ビジネスとクリエイティビティが交差する株式会社XICOによるYouTubeチャンネル「Akiomi Kuroda by XICO」。XICOの代表であり、恵比寿のギャラリー「see you gallery」のオーナー・ディレクター、そして写真家でもある黒田明臣が、クリエイティブに携わるさまざまなゲストを迎え、ゆるりとトークをくり広げます。
今回ゲストに登場したのは、玄光社・月刊『コマーシャル・フォト』編集長、長田京太郎さん。広告専門誌の“今”と“これから”について、お酒を片手に語り合った対談の模様をお届けします。
Kyotaro Nagata
Editor
熊本県出身。2015年に玄光社に入社し、『CMNOW』編集部を経て、2023年2月より月刊『コマーシャル・フォト』編集部に所属する。同年8月には編集長に就任。横山結衣1st写真集『未熟な光』、市川美織2nd写真集『果汁29%』、鳴海唯1st写真集『Sugarless』など、写真集も多く手がけている。
Akiomi Kuroda
Founder of XICO
株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。
100周年を前に変革期を迎える玄光社と『コマーシャル・フォト』
今回は、僕が日頃からお世話になっている、玄光社『コマーシャル・フォト』編集長の長田京太郎さんにお越しいただきました。まずは「玄光社とは」というところからお伺いしてもいいですか?
玄光社は、1931年に創立し、今年94年目を迎えた老舗の出版社です。今ご紹介いただいた『コマーシャル・フォト』(以下、コマ・フォト)と、映像系のコンテンツを扱う『ビデオサロン』、イラストレーターさんをご紹介させていただく『イラストレーション』という 3つの定期雑誌を中心としながら、書籍やムックをはじめ、いろんな本を出させていただいています。最近でいうと『忍たま乱太郎』シリーズが、弊社空前の大ヒットコンテンツですね。
ジャンルがかなり幅広いですよね。個人的には、“クリエイター”や“広告物”といった専門誌のイメージが強いですが……。
そういったイメージを持たれることのほうが多いので「こんな本も出してたの?」とよく驚かれます。おかげさまで弊社は2026年で創業95周年を迎えて、 2031年に100周年を迎えることになるので、会社としても大きな変革期となっているんです。この機会に、玄光社らしいことをやりつつも、新たに「玄光社ってこんなこともやってるんだ」と思ってもらえるコンテンツも積み上げていこうと、いろいろと画策中です。
社員の平均年齢も下がってきていて、20〜30代の社員も増えているんです。そういった若い世代が、どんどん新たにやってみたいことに挑戦できる環境を、うまくつくっていきたいですね。
老舗の会社なのに、すごいことですよね。そもそもコマ・フォトもかなり歴史ある雑誌ですが、まだお若い長田さんが編集長になっているわけで。
会社主導で世代交代を推進し始めた時期があったんです。いわゆる雑誌の編集長って、40代後半〜50代ぐらいがやっているイメージがあると思うんですが、まさしくその世代の人たちが担当していた時期から、『コマーシャル・フォト』『ビデオサロン』『イラストレーション』の編集長が一気に若い世代に交代して、若いスタッフで雑誌を盛り上げていこうという機運に、僕はうまいこと乗れたという。
なるほど。 僕はコマ・フォトを毎月拝読してますが、やっぱり「フレッシュになってきてる」と感じますよ。かつてとテーマは同じでも、表紙や巻頭の特集などのアプローチが変わったなと思います。長田さんが編集長になられた少し前に、雑誌自体もリニューアルしていたんですよね?
はい。いろいろ積み重ねてきて、変わるタイミングが重なったというか。
ひと昔前まで、雑誌というのは最先端の情報を発信するものでしたが、SNSを含めいろんなところから情報を得られるようになった今、雑誌の優位性は低くなってしまっています。であれば、既出のものでなく、人々がまだ見たことのないもの、かつ雑誌だからこそできるものを届けられるようにしていこうというのが、コマ・フォトのリニューアルのひとつのテーマだったんです。
浅く広くより深く刺さるコンテンツを、ということですね。
そうですね。以前、黒田さんにもご指摘いただいたことがあるんですけど、撮り下ろしをかなり増やしていたり……。フォトグラファーさんのこれまでの作品をご紹介すると、どうしても読者にとって既知のものがでてきてしまうので、ならばフォトグラファーさんの最新の作品をどんどん紹介していけば、まだ見たことのないものと出会うきっかけをつくれると考えたんです。
それはすごい変化ですよね。でも、変化に伴うプレッシャーもあるんじゃないですか?
