山根悠太郎 展示との対話「44」|Dialogue in see you gallery

Oct. 01. 2026

Yutaro Yamane

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東京・恵比寿の「see you gallery」での、写真家・山根悠太郎さんによる写真展「44」。

会場に展示されたのは、山根さんが数年間の中で写真におさめてきた、日常の何気ない瞬間たち。ともするとすぐに記憶からすべり落ちていきそうな些細な景色たちは、等しく羅列されることによって、そのかけがえなさを浮き彫りにしています。

今回は山根さんに、「44」の制作背景や、作品にかける思い、写真との向き合い方などについて、詳しく伺いました。

Yutaro Yamane

Photographer

1998年生まれ、島根県出身。2018年より東京祐氏に師事。2021年4月に独立。自身の作家活動の他、ポートレートを中心にファッションをはじめ、ジャンルを問わず活動している。

日常の些細な瞬間をピュアにしたためた「44」

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 大学生時代から写真を撮り始め、やがて退学して写真家の東京祐さんに師事したという山根さん。パーソナルワークとしての写真に取り組みはじめたのは、いつ頃でしたか。

アシスタントをしていた当時から個人的に写真を撮ってはいましたが、師匠が忙しい方だったというのもあって、突然休みができたときに日常の風景を撮り溜めることで、自分なりに写真と向き合っていた、という感じでした。どちらかというと、僕は、作品づくりに意識的に取り組むタイプというより、日常の隙間で私写真を撮影するようなタイプなんです。

個人的に、日常の中で撮影したスナップを作品とはとらえていなくて、あくまで日々の些細な記録の連続なのだから、ドキュメンタリーやアーカイブの意味合いが強いと思っています。けれど一方で、それらをプリントしたり額装したり、物体として展示したときに、有機的な作品になり得るのかな、とも思っています。なので僕のなかでは、作品と私写真との境というのは、とても曖昧なものです。

―― たしかに、「44」で展示されている写真も、日常の何気ない風景がほとんどでした。山根さんの日常において、写真を撮ることは欠かせないものなのでしょうか。

そうですね。とはいえ、日々「撮らなければ」と意識しているわけではなくて、写真を撮るということが、もはや食事を摂ることのように当たり前になっているように思います。シンプルに、写真というものが好きなので。

―― 私写真を作品に落とし込む上で必須となるセレクト作業は、どのように行われましたか?

今回の場合はちょっと特殊で、「see you gallery」での展示のお話をいただいてから、まずは写真集をどうつくるか、というところから始めたんです。

写真集のデザインは、デザイナーであり、フォトグラファーでもあるNatsumi Itoさんにお願いしたのですが、セレクトの段階から、思い切ってItoさんにお任せしてみました。今回の写真は、アシスタント時代を含めた8年ほどのあいだに撮影したものなのですが、僕のプライベートなシーンで撮った写真がほとんどだったので、単に僕が好きな写真をセレクトしていくだけだとナルシシズム的な作品になってしまうような気がしましたし、ある程度客観的に選んでもらうことで、鑑賞者の方にとってもどこか親しみや懐かしみを感じられる作品にできるのでは、と思ったんです。

実際、Itoさんのセレクトや構成はとても素晴らしくて、僕のほうでは一枚も差し替えを行いませんでした。セレクトされた写真たちを眺めながら、「この写真、撮ったなぁ」と懐かしくなったり、自分でも「尊い日々だな」と愛しく感じたりして。これも、ほかの方にセレクトをお願いすることの大きな魅力だと思いました。

展示する写真に関しては、Itoさんがセレクトしたものを参考に、僕のほうで感覚的に選んでいます。

―― 写真集も展示も、ほとんどがモノクロ写真で構成されていましたが、日常的にモノクロで撮影することが多かったのでしょうか?

