水島貴大 展示との対話「I’m from Long Hug Town」|Dialogue in see you gallery

Oct. 24. 2025

SHARE

  • xでシェア
  • lineでシェア

東京・恵比寿の「see you gallery」での、写真家・水島貴大さんによる個展「I’m from Long Hug Town」。

ご自身が生まれ育った街である東京都・大田区などで撮影された「Long Hug Town」と、台湾を一周しながら撮影したという「環島回憶錄」の2作品から構成された同展には、水島さんが大切にする「街とそこに生きる人」というテーマが、展示数400点を超える圧巻のスケールで表現されています。

今回は水島さんに、展覧会や作品の製作背景や、スナップ撮影において心がけていること、インスピレーションの源などについて、詳しくお話を伺いました。

Takahiro Mizushima

Photographer

1988年 東京都出身。2017年台北で開催されたポートフォリオレビューイベントPhoto oneでグランプリを受賞。街とそこに生きる人をテーマに写真作品を制作してきた。2018年、21_21 DESIGN SIGHTでの企画展「写真都市展 -ウィリアム・クラインと22世紀を生きる写真家たち-」に参加後、連州国際撮影年展 (連州,中国2019) 、 「THE TEXTURE OF PROMISES」(サンセバスチャン,スペイン2022) 、釡山国際写真祭(釡山,韓国2025)など、国内外の企画展に参加。2016年よりインデペンデントギャラリーであるTOTEM POLE PHOTO GALLERYのメンバーになり独自の発表の場も設けている。

日常の隙間から“生”が見え隠れしている瞬間を写真に収めたい

―― 「街」と「人」にフォーカスを当てた作風で、国内外から注目を集める水島さん。水島さんがふだん街中で「魅力的だ」「撮りたい」と思うのは、どのような人物・どのようなシチュエーションですか。

「街とそこに生きる人」というテーマが明確に見え始めてからは、「その人がそこに生きている」ということを感じられる瞬間に声をかけることが多くなりました。

たとえば、服装でいうと、どこかよそ行きの格好をしている人よりも、近所のコンビニに行くような格好だとか、部屋にたまたま置いてあったものを羽織って出かけたような「その人の日常の延長線上で、今私の前に立っているんだな」と思える瞬間が好きです。その人がその土地や街とつながってそこに生きている、ということが感じられるので。

もちろんそういった服装の人だけに声をかけているわけではありませんが、総じて言えば、「街」や「生きている」という言葉から得られるイメージを追っているのではないかと思います。“生”や生々しさが覆い隠されながらも、日常の隙間から見え隠れしているような瞬間を「いいなあ」と感じ、声をかけてみることが多いです。

―― 被写体となるのは一般の方が多いですが、撮影する上で心がけていることはありますか?
私は街なかで撮らせてもらうとき、基本的には先に声をかけてから撮らせてもらうようにしています。声をかけずに撮ることが全くないというわけではないのですが、それは「スナップショットとして、声をかけていたら間に合わない」というときくらいで。

かといって、「声をかけてから写真を撮る」ということを、必ず守らなければならないルールだと思っているわけではなく、ただ自分の作品からすれば必然的なことだと思っているんです。声をかけることで1枚1枚の写真に思い出が残り、その思い出を積み重ねてたくさんの写真にしていくことで、“記憶のなかの街”のような作品が生まれると考えています。そういう作品をつくりたいと思っています。

「声をかけて写真を撮る」という行為において心がけている点もひとつあって、それは「嘘をつかない」ということ。訊かれたことや、相手が疑問に思っているであろうことには、すべて正直に答えます。すごく簡単なことなんですが、「撮りたい」という欲求に負けてとっさに嘘をついて撮ってしまうという経験も若い頃にはあって。「この判断は失敗だった」と当時に気づいて、反省しました。ですがその経験を経て、自分が正直に自信を持って写真家として名乗り活動していくことによる風通しの良さにも気づきました。なので、今心がけていることは、「後ろめたいことを残さずに撮る、そのためにただ正直に話す」ということですね。

―― 水島さんは、数々の写真家の方々が運営する東京・四谷のアートフォト専門のギャラリー「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」の運営メンバーとしても活動されていますよね。メンバーに加わったきっかけは何でしたか?