コマ・フォトはかなり古い時代から、いろんな方々がその時期ごとにつくってきたものを積み重ねてきた雑誌なので、僕が担当したこの2〜3年というのは、全体の歴史の何十分の一程度なんですよ。なので、過去の功績に頼りつつも、そこには依存しすぎず、引っ張られすぎないように気をつけないといけないな、とは思っています。
今、時代の流れがとんでもなく変化しているじゃないですか。これまでにも、webメディアというものが立ち上がり、その次にSNSというものが生まれて、出版業界とはマーケット的に食い合ってきたと思うんです。さらに今はAIというものが参入してきて、広告写真自体にかなり影響を与えている。こういう変化の多い時代には「どの程度保守的であるべきか」と悩まされると思うんです。長田さんは、このタイミングで編集長になったことを楽しめていますか?
楽しめているかどうかは、まあ置いておいて……「嫌だな」とは思ってはいないです。いろんなところで取捨選択を迫られてはいますが、それに対して「やばいな」「どうしよう」と悩んだことは、あんまりないと思います。
素晴らしいですね! そもそも、コマ・フォトって、もともとは、今ほどテクニカルなことはしていない印象でしたが……かつてはどんな雑誌だったんですか?
結構、硬派な雑誌だったと思います。僕のなかでは、きちんとクリエイティブと向き合った発信であったり、つくり手に対して最大限のリスペクトをもって作品を紹介している、“コマーシャル広告”というジャンルに対してしっかり正対している媒体、という印象でした。もちろん今がそうではないということではないんですが、正対する範囲がだいぶ広がっているので。
写真家にも、アーティストとして写真を撮っている“作家”と、より専門的な技術で広告を撮る商業写真フォトグラファーがいて、基本的には違うものだと思います。今のお話だと、かつてのコマ・フォトは商業写真側と正対していたと思うんですが、最近は、作家が広告を撮影する風潮が以前より強くなっていますよね。広告写真という枠が広くなってきて、それに合わせてコマ・フォトも多様化してきている、ということなんでしょうか。
そうですね。世の中の視野が広くなっているからコマ・フォトの範囲も広くなっているわけで、「広告写真と正対する」というコンセプトはブレていないのかもしれません。
あらゆる物事が多様化している時代ですからね。昔から読んでいる人からすれば、「変わった」というのはいい意味でも悪い意味でもあると思うんですが、雑誌として生き残れるのかどうかの時代でもあるわけで、それに合わせて新しい姿を模索されているなと感じます。

新しい企画でも、雑誌にメリットが生まれるような座組を意識
長田さんって、ときどき「コマ・フォトの編集長なんだっけ?」と思わされるぐらい、いろんなことをやっているじゃないですか。あれはどういうことなんですか?(笑)
玄光社のなかで、コマ・フォトの編集長という大役を担いつつ、写真集を手がけたり、「CREATORS EDGE」などのイベントも主催されたり。こういうのは、会社から任されているんですか? それとも、ご自身で企画して提案しているんでしょうか。
僕は入社当時、コマ・フォトから派生した『CM NOW』という、CMの現場やCMの出演者を紹介するような媒体に配属されていたんです。そこでの仕事を通じて俳優さんたちと関わることが増えたのですが、当時の玄光社は俳優やタレントなどのジャンルにはあまり手を出していなくて。もともと、社内には写真や映像などにはすごく詳しい先輩編集者がたくさんいて、「僕はそのジャンルでは戦えない」と思っていたので、「タレントさんを起用した本をつくるのはどうだろう」と考えたのが、タレント写真集を担当するようになったきっかけですね。
そもそも編集者って、自ら企画出しをしたりするのも仕事のうちなんですか?
そうですね。僕の場合は、CM現場というものに対してどんなアプローチをするのかを考えるのが仕事のひとつとしてあったので、「じゃあこのCMが好きな人はどういうものが好きか」という考えから「この方を紹介する記事をつくったらどうだろう」と思いついたり、さらに発展して「まだ新人の方を発掘して、その方がのちにCMに起用されて、さらに『CM NOW』で紹介できたら……」と考えたりしていました。
後半の話って、もうCMという枠の外に出ていますよね。編集者の方って、主体的に自由に動いているイメージですけど、「自分の所轄外だ」という発想にはならないんでしょうか?
