中国で社会学を学び、日本の大学院では文化人類学を専攻。その後、テレビ業界でバラエティ番組の制作に携わってきた張さんは、2024年、ヒーコへジョインします。
「自分の感覚を信じて、より自由な表現を追求したい」そう語る彼がヒーコで見つけたのは、制約ではなく、信頼を前提としたクリエイティブな空間でした。
研究者から番組制作者へ。異なる領域を横断してきた背景
―― 大学院への進学をきっかけに来日したそうですね。
中国の大学では社会学を、日本の大学院では文化人類学を学びました。研究テーマは「土地を失った中国農村の高齢者」。社会構造や人の価値観に深く入り込む学問に触れた経験は、今も仕事の根底にあります。
大学院修了後は、テレビ番組の制作会社に就職し、ゴールデンタイムに放送される人気バラエティ番組の制作に、約3年間携わりました。時間的に余裕がなく、収録や編集の対応で、深夜までの作業が続く日々だったのを覚えています。
当初は、バラエティというジャンルに対して「自由な発想でコンテンツをつくれる世界」という印象を持っていました。実際には、新しいアイデアを出して制作したとしても、放送局の意向で修正が入り、内容が大きく変わることもあります。視聴率やクレームリスクを意識するあまり、表現に対する挑戦は抑制されがちでした。
「もっと自由に、伝えたいことを届けたい」その気持ちが少しずつふくらみ、自分のスタイルで映像をつくる道を模索するようになりました。
「ただ話を聞いてみたい」その気持ちから見つけた、次の扉

P=Akiomi Kuroda(XICO) D=Ryoji Iwata(XICO),Hirokazu Masuya(XICO)
AD=Yunxiao Zhang(XICO),Mizuki Aoi(XICO) Ph=Takuma Suda
HM= SAIKA(HITOME) ST=SHIKI MO=Satoshi Doi(LIGHTmanagement)
―― ヒーコを知ったきっかけは?
転職活動中に、ヒーコの求人をWantedlyで見つけました。興味を持ったきっかけは、掲載されていた写真のクオリティです。テレビ業界で、自由に表現できないもどかしさを感じていた自分にとって、ヒーコのビジュアル表現には直感的に惹かれるものがありました。
「とりあえず話を聞いてみたい」そんな気持ちで連絡したところ、2日ほどで返信が届きました。最初に話したのは、代表の黒田さんです。面接もすべて黒田さんが担当し、話の進め方や説明のわかりやすさには、率直に感銘を受けました。話の構成が明快で、無駄がなく、緊張させるような空気もありません。むしろ、対話の心地よさを感じたのを覚えています。
このとき、黒田さんからヒーコで進行中の案件として中国ブランドの話題が出ました。「語学力を活かせる仕事ができるかもしれない」と感じ、正式に選考を希望しました。
―― 選考ではどのようなことをするのでしょうか?