私は「東京ビジュアルアーツ」という専門学校で写真を学んだのですが、当時の担任講師が「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」の創設者である写真家の有元伸也さんだったんです。20歳の頃、学校の卒業制作を発表したあと、有元さんに「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」でその作品の個展を開催してみないかと誘ってもらったのですが、それが私の初個展でした。

卒業後は就職せず、アルバイトをしながら自分の作品を制作して作家活動を続けていたのですが、有元さんは私にとって師匠のような存在だったので、写真が撮りたまったら有元さんに見せに行く、ということを続けていました。ギャラリーに空きがあれば個展を開催させてもらったりもして、本当にお世話になりましたね。

卒業から6、7年経ち、私の処女作である「Long Hug Town」の足がけのような写真を撮りはじめていた頃、その写真もまた新宿の喫茶店で有元さんに見てもらい、個展をさせてもらえないかとお願いをしました。その個展を開催したとき、自分としてもすごく手応えを感じて、「このシリーズを定期的に発表して育てていきたい」と思ったんです。追いかけるテーマが、自分のなかで明確になりつつある時期だったのだと思います。

その個展の開催終了後に、有元さんに「ギャラリーのメンバーとして活動したい」と伝えたところ、快く承諾してもらえて。それからメンバーとして定期的に作品を発表するようになりました。

―― 「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」での活動は、水島さんにどのような影響を与えていますか?
写真を撮ることと展覧会を開催することというのは、写真家として直結した流れではありますが、展覧会で自分の空間をつくり上げるという段階になると、撮影しているだけでは養えない知識や技術的な部分も当然必要となります。それを実際に、経験を通して鍛錬できるというのは、自主ギャラリーの活動に携わっていてよかったなと思える点ですね。

次回の展覧会スケジュールが常に決まっている状態なので、写真家としての緊張感が保たれますし、ほかの運営メンバーが活躍すれば、嫉妬をすることもあります。それがまた活動の刺激となったりして、自分を高めようと思うチャンスにたくさん出会えるんです。いろんな意味で、場数を踏める場所ですね。

生まれ育った東京と、ルーツのない台湾。それぞれの場所で生まれた2つの作品

―― 2020年には台湾へ移住し、現在は日本と台湾の二拠点で活動されていますよね。台湾に移住しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

そもそも初めて台湾を訪れたのは、2017年に「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」の活動の一環として、現地のブックフェアに参加したときでした。そのイベント内では、同時にポートフォリオレビューのイベントが開催されていたので、ブックフェアで販売するために制作した手作りのZINE「Long Hug Town」を持って行ったところ、その作品が大賞を受賞できたんです。それを機に台湾で個展を開催するなどして往来が続くようになり、台湾が好きになっていきました。台湾の街を見ていて、自分の作品に通ずる何かを感じていたんだと思います。台湾は自分の作品を受け入れてもらえた場所でしたし、自分の感性と合うのではないかという直感もありました。

その頃は「Long Hug Town」も終盤で、ちょうど次回作をどうするか検討していた時期でしたので、「台湾で写真を撮ってみたい」と思いました。でも、「撮るなら台湾で暮らさないといけない」という考えがあって。旅行者の視線で写真を撮っても、私がテーマとする”街とそこに生きる”という目的には近づけないと思ったんです。そこでワーキングホリデービザを取得して、2020年1月から移住を開始しました。

―― 今回の展示にも採用されていましたが、台湾全土で撮影された「環島回憶錄」もかなり印象的でした。水島さんは、台湾にはどのような魅力があると思われますか。
台湾の街を眺めて最初に抱いた印象は、「人がありのままに生きている」というものでした。私が東京生まれ・東京育ちなので余計にそう感じたのかもしれませんが、台湾は東京に比べると、良い意味で“適当さ”が残っているんです。いろんなものを覆い隠そうとしていないというか、「出るものは出るよね」という考え方があるように思えて。だからこそ人が生き生きとして見えますし、生っぽくて、表情も豊かで、「これでいいんだ」と思わせてくれる。そこにすごく、人間としての暖かみを感じたんです。まさにこれが、私が「Long Hug Town」を通して言いたかったことなんじゃないかと、運命を感じましたね。

―― 今回の展示「I’m from Long Hug Town」は、「Long Hug Town」と「環島回憶錄」で構成されていますが、2つのシリーズに共通する点はありますか。

土地は違いますが、同じものを追っている点でしょうか。とはいえ、私自身は「Long Hug Town」を拡張した世界観として「環島回憶錄」をとらえていますが、「Long Hug Town」には“土地との関連性”がありますから、すべてが同じというわけでもないのですが。

「Long Hug Town」は自分の生まれ育った街である東京都大田区で撮影したものでしたので、土地そのものに思い出があり、自分とのつながりがありましたが、台湾の作品では、自分にとってまったくルーツの無い場所で撮影しなければならなかったので、どのように自分とのつながりを見つけるかがとても重要でした。そこで辿り着いたのが、タイトルに冠した「環島(かんとう)」。台湾を一周する行為の名前です。