逆に、自分の所轄外のことができるのが、定期媒体を持っている版元の強みだと思うんです。書籍をつくるときって、基本的にはゼロベースでオファーをかけて、こういう本をつくろうと企画して……という流れになると思うのですが、バックボーンにコマ・フォトという媒体があれば、企画に唐突感が生まれない。さらに、書籍づくりに急にメーカーが協力しはじめたら「ステマ?」と思われてしまうかもしれないけれど、背景にコマ・フォトがあれば、自然にみんながおもしろいと思うところに着地できる。新しい企画をやっているようで、雑誌本体に戻ってきても何かしらのメリットが生まれるような座組を意識しているんです。
いやぁ、いいですね。そういったシナジーを生み出すカルチャーが、編集者の方や会社自体に根付いている印象です。
玄光社という会社は、基本的にあまり「ダメ」とは言わないんです。 先ほどの話に戻ると、当時30歳ぐらいだった僕が急に「アイドルの写真集をつくりたい」と言い出したときにも「若い社員がアイドルの写真集をつくりたいと言っているから、まあやらせてみるか」という感じでしたし、 仮に失敗したとしても、そこで得た知見を活かせるならば、次の企画をやらせてもらえないというわけでもなかったので、わりと寛容だと思います。
「CREATORS EDGE」をクリエイターとクライアントの出会いの場に
写真・映像クリエイターのためのカンファレンスイベント「CREATORS EDGE」は、どんなきっかけで始まったんですか?
「CREATORS EDGE」の前身に、写真を中心とした「PHOTO EDGE」というイベントがあったのですが、コロナ禍があったりして集客が難しくなり、一時休止となって。コロナが落ち着いた頃に再開しようということになったのですが、そのときに「うちにはコマ・フォトという媒体があるのだから、写真だけにこだわらず、クリエイターをトータルで見たイベントにしたほうがおもしろいんじゃないか」という話になったんです。そのほうが、フォトグラファーとビデオグラファー以外のクリエイターに対して、門戸を広く開いておくこともできるだろうと。
「PHOTO EDGE」は広めのスタジオをお借りしてギュッと開催していましたし、どちらかというと専門職の強いイベントだったのですが、「CREATORS EDGE」は一般向けの告知もしていまして、おかげさまで昨年10月には3度目の開催を迎えることができ、前回を上回る数のお客さんにお越しいただけました。
大盛況だったみたいですね! 前身に「PHOTO EDGE」があったということは、イベントを開催するということ自体は、玄光社さんがそれまでにもされてきたことだったんですね?
イベントの開催自体はあまり多くなかったのですが、ステージに登壇させていただく機会というのは、ものすごく昔からありました。でも、そういう場だと、メーカーさんの商品であったり、そのときどきの企画自体に寄ってしまう部分があって。
ちょっとPRっぽくなっちゃったりしますよね。
一方、媒体自体がイベントを開催することのメリットとして、いろんなものをフラットな状態にしてお客さんに届けられるというのがありますよね。さらに「雑誌ってちょっと元気なくなったよね」と言われる時代に、実地での経験と雑誌を結びつけることで、雑誌の活気を取り戻すこともできる。
なるほど。ちなみに、長田さんがイベントの仕事で使う脳の部分は、雑誌と一緒ですか? それとも変わるんでしょうか。
変わりますね。イベントは体力、フィジカルです!
僕たちも制作会社なので、SNSのコンテンツをつくることもあれば、ものすごく時間をかけてCMをつくることもありますし、紙のコンテンツをつくることも、イベントをプロデュースすることもありますが、その中でもイベントって、打点が高いというか……。終わったらそこで仕事もスパッと終わるんですけど、準備も大変だし、当日のことなんてほぼ覚えてない(笑)。「CREATORS EDGE」くらいの規模になると、それはもう大変なんじゃないですか?
