写真展「東京路地裏散歩 meets seju」談話|酒井貴弘 × J.K.Wang

Apr. 17. 2025

SHARE

  • xでシェア
  • lineでシェア

2025年4月5日、写真展「東京路地裏散歩 meets seju」のトークイベントが開催された。この展示は写真家・酒井貴弘氏が2021年から続けている「東京路地裏散歩」というライフワークと、Z世代を中心に人気のタレント事務所「seju」とのコラボレーション企画だ。展示会場では、sejuに所属する6名のタレント(今森茉耶、沢田京海、なえなの、平松想乃、実熊瑠琉、向井怜衣)の、東京の各地で撮影された一人一人の個性や素の表情を捉えた写真が展示されている。

トークショーでは、写真家・酒井貴弘氏と、本写真展のプロデューサーであるJ.K.Wang氏のお二人を中心に、会場である「see you gallery」のオーナーでディレクターの黒田明臣氏を進行役として、写真展の企画から展示構成、そして撮影の舞台裏まで語られた。

Takahiro Sakai

Photographer

長野県出身、関東を拠点に活動。ソーシャルメディア時代ならではのアマチュア写真活動から2019年にフォトグラファーとして独立。人物写真を主軸に広告や漫画誌、カルチャー誌、写真集、映像など分断のない領域で活動の幅を広げている。SNSでのフォロワー数は、延べ18万に及ぶ。近作は、NGT48・本間日向1st写真集「ずっと、会いたかった」、西垣匠1st写真集「匠-sho-」、私が撮りたかった女優展vol.3参加など。2024年4月よりCo Agencyに所属。

J.K.Wang

Producer

株式会社ギローチェ代表。1990年生まれ、東京都在住。2019年に会社を設立すると同時に、私が撮りたかった女優展をプロデュースし、以降年に1回のペースで展示を企画している。2023年には福岡、名古屋など地方のPARCOにてアーカイブ展「私が撮りたかった女優展 in PARCO 2019〜2023」を開催。また男性俳優を起用した姉妹企画「私が撮りたかった俳優展」もスタート。ギローチェでは展示のプロデュースや写真集の出版の他、企画・制作・マネジメント等を行う。2025年より恵比寿に誕生したsee you galleryのギャラリーディレクターとしても活動。ギローチェは機械式時計のギョーシェ彫りに由来。

Akiomi Kuroda

Photographer

株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。

『東京路地裏散歩』の始まり — 「深い意味を持たせずにスタートした」

ギャラリートークイベント
黒田

この『東京路地裏散歩』というシリーズも含めて、最初はどのように始まったのかから教えていただけますか?

酒井

元々、『東京路地裏散歩』という名前をつけて、いろんな方と東京の路地裏を散歩しながら撮るということを2021年くらいからやっていたんです。「東京」と「路地裏」と「散歩」を繋げたら、なんか語呂がいいなと思って。特に深い意味を持たせるでもなく始めたんです。インスタで投稿する時のタイトルとしてつけていたんですけど、3年くらいやっていると一つのスタイルみたいになってきて、色々な方を撮っていく中で共通するものが見えてきて、結構面白いなと思って続けていました。

黒田

そういうシリーズを自分の中にもつというのは作家として大切だとは思うのですが、こうして大規模な展示という形にできるのは凄いことです。若手同士の企画ではある一方で、非常にクラシックスタイルなプロジェクトというか。どういう経緯で写真展の実現へと繋がったのですか?

酒井

ちょうど形にしたいなと思っていたタイミングで、sejuの担当の方と話していたんです。ちょうど写真展に興味があるといった話があったので、『じゃあ一緒にやってみませんか?』というところからスタートして、今回の『東京路地裏散歩 meets seju』という企画につながりました。

黒田

素晴らしいですね。加えてWangさんのようなプロデューサーの方にとっても気になる企画であることも重要な要素だと思います。Wangさんの視点では、このシリーズのどのあたりに魅力を感じられたのですか?

Wang

最初からわかりやすいコンセプトを掲げて何かに繋げていくぞ、みたいな感じがないのが逆にいいなと思いました。普通、写真を撮る方だったら、いかに自分の作品を差別化して、どうやったら見てもらえるかというきっかけを考えますよね。でも、この企画は酒井さんがそこまで考えずに始めたものが、結果として酒井さんにとっても良い時間になって続いている。そこに自分が介在できる余地も感じられるというか。

“東京”にこだわる理由 — 「東京の路地裏には物語が詰まっている」

黒田

『東京路地裏散歩』というタイトルについて、『東京』という言葉へのこだわりはあるんですか?