選考では、面接のほかにテストがありました。数学の課題が出されたとき、設問は口頭で伝えられ、その場で回答する形式でした。内容自体は難しくなかったものの、予期していなかった形式だったため、緊張でパニックに近い状態に。そんなときも黒田さんは「大丈夫、落ち着いて」と声をかけ、不安を和らげる空気を作ってくださいました。
合格の連絡を受けたとき、私の就労ビザが切れる時期と重なっていたため、すぐに雇用関係の書類が必要になりました。
ヒーコにとっては、初めての外国籍スタッフの雇用だったと聞いています。それでも、黒田さんは経理担当と連携し、ビザ申請に必要な手続きを一つひとつ丁寧に進めてくださいました。1〜2か月ほどかかりましたが、無事にビザの更新に間に合いました。
誠実に対応してくれたことが印象的で、形式よりも中身を大切にする会社なのだと実感しました。
入社直後に感じたのは、「無力感」と「孤独感」
―― 入社後に感じたヒーコの印象を教えて下さい。
2024年3月、ヒーコに入社しました。初めての業界、初めてのカルチャー。SlackやNotionといったツールの使い方すら分からず、最初の数週間はずっと、何もできない自分に直面している感覚にとらわれていました。チームはみな忙しく動いており、待っていても誰も手を止めてくれません。そのため入社当初は、自分はこの環境に合わないかもしれないと感じることが多かったです。
―― それでも、1年以上ずっとヒーコで働き続けています。
ある時から意識を変えるようにしました。自分が動かないと何も始まらないと考え、「すみません、これがわからないのですが、教えていただけますか?」と素直に聞くよう心がけました。
とはいえ、話しかけるタイミングや空気を読むのにも気を遣います。忙しい人に声をかけるのは簡単なことではありませんでした。上司に相談したところ、「完璧な人なんていない。分からないときは、遠慮せず聞いて」と言ってもらえ、気持ちが少し楽になりました。
それ以降、わからないことは抱え込まずにまず聞くことを習慣にしたところ、業務理解のスピードが一気に上がっていきました。

P=Ryoji Iwata(XICO)
D=Yunxiao Zhang(XICO),Tomona Ito(XICO)
Ph=Natsumi Doi

少しずつ、できることが増えていった
―― 業務はどのような順序で覚えていったのでしょうか。
業務を覚えていく中で最初に取り組んだのは、発注書や請求書など、比較的シンプルな書類の作成でした。フォーマットに沿って正確に仕上げる作業は、ヒーコの業務フローやルールを理解する入口になりました。
次第に、プロジェクトにおけるタスク整理や進行のリマインドなど、チームの動きを支える仕事も任されるようになります。Slackでのコミュニケーションにも慣れ、自分の役割が少しずつ明確になっていきました。
やがて、中国ブランドを対象とした案件にも関わるようになり、語学力を活かして通訳や翻訳を担当する場面が増加。プロモーション支援などを通じて、リアルな現場に入っていく感覚がありました。
―― 前職で身につけたスキルが活きる場面はありますか?
ヒーコではディレクション業務が中心で、自分が手を動かすことは多くありませんが、Instagramのリール動画制作に挑戦することがあります。そうした場面では、前職で培った映像編集のスキルが活きてくるのを感じます。キャプションやハッシュタグの選定も自分で行うため、表現の自由度が広がっていく感覚を得られました。また、日本語能力試験N1(JLPT一級)を取得しており、打ち合わせや制作の現場では、言語の壁を越えてコミュニケーションの橋渡しを担うこともあります。
現在は、see you gallery(ヒーコが運営するアートギャラリー)の、中国向けSNSでの発信にも取り組んでおり、ユーザーからの反応をダイレクトに感じることができ、発信力や翻訳以上の価値を実感しています。
こうしたプロセスを経て、できることが着実に増えていくと、自信にもつながっていきました。今では、あらゆることをスムーズにできているという感覚が、日々の仕事を楽しくさせる原動力になっています。
失敗と成長のサイクルが、仕事を面白くする
―― 仕事でミスをしたことはありますか?
入社して間もない頃は、業務の進め方や文化の違いに戸惑い、ミスも多くありました。日本語での社内文書やクライアントとのメール、会議で使われる言葉の細かなニュアンスを正確に理解するのは、今でも慎重に向きあっている課題の一つです。
当初は、わからないまま作業を進めてしまい、後から修正が発生することも少なくありませんでした。上司や先輩からは、その都度フィードバックを受けてきました。内容は決して厳しくなく「こうしたほうがもっと良くなる」「この点は事前に確認しよう」といった、改善にフォーカスした指摘が中心です。
もちろん、落ち込むこともありました。ただ、ヒーコで受けるフィードバックは責めるためのものではなく、次につなげるためのもの。原因を一緒に整理し、再発を防ぐためにどうすればいいかを考えるプロセスが必ず用意されています。
そうした積み重ねがあるからこそ、ミスをした後も立ち止まらず、次へと進む力が生まれるものだと感じました。改善点が明確になれば、自分のやるべきことが見えてくる。その感覚は、前職では得られなかったものでした。
―― プレッシャーを感じる場面はありますか?