「CREATORS EDGE」は写真だけでなく映像側のコンテンツも多いので、『ビデオサロン』の編集長とうまく仕事を分担できていて、すごく助かっています。僕も当然、イベントに登場する商品の知識はある程度持っていますけど、じゃあどこまで映像分野で語れるかというと、やはり得意・不得意が出てくる。映像の分野は『ビデオサロン』、写真の分野『コマーシャル・フォト』と分担できるようになったのは、ありがたいことです。
コロナ禍以降、人と会うことのできるイベントって、すごく減ってしまったじゃないですか。だからこそ、僕も「CREATORS EDGE」の盛り上がりはうれしく思いますね。
ありがとうございます。僕は「CREATORS EDGE」を、仕事をしたいクリエイターと、仕事をしてほしいクライアントがマッチングできるようなイベントにしたいと思っているんですよ。「このイベントを通じて、自分の能力がどこかで活かされるかもしれない」とか、「ここで出会った人と新しいコンテンツを生み出せるかもしれない」とか、何かを見出してもらえる場になったら、すごくいいなと。
いいですね! クリエイターとメディアって、古くから共存・共栄の関係にありますから。
雑誌に取り上げてもらうことって、クリエイターにとっては、自分のクリエイティブを見せながら、名前を知ってもらえること。だからこそ「コマ・フォトに出たい!」と思っているフォトグラファーもたくさんいると思うんですが、「じゃあどうすればいいんだろう」とわからない人も多いと思うんです。
例えば「CREATORS EDGE」に行ったら長田編集長がいて、そこに共通の知り合いがいて、紹介してもらえた。そこで名前を覚えてもらえて、後日連絡があった、というようなことって結構あって、実はそういうつながりが生まれるのは簡単なことだったりするんですが、難しく考えている人が多い気がします。「CREATORS EDGE」のようなイベントが、人や仕事との出会いの場になるということが周知できたらいいですよね。
そうなんですよ。だから僕はもっと、イベント会場では「コマ・フォト担当、名刺交換・ご挨拶、大歓迎です!」とアピールしようかと考えています。

クリエイターとの関係
ちなみに、クリエイターからのブック見せは受け付けているんですか?
受け付けていますよ! ただ、コロナ以降はデータでいただくことも多くなったので、実際に見せに来てくださる方の数は、想像されているよりも少ないかもしれません。
なるほど、それも時代ですね。
かもしれないですね。こちらとしては「持ち込みっていう手段もアリなんだよ」と伝えたいところなんですけど。
たしかに。持ち込みがアリだと知らない人は、持ち込みの仕方も知らないのかも。
コマ・フォトの編集部に急に電話をいただいたとしても、こちらとしては「今どき珍しくて、いいね!」という感じなんですけど、若い方にとってはハードルの高いことなのかな、というのは感じていて。たしかに、実際に見せていただいても「うちよりほかの媒体のほうが合っていそうだな」と思うこともあるし、必ずしもマッチするわけではないんですが、遠慮せずにとりあえず持ってきてみてほしいんですけどね。
僕も日々新たなクリエイターと出会うべくアンテナを張ってはいますが、すべてを網羅できているわけではないので、自ら来ていただけるのは、すごくうれしいんです。
コマ・フォトって、クリエイターにもスポットライトを当てている雑誌なので、既に何かを成し遂げている方を取り上げる傾向にならざるを得ない部分があると思うんです。だからこそ、その登竜門的な企画として「Newcomer Photographers」があると思うのですが、あれはどういった基準でフォトグラファーを選んでいるんですか?
各編集者が取材先で見た方、写真展を訪れて知った方、SNSで発見した方などを、編集部でリスト化していて、会議のプレゼンで活用しているんです。各スタッフが「この方を取り上げたい」というのを理由とともに発表して、実際にみんなでその方の写真を拝見しながら、どなたにお願いするかを決めています。
なるほど。じゃあ持ち込みをしたとしたら、そのリストに加わるということなのかな。例えば、長田編集長以外のコマ・フォトの編集さんに持ち込み対応をしてもらったとしても、そのルートには乗れるんでしょうか。
もちろんです! とくにうちは今、副編集長が“フォトエディター”という立場をとっていて、かなり写真を専門的に見ているので、彼に見てもらうのもアリですよ。
完璧ですね。クリエイターにはありがたい環境だ。
一方で、コマ・フォトの読者のなかには、アートディレクターであったり、僕たちのような制作会社の人間であったり、常にいいフォトグラファーを探しているという人もいますよね。
そうですね。実は、コマ・フォトのなかで、“隠れた”問い合わせの多いコーナーがあるんですが……何かわかりますか?
