「自分に何ができるんだろう」そんな問いを抱きながらクリエイティブの現場に飛び込んだ彼女は、今、デザイナー兼ディレクターとして、多様なプロジェクトに携わっています。
ヒーコで過ごした4年間は、単にスキルを身につける時間というより、「どう考え、どう判断するか」を繰り返し求められる日々でした。その積み重ねが、仕事への向き合い方や、自分自身への捉え方を少しずつ変えていきます。
この記事では、未経験からクリエイティブの現場に身を置き、試行錯誤を重ねながらデザイナー兼ディレクターという立場と向き合ってきたヒーコ・伊藤友菜の軌跡を追います。
「全部ちょっとずつできる」自分からの脱却
― デザイナーを目指したきっかけは何ですか?
最初に働いたのは、不動産会社の事務職でした。業務の合間に、チラシを作らせてもらったり、Illustratorを使わせてもらったりしているうちに、自然と「デザインっておもしろいな」と思うようになりました。業務の一部としてではなく、「この道でちゃんとやってみたい」と考えたのが、転職を考え始めたきっかけでした。
デザインスクールに半年間通い、卒業と同時に小さな制作会社へ転職しましたが、デザイナーとしてやっていく自信があったかというと、そんなことは全くありませんでした。PhotoshopやIllustratorを使う基礎的なスキルはあるけれど、一つのことに特化しているわけではない。「全部ちょっとずつできる」状態の自分が中途半端に思えて、当時は引け目を感じていました。
― ご自身の長所や特技はどんなところだと思いますか?
積極的に意見を言ったり、前面に立つのは得意ではありません。ただ、小さな違和感に気づいて丁寧に確認を重ねることや、意図をしっかりすり合わせながら進めることは、ずっと大切にしてきました。
私は、チームの中で人と人をつなぐ役割や、プロジェクトを支える役割を担うのが向いていると感じています。アイデアを次々と出すより、どう伝えるか・どう形にするかを考えるのが得意で、資料作成やスタイリング、構成の整理など、見せ方を整える仕事で強みを活かせていると感じています。
その役割を担う中で心がけているのは、些細な違和感を放置せずに確認すること、意図のすり合わせを丁寧に行うこと、曖昧なまま進めないこと。この姿勢が、プロジェクトに携わる全ての人たちに信頼してもらえる理由の一つになっているのかもしれません。
また、失敗や迷いがあったときにも同様に、なぜうまくいかなかったのか、きちんと振り返るようにしています。自信がないからこそ、立ち止まって考える。一つ一つを丁寧に積み重ねる。そうした働き方が、今の自分らしさになっていると思います。
ヒーコとの出会い
― ヒーコを知ったきっかけと入社の決め手はなんですか?
ヒーコにジョインしたのは、2021年5月です。きっかけは、代表・黒田明臣のInstagramストーリーズで見かけたマネージャー募集でした。
入社する前からヒーコのメディアは読んでいて、黒田さんの写真や言葉にはずっと惹かれ続けていました。SNSやnoteに投稿された表現には、うまく言葉にできない引っかかりのようなものがあって、「この人と一緒に働いてみたい」と自然に思えたんです。
特に、noteに綴られていた言葉には強く惹かれました。誰かのことをちゃんと見て、その人に向けて言葉を選んでいるのが伝わってきました。自分は思いをうまく言語化できないことが多かったからこそ、「こんなふうに思いを言葉にして届けられるようになりたい」と感じたのかもしれません。
その募集は、当時ヒーコとアマナの二社で活動していた黒田さん個人からのもので、最初は秘書・マネージャー的な役割からのスタートでした。小さなサポートから始まった仕事でしたが、次第に「ヒーコという組織にもっと深く入りたい」と感じるようになりました。ちょうどその頃から、ヒーコの業務にも少しずつ関わらせてもらえるようになりました。
ありがたいことに、黒田さんは、私のこれまでの経験や得意なことを汲み取って、活かせるような仕事を任せてくださいました。「ちゃんと見てくれているんだな」と感じる場面も多く、その積み重ねが、今のわたしにつながっていると思います。

PLANNER=Yuki Abe(HAKUHODO) PRODUCER=Akiomi Kuroda(XICO) CREATIVE DIRECTOR=Akiomi Kuroda(XICO)
DIRECTOR=Mizuki Aoi(XICO) CONTENTS DIRECTOR=Ryoji Iwata(XICO) WEB DIRECTOR=Tomona Ito(XICO)
WEB DESIGNER=Junichi Ito (FIT) SERVER ENGINEER=Akiomi Kuroda(XICO) FRONT ENGINEER=Nishimura(DigitalCube)
すぐに求められた「プロとしてのクオリティ」
― ヒーコで最初に担当した仕事について教えてください。
最初に携わったのは、サプリメントメーカーのSNS用グラフィック制作でした。その直後には、オンライン写真展のウェブサイト制作で、初めてディレクション業務にも挑戦しました。外部のクリエイターと連携しながら進める、これまでにない経験でした。
当初は、自分の中でゴールや全体像がはっきりしないまま進むことも多く、「言われた通りにつくる」だけでは全く追いつけませんでした。自分で考えて判断することが求められる場面が想像以上に多く、考えることの多さやスピード感に圧倒されっぱなしでした。「これで合ってるのかな?」と思いながら、とにかく手を動かし続ける。そんな状態がしばらく続いていたと思います。
― 前職との違いは感じましたか?