制作に対するプレッシャーは常に感じています。特に、「中国人である自分の視点」が日本の受け手にどう受け止められるか、という部分では常に緊張感があります。
それでも、不安や迷いは周囲との会話の中で、少しずつ解消されていきました。アイデアを出せば、他のメンバーが意見を重ね、企画が磨かれていく。そのプロセスそのものが学びであり、仕事の面白さにつながっていると感じています。
「自分ひとりで完璧を目指さなくていい」そう思えるようになってから、挑戦することが怖くなくなりました。今は、失敗すら次の成長に変えられるサイクルの中にいると実感しています。

P=Akiomi Kuroda(XICO) CP=Ryoji Iwata(XICO)
D=Mizuki Aoi(XICO),Yunxiao Zhang(XICO)
Ph=Takashi Yasui
働き方と評価制度は、フェアでわかりやすい
―― 転職して、働き方は変わりましたか?
テレビ業界で働いていた頃と比べると、働き方の質は大きく変わりました。ヒーコでは、業務をきちんと終えれば、自分の時間を確保できます。終業時間ピッタリにオフィスを出て待ち合わせ場所に向かう、そんな日も少なくありません。
決められた時間にただ「いること」が評価されるわけではなく、何をやったか、どう貢献したかが重視されます。おかげで、生活リズムも整い、プライベートとのバランスも自然ととれるようになりました。自分の責任の範囲を理解し、メリハリをもって働ける環境だと感じています。
―― ヒーコの評価制度について教えて下さい。
評価制度については、関わった案件ごとに、数値や成果として自分のアウトプットが見える仕組みが整備されています。たとえば、制作した動画やSNS施策の成果、プロジェクトの進行状況など、それぞれの業務ごとに明確な指標が設定されており、感覚的ではなく、実績に基づいた評価がされます。
年末には、自分自身の実績を振り返る時間があり、どれだけのことをやれたのかを可視化。そのうえで、上司と1対1で丁寧にフィードバックを行い、翌年の目標をすり合わせていきます。
さらに、成長の方向性についても一方通行ではありません。本人の意思が尊重される点も、ヒーコの評価制度の魅力だと感じています。上司との対話の中で、「次に何をやってみたいのか」「どういうスキルを深めたいのか」といった思いを率直に伝えられるのは、とても貴重な機会です。
中国案件の中で見えた、次の自分
―― 張さんが今取り組んでいる業務について、教えてください。
現在は、日本国内の案件に加えて、中国ブランド関連のプロジェクトにも関わっています。通訳・翻訳・動画編集・SNS運用など、担っている業務は多岐に渡ります。中国企業や中国人と関わる場面では、語学力と編集スキルの両方を発揮できる機会が増えてきました。
クライアント対応、資料の翻訳、文化的背景を踏まえたSNSキャプションの調整、リール動画の制作など、業務は多岐にわたります。中国語でのコミュニケーションと、ビジュアル制作の両軸でプロジェクトに関われることに、大きなやりがいを感じています。
自由な提案が、主体性を育ててくれる
―― ヒーコで働いてよかったと感じることは?
ヒーコの仕事には「これが正解」というかたちがありません。たとえば、投稿の背景色を変えるといった細かな提案でも、「いいと思うならやってみて」と背中を押してもらえます。そうした自由度が、「やってみたい」という感情を自然に引き出してくれるのです。自ら考え、動くことが歓迎される文化が、私の中にある主体性を育ててくれました。
ヒーコは、変化を受け入れるカルチャーがある場所
―― 張さんにとって、ヒーコはどのような場所ですか?
ヒーコには、変化を歓迎し、個人の挑戦を支えるカルチャーがあります。やるべきことは明確で、仲間もいて、そして何より、自分のペースで着実に前へ進める環境が整っています。
今後は、語学力や文化理解、発信力を掛け合わせ、日本と中国をつなぐ存在になっていきたいと考えています。将来的には中国支社の立ち上げにも関われたらと考えていますし、一方で、いつかは子ども向けのおもちゃ屋を開きたいという個人的な夢も大切にしています。
ヒーコでの日々を通じて、自分のこれまでの経験がつながり始めている。今は、そんな実感を持ちながら働いています。