えっ、教えてもらえるんですか? うーん、なんだろう。「MY BEST CHOICE(クリエイターがCMや広告写真について解説する連載)」かな。それとも「ニッポンフォトグラファー探訪(日本各地の写真家の活動を深掘りする特集)」?
ちょっと肩透かしだったら申し訳ないんですが……(笑)。目次の右下にある「スタッフリスト(制作に関わったクリエイターのリスト)」です。
なるほど! 先ほど「雑誌はクレジットに名前が載ることがメリット」というお話をしていましたけど、まさにそこに注目する人が多いわけですね。
でも、なぜコマ・フォトに問い合わせがくるんですか? その方の名前を調べて、直接本人に問い合わせするわけじゃないんでしょうか。
今ではみんな当たり前にもっていますけど、ひと昔前だとクリエイターがSNSのアカウントや個人サイトを持っていなくて、「仕事を頼みたいけど連絡先がわからない」ということが多かったんですよね。なので、弊社では「フォトグラファーファイル」や「ディレクターファイル」というものをつくっているんです。今でも、コマ・フォトを経由すると距離をスムーズに詰めることができるということで、よくお問い合わせいただくんですよ。
編集者とは、媒体という敷地の中にあるHUB
まだまだ聞きたいことがたくさんあるんですが、せっかくだから「編集者の仕事って何ですか?」というところも深くお聞きしたい。「ライターとエディターは違う」というのはよく聞くことですけど、世間的には編集者も“書く人”と思われがちですよね。実際にはどうなんですか?
編集者の仕事は……“HUB”ですね。センターターミナルにひとつの企画があるとして、そこからフォトグラファー、ライター、デザイナーなどをつないで集約させて、ターミナルを一番きれいに見せるというのが、編集者の重要な仕事かなと。
編集者が“書かない人”というわけではなくて、ターミナルをよりよくするために、ときには自分で文章を書くこともあるんです。もっといえば、フォトグラファーが撮った写真のセレクトをさせてもらうこともあるし、デザインを調整することもある。そういう意味では、文章にも、写真にも、デザインにも、ある程度の知識が求められる仕事だと思います。
なるほど。でもその役割には、プロジェクトが円滑に進むためのコントロールだったり、ある程度のクオリティを保つためのコントロールも必要になりますよね。“御用聞き”でいなければいけない側面がある一方で、絶対に譲ってはいけない側面もあるというか。
まさにその譲ってはいけない側面というのが「HUBは必ず敷地内にあること」だと思っています。あくまで『コマーシャル・フォト』という敷地の中でいちばんいいものをつくらないといけない。敷地からはみ出させてしまうと、小手先のものになってしまうので。
僕、編集者の方々ってすごいなといつも思ってるんです。広告業界でいえば、プロデューサーのような側面もあるし、プランナー、キャスティング担当になることもあれば、コピーライターのようにクリエイター的な動きをすることもあって、もはや総合格闘技的なことをやっているじゃないですか(笑)。とはいえその中でも、キャスティングが得意であったり、企画が得意であったりというそれぞれの持ち味があると思うんですが、コマ・フォト編集部でいうと、どんな特徴があるんでしょう?
職人肌気質というか、コンテンツを磨き上げることを得意とする編集者が多いと思います。集めたものを完成させるときに、それをいかに美しいものにしていくかというところに、グッと集中できる編集者が多いかなと。どちらかというと、トラディショナルなタイプの編集者といえるかもしれません。
社内の編集者による企画に、通底しているものはありますか? “玄光社らしいもの”になるように指導をしていたりはするんでしょうか。
出された企画に対して「こういうふうにしたほうがいいのでは」とアドバイスすることはありますが、あえて玄光社らしくすることはあまりないと思います。玄光社は伝統ある出版社である一方、ここ何十年も新卒を採っていなくて、中途で入ってきた社員がすごく多いので、わりとほかの文化がうまく入ってきている会社でもあるので。
それに、僕自身も「玄光社らしくない視点が入ってくる方が読者にはフラットに受け入れてもらえるかも」と思っているので、あまり「コマーシャル・フォト“らしさ”はこうだよ」というのを、スタッフに対して強く言わないようにしています。編集部で生まれる企画には、媒体の中で育ってきた血筋が影響していると思うので、それを極端に濃くする必要も、極端に薄くする必要もないだろうと思っているんです。
たしかに、弊社にもいえることですけど、それぞれの会社に“らしさ”やカルチャーはありますよね。その上で長田さんは、いいところを残したり、変えたほうがいいところを削ったり、うまくバランスをとっているわけだ。

リーダーとして、スタッフをどう牽引する?
