくことも多いです。
5. 接点 / チャネル

村山さんは、過去のお仕事の記録を、Instagramに投稿されていますね。SNS経由で依頼の連絡を受けることもありますか?
ありますね。Instagramって、フォロワー以外の方には、フィード投稿のほうが多く見られるので、これまでに担当させていただいた展示と、その展示をつくっていた当時考えていたことを整理した文章を、フィードに投稿するようにしています。なかなか時間がかかるので、ぜんぜん追いついていないのが現状ですが……。
投稿を考えているときにも、べつの展示の準備に取り掛かっているわけで、なかなかむずかしいですよね。でも、キャプションまでしっかり書かれていて、アートワークのアーカイブスペースとしてInstagramを利用されているのが、すごくいいなと思ったんですよ。気軽に見てもらえるものではないけれど、村山さんのこだわりをしっかり知ってもらうことができるから、コミュニケーションの形としてすばらしいな、と。
個人サイトをアーカイブのためにもっている方も多いですが、村山さんはつくられていないんですよね?
いろんな方から「つくりなよ」と言われるんですが、いまだにもっていないんです。
というのも、僕の仕事って、作家ありきのものじゃないですか。僕が空間デザインをしていたとしても、展示されている作品は、作家のもの。だから「どこまで自分のつくったものとして発信していいんだろう?」というのが、なかなか悩ましいところで。Instagramは写真をキャプションとともに投稿できるからいいけれど、同じように自分が“どう関わっていたか”“何を考えてつくっていたか”を個人サイトで表現できる方法というのが、今ひとつ思いつかないんです。それで、サイトづくりは、つい後回しにしてしまっていますね。
たしかに、展示において、まず最初に名前が出るのは作家ですもんね。展示構成においては、作家と共作している部分も多いと思いますが、それを前面に出すのは、村山さん的には違和感があるのでしょうか。
展示って、メディアのひとつだと思うので、作家側に寄り添ったものであるべきだと思うんです。それは、篠山紀信さんの「写真力」展のときに強く感じたことでもあります。
当時、たくさんの方が「写真力」展に来場してくださいました。でも、それは僕が会場構成を担当したからというわけではもちろんなくて、篠山さんの撮った作品がそこにあったからですよね。僕は、いわば作品を飾る場を設えただけ。作家と作品がどう観られるか、どう残していくかというのを考えるのが僕の仕事なわけで、前に出ない“影”として展示を支えていくべきだと感じたんです。
今では、たとえば瀧本さんのような方がお相手であれば、一緒に前に出ているような見せ方をすることもありますが、基本的には裏方として、作家や作品を輝かせるお手伝いをしたいと思っています。

6. 自己投資 / インベストメント
村山さんって、ほんとうにすばらしいセンスをお持ちじゃないですか。ふだん、どんなふうにインプットをされているのか、気になります。
先ほど「Hyle」でさまざまな自由研究をしているとお話しましたが、ふだんから染めものや紙づくりなどの実験的なことをよくしていて、それがインプットになっているのかもしれません。
手を動かすことが、インプットになっているんですね。
最近、「KG+ 2026」の「漂着する光景 Drifted Presence」のインビテーションに同封する作品をつくらせていただいたのですが、これにも実験的な部分があって。今までの経験からある程度和紙を扱えるようになってきたこともあり、中央の部分にだけエンボス加工を施して、そのままどこかに飾れるインビテーションに仕上げてみたんです。手作業だったので、あまり数は用意できなかったんですけど。
えっ! エンボス加工を、手作業でされたんですか?

そうです。カットしたMDFをエンボスの木型にして、いい塩梅で押せるように少しずつ厚みを調整しながら、自分の手でギュギュッと押して。おかげで、今も手の痛みが治りません(笑)
すごすぎる……。職人ですね。
誰に頼まれたわけでもないのに、僕自身が好きだから、ついやっちゃうんですよね。
「unbewitched/アンビウィッチド」展でいうと、額装されていない小さな写真には、アルポリックの裏打ちパネルを採用しましたが、小口に3ミリのテープを貼っているんです。アルポリの小口って、薄いアルミで発泡スチロールを覆うのが一般的なのですが、「テープを貼ったほうが見え方がきれいなんじゃないか」と思ってしまって。「こんな細かいところまでこだわって、誰得なんだろう」と思ったりもしますが、僕にとってはやっておきたいことなんです。

そういったディテールのこだわりが、展示のクオリティをグンと上げている感じがしますよ。
村山さんは、ほかの方が空間デザインを担当された展示を観にいくことも多いですか?
しょっちゅう行きます。一昨日も観にいったばかりです。それは布の展示だったのですが、正面からは布を突っ張らせる道具が見えないように工夫されていたり、布を吊るためのパイプが影を落とさないように透明にされていたりと、すごく細かい部分までこだわられていたんですよ。全体的にも作品と会場が混じり合ったいい構成だったなぁ。
やっぱり、職業病というか、展示構成のほうにも注目してしまうんですね。
そうですね。もちろん作品もしっかり鑑賞していますが、つい「どんなふうに展示されているんだろう?」と気になって、横からも覗きたくなってしまう。そして「細かくつくり込んでいる」と思わされる展示構成に出会ったときには、自分になかった部分なので悔しくなる一方で、「この人の気持ち、すごくわかる!」と共感したりするんですよね。
そういった、ほかの方がつくられたものに対して「こういう意図でやっているんじゃないか」と気がつけるのは、知識と経験があってこそですよね。僕なんか、きょう村山さんにお話を伺いながら、「今まで展示で『なんか素敵だなあ』と思う“何か”には、ちゃんと理由があったんだな」と思ったくらいです(笑)
知識としては、自分が展示をつくった経験で蓄積している部分もありますし、ほかの展示を観にいって学んでいる部分も多いです。展示情報は常にチェックしていて、気になるものがあれば、なるべく足を運ぶようにしています。
7. 幸福 / ハピネス