毎日モノクロで撮っていたわけではなかったのですが、単純にモノクロ写真が好きなので、カラーよりも多めになっていますね。昔から、とくにモノクロフィルムで撮る写真が好みだったのですが、アシスタント時代にはフィルムを買えるような余裕がなくて……。当時は「FUJIFILM X-Pro2」を愛用していましたが、フィルムシミュレーションの中に、高級モノクロフィルムの「NEOPAN ACROS」を再現した「ACROS」というものがあって、それを気に入って使用することが多かったです。

独立して多少写真にお金がかけられるようになってからはフィルムカメラでも撮影するようになりましたが、最近はLeicaのモノクロ専用デジタルカメラで撮影することが多いですね。とくに自分の中ではフィルムとデジタルの境界線というのはなく、今回の展示や写真集に採用した写真にも両方が入り混じっています。

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 写真集と展示のいずれにも、カラー写真が数枚だけ差し込まれているのが印象的でした。こちらにはどのような意図がありましたか。

こちらもItoさんのアイデアです。僕からItoさんへお送りした写真にはモノクロが多かったのですが「カラーも素敵だったので」と、一部写真集に採用してくださって。たしかにできあがったものをみてみると、正しい表現かはわからないのですが──甘いものを食べている途中にしょっぱいものをつまむような、そういう類の“おいしさ”があるような気がして、展示にも取り入れてみることにしました。

そもそも、今回の展示をモノクロのみで構成してしまうと、なんだかストイックすぎるというか、突き放した印象になってしまうかなという懸念がありました。僕は自分の作品にそこまでの特異性を持たせたくはなくて、見てくださる方には、難しく考えすぎずに楽しんでほしいと思っているんです。そういう意味でも、カラーを差し込むというのは効果的なアイデアだったように思います。

―― タイトルの「44」には、どのような意味が込められていますか?

正直なところ、今回の作品には、明確なテーマのようなものは設けていません。僕の日常の些細な瞬間を素直にしたためただけのものなので、ぴったり当てはまるような言葉も見当たらないんです。

写真展は、写真という言葉のない表現に、言葉をつける行為になり得ると思っていて。言葉では表現できないものを説明するということに、なんとなく違和感をもってしまったんです。それなら僕の好きな数字をタイトルにしてみようと思って、今回のタイトルは「44」としました。読み方は自由ですが、僕は同じ数字が2つ並んでいるという“記号”のようにとらえていて、個人的に「44(よんよん)」と呼んでいます。

日々の何気ない時間こそ、儚くていとおしい

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 今年、写真家として独立5周年を迎えられた山根さん。個展の開催には、その節目を記念する意味合いもあったのでしょうか。

いえ、そういうわけではないんです。商業写真でお仕事をさせてもらっているということもあって、この5年間は「自分の写真はどう見えるのだろう」「写真家として何を求められているだろう」と考えすぎてしまっていて、なかなか個展開催に踏み出せなかったというだけで……。今ふり返ると「もっと自分のやりたいことをシンプルにやってみるだけでよかったのに」と思いますし、結局こんなに時間が空いてしまったことに、ちょっとくやしさも感じます。

今回の個展開催のきっかけは、今から1年ほど前、see you galleryディレクターのJ.K.Wangさんにお声がけいただいたことだったのですが、それが自分の写真に改めて向き直る機会にもなりました。

ちょうど自分の写真表現に悩んでいた時期だったこともあり、とある大先輩のフォトグラファーの方に相談させていただいたのですが、その際に「山根くんはこの業界でプロフェッショナルとして活動しているのに、すごく素直な写真を撮るよね」と言っていただけて。その“素直”という言葉が自分の中でもしっくりきて、ならばもっと自分の写真に素直になろうと思い至りました。そのときから、少しずつ作品の輪郭が見えてきたように思います。

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 「写真家として何を求められているのか」という意識からも、少し距離を置くことができたのでしょうか。

そうですね。「どう見られたいか」という評価的な意識から、「どう伝わってほしいか」という意識に変化していきました。僕の写真は、アンリ・カルティエ=ブレッソンやロベール・ドアノーの作品のように決定的な瞬間を収めたものではないけれど、忙しい日々の中で忘れてしまう瞬間を再発見してもらえるものになれたら、と思うようになったんです。