入社後は、求められるクオリティの高さに驚くことばかりでした。表現の細部までとことん突き詰めること、デザインの意図をきちんと言葉で伝えること、提案の流れや構成を構造的に考えること。どれも、自分がこれまでいかに感覚だけで仕事をしてきたかを痛感させられました。
黒田さんのフィードバックは、毎回ハッとさせられることばかりで、自分では気づけなかった視点に何度も出会いました。最初の1〜2年は必死に食らいついていくような日々でしたが、あの期間があったからこそ、考える力や構造化する力が育っていったように思います。
― 特に印象に残っているプロジェクトはありますか?
特に印象に残っているのは、とある企業のコンペ案件です。ヒーコでは、提案段階からコンペになる案件も多いのですが、このプロジェクトは特に規模も大きく、準備期間が1.5〜2ヶ月と長丁場でした。最終調整の時期は集中して取り組む日々が続き、進行中は正直、仕事を楽しむ余裕はありませんでした。
大変な案件でしたが、大きな収穫もありました。それは、この案件を通じて、ヒーコがデザインをどのように捉えているかを肌で感じることができたことです。ヒーコでは、デザインを単なる見た目ではなく、「目的」「構造」「意匠」の3つの視点で捉えています。プロデューサーやディレクターが定めた方向性や目的に対し、意匠(スタイリング)でどう視覚化するか。この案件を経験したことで、この工程に自分なりの工夫を持ち込めるようになり、「ただつくる」から一歩踏み込んだ関わりができるようになったと感じています。

RRODUCER=Nao Kuninaka(RISSI) CREATIVE DIRECTOR=Hideaki Ymanoi(JCD)
ART DIRECTOR=Katsuyuki Fujino(RISSI) PHOTOGRAPHER=Takahiro Sakai(XICO)
HAIR MAKE=Naoko Shinohara COPY WRITER=Hiroshi Andou
MODEL=Kina Yazaki,Akari Abe

AGENCY=EPOCH Inc. PRODUCER=Fumiya Inada(EPOCH),Mitsuaki Hongyo(EPOCH)
DIRECTOR=Kento Sugioka(EPOCH) PROJECT MANAGER=Akiomi Kuroda(XICO)
DIRECTOR=Yusuke Suzuki(XICO),Mizuki Aoi(XICO) PHOTOGRAPHER=Takuma Suda
,Ramon Onizawa,Ichi Nakamura,Yusuke Suzuki(XICO),Madoka Shibazaki(XICO),Madoka Shibazaki(XICO) HAIR & MAKE-UP=Eri Ito.Haruna Sato,Konatsu(XICO),JE SUIS HEUREUSE Co.Ltd.
MODEL Hikaru Adachi,Takanori Kataoka,Keisuke Hada,Emi Kusano,Atsumi Murata,Kento Hoshi,
Masaki Watanabe,Kazuyoshi Minamimagoe,Madoka Sawa,Gomi Hayakawa,Hirotake Kubo,Toshinao Sasaki,Shoko Ryuzaki,Shu Yamaguchi
壁にあたった時期と、乗り越え方
― 仕事をしていて壁にあたるという事はありましたか?