台湾で人々に広く認識されているこの行為は、ある種儀式のようなもので、「環島を経て初めて自らが台湾に生きる一人であると認めることができる」と考えられています。環島について知ったとき、これならこの土地につながる何かをつくれるかもしれないと考え、台湾全土で街とそこに生きる人を撮ってみようと思いました。そうして自分なりの台湾一周として作品にしたのが「環島回憶錄」なんです。

自身のなかにあるイメージを再現したダイナミックなインスタレーション

―― 今回の展覧会では、まるで見知らぬ街角に迷い込んだかのように、ギャラリーの空間が大胆に使われているのが印象的でしたが、どのような想いが込められているのでしょうか。

今回のようにギャラリーの空間全体を使用し動的なインスタレーションとするのは、過去の写真展でも度々採用していましたが、その設計の元となっているのは、やはり自分のなかのイメージです。

過去の展覧会ステートメントにも「私は街中を歩いているとき、同じ時間の中でみんなが泣いたり笑ったりしているんだってことを想像しています」と記していますが、これが私の世界に対するイメージの前提としてあり、それは街という空間のなかに点在する人々の群像を、ひとつの振動として全身で捉えているということだと思うんです。その動的なイメージを表現するために展覧会を重ねてきた結果、自然とこういう形になっていました。

―― 今回は展覧会のキュレーションとZINEの編集に、キュレーター・編集者の池谷修一さんが参加されていますが、池谷さんはどのように関わられましたか。

今回の「I’m from Long Hug Town」は、私が大田区や台湾も含めた街で10年以上撮影してきた写真を総集的に展示したものですが、実は同名の展覧会を、昨年末に別の場所で開催しているんです。その展覧会は、取り壊しが決まった大田区の自宅で開催したもので、本当に土地としても建物としても自分との深いつながりをもっていました。それで、「自分はここで生まれた」ことを強調する意味で「I’m from 」という言葉を足したんです。

かねてから親交の深い池谷さんもその展覧会へ来てくださったのですが、その際に「この展覧会、別の場所でもやりたいね!」と言っていただけて。その後しばらくして「see you gallery」を紹介してくださり、今回の展覧会の開催が決まりました。計3日間かかった設営も、池谷さんに手伝っていただいています。おおよその部分のプラン設計は私に任せてもらい、最後に全体のバランスを整える段階で池谷さんの意見もいただいて、写真の編集的な目線でお互いに意見を交わし、よりバランスのとれた設計で展覧会を開催できたと思っています。

ZINE「Long Hug Town」の編集では、2018年に出版した写真集には含まれていなかった未発表写真を池谷さんへ渡して一度自由に編集してもらい、その内容を見て、デザイナーの伊野耕一さんも含めた3人で話し合って、最終的な方向を決めました。

前回の展示の様子

―― 「I’m from Long Hug Town」の展覧会として、前回と今回とで、意識して違いをもたせた部分はありますか?

自分自身が暮らした一軒家と恵比寿のギャラリーというだけで大きく違いがありますので、最初から意図して違いをもたせようとはせず、変わらず自分の思うままにやらせてもらおうと思っていましたし、無理にきれいにまとめようとも思いませんでした。いろいろと好き勝手してしまうけど大丈夫かなあという、ギャラリーの方々への申し訳なさみたいなものはありましたが……。必ずみなさんの予想を上回るものができるという自信があったので、自分の思うように設営させてもらいました。

ただ、「see you gallery」は空間がいくつかに分かれたギャラリーなので、セクションごとに見どころをつくることが全体の印象につながってくると感じ、その点には注意しました。私の展覧会は写真の展示数がかなり多いので、見飽きない空間づくりも心がけています。

―― 今回の展示を実際にご覧になった方からは、どのような感想がありましたか。

まず、物量に驚く方が多かったですね。私にはすでに見慣れた展覧会の光景なので、あまり刺激的ではないのですが、動的なインスタレーションと物量にまず圧倒される感想が多いです。

それでいて、「暖かい感じがする」とか「落ち着く」という言葉に着地する感想をいただくことも多くて。私としては、それをほんとうにうれしく感じます。

Information

EXHIBITION

I’m from Long Hug Town
会期:2025年10月11日(土) – 10月26日(日)
営業時間:13:00 – 20:00 (会期中無休、入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
キュレーター:池谷 修一(写真編集者・インディペンデントキュレーター)
ディレクション:黒田 明臣
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

by Takahiro Mizushima

水島貴大 展示との対話「I’m from Long Hug Town」|Dialogue in see you gallery

Oct 24. 2025

Newsletter
弊社、プライバシーポリシーにご同意の上、ご登録ください。

このシリーズのその他の記事

関連記事

ARTICLES

Loading...