楽しいことや悲しいことは頭の中に残りやすいけれど、日々何気なく過ごしている時間の記憶は、とても曖昧ですよね。けれど、そういう時間こそ、改めて目を向けてみると、いとおしかったり、懐かしかったりするものだと思います。僕の作品がそういった記憶を呼び覚ますきっかけになれたらいいな、と思いながら、「44」をつくっていきました。

―― 「44」の写真は数年間のさまざまな日常の中で撮られたものだそうですが、どの写真も等しく尊いものとして展示されているように感じました。

今回の展示では、そういった感想をいただくことが多かったです。「写真との距離感が一定なんだね」と。たしかに、僕が撮影するときの意識はいつも同じというか、一線上にあります。「被写体が人物だから丁寧に撮らないと」と思うことも、「風景だから美しく撮ろう」と思うことも、特段ないんです。けれど自分ではそのことについて無意識的だったので、感想をいただいたことで「ああ、そうなんだ」という気づきをもらえました。

写真展は作品を“見る”というより“感じる”ことができるもの

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 本展では、ギャラリーのメインスペースに、通常時にはないパーテーションが新たに設けられ、奥まったコンパクトな空間が2つ生まれています。このような空間構成としたのはなぜですか? 

これにはいろいろな背景がありまして……。展示を開催する前には、作家からギャラリーへ展示計画を提出する必要があるわけですが、図面のPDF上ではうまく想像しきれなくて。期限までに提出することはできたのですが、実際に設営日を迎えるまで「これでよかったのかな」とモヤモヤしていました。

いざ当日を迎え、設営メンバーで図面を確認しながら「さあ、設営を始めますか!」という段になって、僕が「すみません、この展示計画を破棄してもいいですか。今からもう一度、考え直します」と無茶を言ってしまって。そこから改めて、現地で展示計画を練り直しました。

パーテーションをあの場所に設けたのは、僕自身が狭い場所が好きなので、ほっと落ち着けるようなスペースをもうひとつつくりたいと思ったから。「ギャラリーに入ってまず目に入るパーテーションは固定のものだけれど、その裏には狭い展示空間がある。じゃあ、このトイメンにもうひとつ同じ空間をつくれないだろうか?」と思って確認してみたら、ちょうど梁があるのがわかって。実際にはめ込んでみたら、気持ちよくフィットしたんです。この空間をつくることで、入口のガラス越しにも作品がうっすらと見えるようにもなって、すごく気に入っています。

―― あの凝った構成を設営当日に考えられたとは、驚きです。

ふだんの商業写真のお仕事でも、限られたシチュエーションで写真を撮らなければならないことはよくありますが、そんなときに「この状況で自分らしい写真を撮るには、どうすればいいか」と考える感覚と、少し似ていたんです。

設営の際にもWangさんに「今からは、ジャジーにいきましょう!」と言った記憶があります。無茶なお願いをしてしまったと思いますが、Wangさんは歓迎してくださり、本当に助かりました。Wangさんご自身もロジックというより感覚的なタイプの方だと思うのですが、僕の提案に対して「いいですね!」「おもしろいと思います」と背中を押してくれたので、今回の構成を実現することができました。

山根悠太郎
『44』展示風景 courtesy of see you gallery

―― 空間構成を設営当日に変更されたということは、写真の配置も変えられたのでしょうか。

そうですね。事前の展示計画は、何一つとして反映されていません(笑)。

当日は、まず、雲の大きな写真が飾ってある面から考えていきました。A0の大きな写真に関しては、感覚的に「このあたりかな」と置いていったのですが、額装写真を二列に配置するのはWangさんのアイデアです。

額装写真は、雲の下手にある4点から配置を考え始めたのですが、「間隔は何cm空けますか?」と聞かれたときに、「44」というタイトルにちなんで「4cmで」と冗談混じりに答えたんです。そうしたら、それが思いの外、良くって。それでそのあとの配置も、基本的には4cmの間隔を空ける形で統一しました。

―― まさにジャズセッションのように、即興で考えていったのですね。

展示構成って、正解がないじゃないですか。僕の展示を見て「素敵」と思う人もいれば、「大したことないな」と思う人もいると思いますし、どうにか自分を信じてやらないと、結局は他者の評価を意識するだけになってしまう。だから「自分が“良い”と思ったんだから、これでいいんだ」と割り切ってつくっていきました。

―― 空間構成は設営当日に練り直したということですが、プリントに関しては、当初の展示計画通りに行われたと思います。展示写真のプリントサイズはさまざまですが、どのような基準で決めていきましたか?