何度もあります。今でもあります。特に強く記憶に残っているのは、入社して2年が経った頃。「もう無理かもしれない」そう思いました。
ちょうど、グラフィック中心の業務から、提案やプロデュース領域に関わるようになったタイミングでした。初めて経験する領域で、期待に応えられず、自分でも自分の状況をうまく整理できないまま走り続けていました。「自分にもっと力があれば、できるはずなのに」そう思えば思うほど苦しくて、逃げ出したくなりました。
ヒーコでは、「これが正解だよ」とすぐに答えを教えてもらえることはほとんどありません。なぜなら、正解を探すのではなく、正解をつくることがクリエイティブの本質だという考えがあるためです。どうすればいいか自分で考えて言葉にし、形にしていく。この一連のプロセスの実行を求められることはプレッシャーでもありますが、成長の一番の源でもあります。
― どのようにして乗り越えたのですか?
黒田さんからの言葉と、インプットです。「失敗はしないに越したことはない。けれど、チャレンジには失敗がつきものだし、そこから学べるならそれは失敗じゃない」そんなふうに背中を押してもらったことで、間違いや失敗に対する恐れが少しずつ薄れていきました。
もう一つ、大きな支えになったのが、本を読むことでした。能力を上げたいという一心で、とにかく多くの本を読みました。以前はビジュアル寄りの本ばかり読んでいましたが、ディレクションやマーケティング、マネジメント…と仕事の幅が広がるにつれて、自然と読むジャンルも変わっていきました。
特に印象に残っているのが、『「レジリエンス」の鍛え方』という一冊です。落ち込んだときにどう立ち上がるか、どう気持ちを立て直すか。気持ちが一番沈んでいたタイミングで読み、「もう少しやってみよう」と思えるきっかけになりました。
未経験でも挑戦させてくれる環境
― ヒーコの魅力はどんなところですか?
ヒーコの魅力の一つは、未体験の領域に挑戦させてもらえることだと思います。最初から完璧にできるわけではありません。それでも「やってみよう」と新たな挑戦の機会を与えてもらえるのは、とてもありがたいことだと感じています。
ただし、挑戦が丸投げになることは決してありません。進め方や品質に問題がないか、途中で必ず確認・検証が入り、必要があればチームの主担当や周囲が巻き取ってくれる体制も整っています。チームで仕事を進めていく中で、個人に任せっぱなしにしないという前提があるからこそ、安心して挑戦できます。
上の立場にいる人たちは、チェックやリカバリーに相当な時間と労力をかけてくれているはずです。それでもチャレンジさせてくれるのは、「いずれ自走できるようになってほしい」という願いがあるからだと思います。挑戦と失敗、そしてフィードバックを繰り返す中で、「こう考えればいいんだ」「ここまでは自分で判断していいんだ」と、自分なりのスタンスや基準が、自然と育っていきます。

DIRECTOR=Yuki Otaka(XICO),Ryoji Iwata(XICO),Tomona Ito(XICO),DESIGNER=Tomona Ito(XICO),PHOTOGRAPHER=Nana*
評価制度と、日々の向き合い方の変化
― 転職して、給与や生活水準は変わりましたか?
変わりました。ヒーコでは、年に一度の評価制度がきちんと運用されていて、成果に応じて給与が見直されます。数字だけで評価されるわけではありませんが、成果が出せなければ上がらないという厳しさはあります。ただ、その評価軸が明確で公正だからこそ、納得感がありますし、どうすれば成長につながるのかを自分でも把握できるようになりました。
ライフスタイルにも大きな変化がありました。ヒーコに入る前は、正直、映画もあまり観なかったし本も多く読まなかったし、興味のあるジャンルも偏っていました。ところが今は、これまで自分からは手を伸ばさなかったような世界にも積極的に触れるようになり、日々の過ごし方そのものが変わりました。
通勤電車でビジネス書を読んだり、休日に映画館に足を運んだり。特に最近ではオフィスに併設されたギャラリーで、さまざまな写真家の作品に触れることができるのも大きいです。質の高いクリエイティブに日々触れていると、「あ、こういう表現もあるんだ」「こういう視点もあるんだ」と、自分の感覚が少しずつ解像度を上げていくのを感じています。
贅沢な場所にいるな、恵まれているな、と感じることがあります。生活が豊かになったと感じられるようになったのは、収入だけでなく、そういう日々の刺激や変化があるからかもしれません。

PRODUCER=Ryoji Iwata (XICO) CREATIVE DIRECTOR=Akiomi Kuroda (XICO) DIRECTOR=Yuki Otaka (XICO)
PROJECT MANAGER=Shun Manjome PROJECT DESIGNER=Tomona Ito (XICO)
入社時から現在までの変化|会社と私、両方の成長
― 入社した当初と今とで、ご自身や会社の変化を感じますか?