長田さんは、編集部のスタッフがおかしな企画を出してきたとして、「なんでこんな企画あげてくるんだ!」と怒ることもないですか?(笑)
それは絶対に言わないです(笑)。だって、想像がつかないような企画を持ってこられるほうが、聞いていておもしろいじゃないですか。それをプレゼンできる状態にまで持っていけるよう言語化する手伝いをするほうが、最近は多いですね。
すごく温和なマネジメントですね。僕も長田さんを上司にしたいくらい。
僕は上司として、長田さんとは真逆のタイプかもしれない。スタッフが成長するためのいちばんのフックになり得るのは、しっかりとレビューされることだろうと思っているので、褒めるときには褒めるけれど、厳しく言うときには厳しく言う、というのは、あえて意識しているんです。
それも大事なことですよね。僕にも正しい指導の仕方はわからないですし、常に悩み続けています。
僕は、新卒で入った出版社がすごく体育会系だったんです。怒鳴られたりキレられたりということがまだふつうにある時代だったので、かつて自分が「こんな上司にはならないぞ」と思っていたのが、今のスタッフへの態度に影響しているのかもしれません。
悩みますよね。XICOは、広告制作会社の中では、ITやシステム開発などのアプローチを取り入れていることが強みなんです。なので、その中で覚えなければならないところ、守らなければならないところが多いという面で、ほかの制作会社よりも厳しいと思う。クライアントから要求されるレベルも高かったりするので、最近は毎週のようにスタッフに本を配っています。
それは全員に同じ本を配るわけでなく、スタッフの方一人ひとりに、最適な本を渡しているということですか?
そうですね。スタッフそれぞれの個性を見て「この人に今足りていないのはこういうところだ」と感じたら、それを補ってくれるような本を渡しています。そんなに根を詰めて読んでほしいわけではなくて、斜め読みでもいいんだけれど、本っていろんな情報が凝縮されているものだから、何かしらを学ぶことができるんじゃないかと思って。
いいですね。「こういうところを成長させてほしい」「こういう目線を見つけてほしい」と思って、相手にぴったりの本を選んでいるわけですから、その本を通じてお互いの価値観や目標が少しずつ近づいていきそう。
昔は案件教育のようなこともよくしていて、メールや資料ー、原稿のレビューなどもしていたんです。今も僕は「いつでもウェルカムだよ」と言っているんですけど、昔よりは頼まれることが少なくなった。かつてはスタッフたちの中に「見てもらわないと不安だ」という気持ちがあったと思うんですけど、今は個人の裁量でできるようになってきている、ということなんですよね。おかげで最近の僕は、現場に出られることが多くなってきたかな。
黒田さんはXICOの代表取締役である一方、フォトグラファーでもいらっしゃるじゃないですか。そちらの活動も僕はよく拝見しているんですが、最近、写真を撮る機会はありました?
僕は2019年にXICOを会社にしようと決めたタイミングで、自分がフォトグラファーとして撮るのはやめようと、明確にシフトチェンジしたんですよ。自分がプレイヤーとして出るのはもうやめないと、と。
制作会社って、社長自身もクリエイターとして活動しながらスタッフを牽引していくパターンが多いですが、僕はクリエイターでなくプロデューサーやディレクターになろうと、最初の段階で決めたんです。案件の中には自分がフォトグラファーとして撮影を担当するものもあったけれど、なんだか仕事の片手間のように撮るのはどうなんだろうと思ったし、まわりにいるフォトグラファー1本でやっている人たちの仕事を奪うことにもなってしまうんじゃないかと、すごく反省して。
なるほど。今もカメラは常に持たれている印象ですけど、仕事で撮るのはもう一切やめようと決められたわけですね。
写真が好きなので、趣味では撮り続けていますし、どこかで発表できたらとも思っていますけど、仕事では撮らないようにしようと決めました。2019〜2021年ごろにいただいた案件では、ほとんど知り合いのフォトグラファーに撮影をお願いしたりして。
そこまで思い切れるのって、すごいと思います。「このクライアントさんのだけは、頼まれたら撮ろうかな」と思ったりしませんでした?