A0の写真に関しては、小さい状態だと至極普通の写真だと思うものを選びました。例えば雲の写真ですが、L判プリントで見たら、なんとなくなじみのある写真に感じると思うんです。もっといえば、Instagramに投稿されたものをスマホの画面越しに見ただけでは、この写真の良さはほとんど伝わらないと思います。A0サイズで見るからこそ、雲の美しさが表現できるのではと思いました。

物販の通路へと続くパーテーションの裏には、妻の写真をA0サイズでプリントしたものを飾っていますが、写真のなかで、妻は指先でクローバーをつかんでいるんです。でも、撮影したLeicaのデジタルカメラが、35mmの単焦点レンズなのに最短撮影距離が1mというシビアなもので、うまく手元にピントが合わなかったんですよ。ピントをしっかり合わせてクローバーを撮りたいというよりは、妻と過ごしたこの時間を記録したいと思って撮ったものではあるのですが、この写真を小さなサイズで展示したら、きっと「なんだこれ?」と思われるはず。反対に、こんな失敗未満の写真をあえて大きく展示してみたら、見た人はどう受け取ってくれるのだろうと、ワクワクしながら大判にプリントしました。

Yutaro Yamane
『44』より photo by Yutaro Yamane

―― 一方、小さいサイズにプリントされた写真は、大胆な余白を持たせて額装されていますね。

こちらは、写真集のデザインからヒントを得たアイデアです。写真集は縦長なので、横向きの写真を1ページに収めたときに余白ができるわけですが、これを展示でも採用してみようと思いました。何が写っているのかわかりにくい写真を、さらにぐっと踏み込んで鑑賞しないとわからないサイズにプリントして、余白をもたせてみる。これには、見た方々に“何かを感じる余白”を与えられるのでは、という意図も含まれています。

―― 額にアルミフレームを選ばれたのは、なぜでしょうか?

木製の額縁には独特のあたたかみがあるので、日常写真ばかりの今回の展示で採用するには、ホーム感が出過ぎてしまうように感じたんです。私写真を作品として展示する上で、それはあまりにも普通すぎる、と。それに、僕の写真を見て「あたたかい」と思う人もいれば、悲しく見えるという人もいるはずですから、それならばできるだけフラットなものにしようと思い、シルバーのアルミフレームを選びました。

――  最後に、Web上で気軽に写真作品が鑑賞できるようになった現代において、実空間の写真展で作品を見せることにはどのような価値があると思うか、山根さんにとっての展示の意義とは何か、教えてください。

僕は個人的に、画面越しに見る写真というのは“数字以上、写真未満”だと思っています。写真を見ているというよりは、データを見ているのに近い。やはりプリントされて、具現化した写真を見るほうが、心の広がりというのは豊かだと思います。

例えば、今回の会場であるsee you galleryでいうと、中に入るとすごくいい香りがするんですよ。僕はこの香りすらも空間演出になり得ると思っていて、五感を使って展示を“体験”することによって、より記憶に深く根付くのではと思っています。写真は静止画だけれど、それを思い出したときに香りが蘇れば、たちまちその場所に帰ることができるでしょう? 写真を“見る”というより“感じる”ことができるからこそ、僕たちはこういった場所を借りて、写真を展示したいと思うんじゃないでしょうか。

Information

EXHIBITION

44
会期:2026年9月12日(土) – 9月28日(月)
営業時間:13:00 – 20:00 (火水休館日・入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

by Yutaro Yamane

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Oct 01. 2026

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