私が入社した当時、ヒーコはまだ写真メディアを中心に黒田さんが個人的に運営していた会社で、制作会社として歩み始めたばかりの段階でしたが、その後、人が増え、組織が拡大し、会社としての体制がどんどん整備されていった感覚があります。
また、個人的な変化として大きいのは、締切に対する意識です。プロジェクトには必ず関わる他者がいます。その人たちに迷惑をかけないために、期限を設定して計画的に動く、遅れそうであれば理由を伝えて調整する、そうした姿勢が、信頼を築く上でも大切だと感じています。
そしてやはり、この数年で最も成長したと感じるのは「考える力」です。ヒーコでは、すぐに正解を教えるのではなく「なぜそう考えたのか」「どんな意図でその提案をしたのか」など、言語化して伝えることが常に求められます。
最初のうちは、言語化することがとても苦しかったです。自分では「考えているつもり」なのに、いざ言葉にしてみると、自分の中にちゃんとした意思や根拠がないことに気づかされます。無意識に、相手から正解をもらおうとするコミュニケーションを取ってしまったり、違和感があるのに流してしまったり。
でも今は、「考える」という行為は、それがベストな理由を自分の言葉で説明できることだと理解しています。日々のレビューやすり合わせを通じて「考える」を繰り返してきたことが訓練となり、一つ一つのアウトプットに対して、なぜ・どうしてという問いを持つまでをセットで考える習慣が、少しずつ根づいてきました。
― 2021年の自分と比べて、一番変わったことは何ですか?
仕事中のコミュニケーションについて、量がとても増えました。元来、話すのが好きではなく、入社当初は、会議でも全然発言しない人間でした。ところが、ヒーコは発言やアウトプットをすごく大事にする会社なので、少しずつ発言量が増えていきました。2021年の私が今の自分を見たら、一番びっくりするのはそこだと思います。

PRODUCER=Akiomi Kuroda(XICO) DIRECTOR=Ryoji Iwata(XICO),Yuki Otaka(XICO)
PMO=Mizuki Aoi(XICO) DESIGNER=Tomona Ito(XICO) PHOTOGRAPHER=Etsuko Aimu,Takeru Kohara,Yuma Yamashita
これから挑戦したいこと
― 今、ワクワクしていることはありますか?
ギャラリーやスタジオといった新事業が2025年にスタートし、クリエイティブに携わる、さまざまなジャンルや価値観の人たちに日常的に触れられるようになりました。これまで以上に新しい視点や刺激に出会える場面がきっと増えていく…そう思うと、純粋に楽しみです。
一緒に何かをつくる人が変われば、アウトプットも変わる。そんな環境に身を置きながら、「どう伝えるか」「どう場をつくるか」を考え続けられるのは、自分にとってすごく贅沢なことだと感じています。
― 伊藤さんが、これから挑戦したいことを教えてください。
私がこれから挑戦したいのは、より働きやすい環境をつくることです。それは社内メンバーだけでなく、クライアントやパートナーを含めた、プロジェクトに関わる全ての人にとっての働きやすさです。進め方や体制を整え、安心して力を発揮できるような関係性をつくっていきたいと考えています。
これはもちろん、今のヒーコでも、すでに意識されている大切な価値観です。だからこそ、私自身もその一員として、「ヒーコだからお願いしたい」「また一緒に仕事がしたい」と思っていただけるような在り方を、これからも追求していきたいと思っています。
派手な目標を掲げるより、日々の仕事にどれだけ丁寧に誠実に向き合えるか。その積み重ねが信頼になり、チームの価値を少しずつ高めていくと私は信じていますし、そんな仕事の仕方をこれからも大切にしていきたいです。