もちろん、苦渋の決断でしたよ! でも、なるべく「今回だけは撮ろうかな」ということはしないようにしていました。僕が撮らなければその案件自体流れてしまう、というくらいの話だったら、さすがにやらせていただくんですけど(笑)
とはいえ、ほんとうに仕事で撮るということが一切なくなったのは、2025年になってからかも。それまでは、なんだかんだ年に1、2本は対応させてもらったりしていたんですよね。2025年になって、ようやく全部剥がれたという感じ。もちろん「撮りたかった」というものもあるし、気持ち的には複雑な部分もありますが……。
難しいですよね。つい「自分がやったほうがいいんじゃないか」と思い上がってしまう部分もあるけど、そこを堪えて誰かに任せてみると「ぜんぜんスムーズに進んだな」ということもあるし。そのあたりの配分というか、取捨選択がもう少し美しくできないかなというのは、僕も悩んでいるところです。
そう考えると、編集長と経営者って少し似ていますね。コミットするバランスや、自分が何をするか選べる楽しさというのが、僕にも長田さんにもある気がする。編集長としては予算のバランスも見ないといけないわけで、自然とそういう経営思考も生まれているんじゃないですか?
そうですね。 雑誌という媒体がひとつの街のようなもので、会社はいくつかの街をまとめる国のようなものだと思うんです。なので、外からどんなものを取り入れて、街の中をうまく回していくにはどうするか、という思考は常に働いていますね。
特集記事の撮り下ろしは「自分の枠をぶち抜いてもらえた」と感じる瞬間

長田さんがいちばん楽しいと感じる仕事って何ですか? 僕なんかは、やっぱり表紙となる特集がいちばん楽しそうだなと感じるんですけど。
特集を撮り下ろしているときがめちゃくちゃ楽しいですね! 基本的には、プロットやラフを組んで、事前にフォトグラファーの方に撮影相談しているんですけど、いざ現場に行くと、みなさん僕の想像を超えてきてくださるんです。僕がなんとなく持っていた「こんな表紙にしたいな」というイメージを超えたものができあがった瞬間が、いちばん楽しい。ある意味「やられた!」と思うというか、「自分の枠をぶち抜いてもらえた!」と感じる瞬間です。
一方で、表紙の候補が2、3個あると、部内の全員の意見が必ずしも一致するわけでもなくて。僕が「絶対、これがいいだろう」と思っていても、意見が割れることもあります。基本的には民主主義的に対応していますけど、明確なビジョンがあって「どうしてもこれがいい!」と思うときには、しっかり主張しますね。
「こっちを選べば反感を買うだろうけど、そうでないと自分的には報われない」というシーンってありますよね。でも、クリエイティブって、民主主義的にやるのが必ずしも正しいわけではないじゃないですか。リーダーとして意見を押し通すのには、精神力が要りますよね。
とはいえ、いろんな人の意見を取りまとめる立場になると、だんだん仏の心になってきませんか? 誰かと誰かが対立していても、「どっちの気持ちもわかるな」と思ってしまうというか。意見が分かれるのは当然だし、折り合いをつけなくてもいいんだよと、肯定したい気持ちになってしまう。
なりますねぇ。だからスタッフ同士で折り合いがつかないことがあれば、間をとって僕の意見を押し通す、ということもあります。
そういう大変な部分もあるなかで、やっぱり楽しいのは花形の特集なんですね。
フォトグラファーの方を含め、もっとも現場の方々に『コマーシャル・フォト』としての意図を汲み取ってもらって、一緒に発展させようと考えてもらえる場になるので、やっぱりすごく楽しいですね。中にはスタンダードで洗練されたものもあれば、コマ・フォトらしくない斬新なものもあるんですけど。
2025年もいろいろチャレンジされてましたよね。
そうですね。とあるフォトグラファーの方からは、「2025年の仕事の中で、コマ・フォトの仕事がいちばん大変でした」と言われたりしました(笑)。こちらからは結構無茶なお願いをしてしまったんですが、ほんとうにものすごくいいものに仕上げていただけて、大変好評でした。ありがたいことです。
晴らしいですね! 2026年もどんな特集が生まれるのか楽しみです。
「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊『コマーシャル・フォト』との共同企画。クリエイターを俯瞰視点でみつめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにするインタビュー特集です。