最後にお伺いしたいのですが、村山さんが幸福を感じるのは、どんなときですか?
これは難しい質問ですね……。でも、自分の活動当初に立ち返って考えてみると、展示の初日に、お客さんの「わぁ!」と驚く表情が見られること、かもしれません。
篠山さんの「写真力」展のとき、レセプションでは好感触を得られたけれど、いざ一般のお客さんに観てもらうときに「ちゃんと届くだろうか」と不安になったんです。でも、開幕初日のお客さんの表情を見たら、ちゃんと伝わっていることがわかって、すごくうれしかった。僕は「展示は作家のもの」と思っているけれど、やっぱりお客さんが来てくれないと成立しないですし、観に来てくれた方に何か影響を与えられるもの、心のどこかに残るものをつくれたなら、それが一番幸せだと思います。
先ほど「展示はつくっては壊すのくり返しになる」とおっしゃっていましたが、どうしても会期というものは発生するわけで、村山さんがつくった空間も、そのたびになくなってしまうわけじゃないですか。でも、観た人の心には「すごかったな」「きれいだったな」と残るわけで、まるで花火のような、刹那的な美しさがあると感じます。
ほんとうにそうですね。中には、たった2時間のイベントのために空間をつくることもありますから。
建築だったら何十年も保つものをつくらないといけないけれど、展示ではその会期中に保てばいいだけという面もあって、強度などの制約からはかなり解放されます。だからこそ、よりおもしろいことに挑戦できたりするんですよね。たとえ同じ会場であったとしても、作品や会期によって、まったくちがう空間をつくることができたり。
僕、「代官山ヒルサイドフォーラム」で開催されていた瀧本さんの「LUMIÈRE / PRIÈRE」展で、天井に作品が展示されていたのが、すごく印象に残っているんですよ。あの鑑賞の仕方は忘れられないなあ。

ありがとうございます。これは、瀧本さんとの打ち合わせのなかで生まれたアイデアなんですよ。裏動線を視察した際、ホールを壁で閉じることができるとわかったので「ここでおもしろいことができそう」と話していたのですが、瀧本さんが「天井をかけてみよう」と提案してくれて。最終的には天井、壁、床のすべてを真っ白な空間で包み込み、天井に作品を展示して、来場者の方には寝そべって鑑賞してもらう仕様としました。
完成形ももちろん気に入っていますが、つくっているときが一番楽しかったですね。天井や壁をつくって運び込んで、ホールの天井から造作した天井を吊り上げる瞬間、その場にいた全員が「すごい!」「なんだこれ!」と大興奮したんですよ。「代官山ヒルサイドフォーラム」のホールが、ふだんとはまったくちがう姿に変わったあの瞬間は、ほんとうに感動的でした。
僕も「代官山ヒルサイドフォーラム」を訪れたことはそれまでに何度かありましたけど、「こんな空間、あったっけ?」と驚きましたし、感動しましたよ。作品を“観る”だけではなく“体験する”仕掛けをつくっているところが、村山さんらしいですね。
床には、白いパンチカーペットの下にズレどめのプラダンを敷いていたのですが、靴を脱いでカーペットに上がったとき、プラダンが身体の重みでほんの少しだけ“カシュッ”と下がるので、「まるで新雪を踏んでいるようだった」という感想をたくさんいただきました。展示している作品が雪山の写真だったというのも相まって、特別な鑑賞体験を提供できたと思っています。
こんなふうに、自分が楽しいだけでなく、お客さんも楽しんでくれる展示をつくれたときは、やっぱりすごくうれしいですね。いいものを届けられると、そのぶんそれが次へのハードルにもなるけれど、これからもおもしろい展示をつくっていきたいです。

Information
EXHIBITION
瀧本幹也 LUNATION 朔望 -海から天体を読む
MIKIYA TAKIMOTO LUNATION Listening to the Cosmos through the Sea
会期:2026年9月2日(水) – 11月8日(日)
休館日:月曜日(9月21日、10月12日は開館)、9月24日(木)、10月13日(火)
開館時間:10:00-17:00(入館は16:30まで)
料金:一般:1,200円(1,100円) 大学生:1,000円(900円) 市内在住65歳以上:600円(500円)
※高校生以下、障がい者およびその介護者は無料
※( )内は前売り券および20名以上の団体料金
※前売り券の販売期間:9月1日(火)まで販売[販売場所:茅ヶ崎市美術館、茅ヶ崎市民文化会館(休館日を除く)
会場:茅ヶ崎市美術館 展示室1・2・3
住所:〒253-0053 茅ヶ崎市東海岸北1-4-45
会場構成:村山圭
https://www.chigasaki-museum.jp/exhibition/10257/