酒井

それは僕的には重要なポイントで、ただの”路地裏散歩”というシリーズではないんです。「東京」がついている意味があって。ステートメントにも書いたんですが、『東京の路地裏には物語がある』というのが最初の一行なんです。東京には夢を抱いて地方から出てきた人たち、ずっと住んでいる人たち、夢が叶わず帰っていく人たち、いろんな人たちがいます。それは渋谷や表参道といった表の面だけでなく、みんなが帰っていく路地裏にこそ、いろんな物語が詰まっていると思うんです。単なるどこかの街の路地裏ではなく、「東京」という都市の中の路地裏だからこそ、そこにいろんな人たちの夢や挫折、日常が詰まっているんです。

Wang

今回、撮影にできる限り同行させてもらったんですが、渋谷などの表の顔ではお仕事を頑張る姿を見せないといけないという反面、路地裏が家だとしたら、そこで遊んだり、無理しない姿、着飾らない姿を出すことができる。撮影していてもそういった感覚を感じましたし、皆さんも普段の撮影とは違う、オフに近い感覚で臨んでくれていたと思います。写真のスタイルも古き良きというか、純文学っぽさというか、デジタルデバイス的な雰囲気より小説みたいな感じがします。

写真家とプロデューサーの役割分担 — 「信頼関係があるからこそ」

黒田

展示の構成や写真集の制作について、お二人はどのように役割分担されたのでしょうか?

酒井

sejuさんとの企画が決まって、僕も撮影はするけれど、展示までしっかり組み立てるのは難しいと思いました。それで展示のプロデューサーやディレクターが必要だということになって、Wangさんにお願いすることにしたんです。実は以前から東京路地裏散歩を形にしようとは話していて、今回それが形になりました。

黒田

では展示の構成はWangさんなんですね。今回の展示は是非見ていただきたいんですけど、ほんとうに構成が豊かですよね。

Wang

撮影に同行した時に、撮影スタイルや場所、路地の雰囲気を見たことが後々生きてきたところもあります。大都会には色彩がたくさんありますが、路地裏に一歩入ると色彩が減る反面カラーコーンやカーブミラー、ポールなど、点在する人工物がやたらと目立つことに気づきました。そういう奥行きを展示に取り入れたいと思いました。

黒田

写真家の方が、安心して展示の構成を任せられるというのは、お互いの信頼関係があってこそですよね。

酒井

Wangさんはディレクター兼プロデューサーとして様々なことをやられていますが、純粋なプロデューサーというよりも、元々クリエイターとしてのセンスがあると思うんです。クリエイターとしてのセンスを出してもらえるのが面白いなと思いました。今まで一緒に色々やってきたので、その関係性があるからこそ任せられるんです。

ギャラリートークイベント

展示の工夫 — 「写真のリズム感を大切に」

黒田

個展でよく言われるのは、色々とやりたくなってしまって多様な展示方法が混在した結果よくわからなくなってしまうケース。今回の展示は、そういう問題は一切なく、心地よい満足感があります。どのような工夫をされているのですか?

Wang

黒田さんが言われることは僕も写真展を訪れるときに感じるところで、今回気にしたポイントでした。そう言っていただけたので安心しましたが、来ていただいた方に何を持ってかえってもらえるかというのはすごく意識しています。究極、一枚の写真しかなかったらその一枚をイメージして帰るわけですが、あまりに雑多だと何を持ち帰っていいか分からない。今回は、来られる方は若い方が多いだろうと思っていたのと、普段写真展に行く層ではないと考えていました。となると、初めて観る写真展になる可能性があって、そんな方たちにも面白いなと思ってもらいたいし、古き良き写真展もいいねと思ってもらいたい。ただしイベントとしても楽しさがないと、入場料を払っていただく以上は満足させられないと考えていました。

また、もう一つ特殊なのは僕らは6人のために展示をしているけれど、見に来る人は自分の応援している1人のためかもしれない。だから特定の1人に対してでも入場料に満足してもらえるように、数も見せなければならないと考えた結果、展示枚数も展示方法も増えていった形です。あとは酒井さんがセレクトしてくださった写真にもリズムが合って面白いんですよね。

酒井

写真を展示する時は、写真集を作る時と同じように、リズムを大事にしたいと思っているんですよね。寄り、引き、寄り、引き、というように、見ていて心地よく、でもある場所では止まらせたいといったリズムを作りたかったし、被写体のサイズなんかも同じスケールで続くよりは全体のリズムを気にしていました。

撮影とセッション — 「準備したものを撮るのではなく、生まれるものを見たい」

黒田

撮影時はどのようなことを意識されているんですか?

酒井

まず、これは散歩写真ではないんです。『東京路地裏散歩』って名前を使っていますが、散歩がコンセプトではなくて、散歩をしながらのポートレートセッションなんです。皆さんが『ナチュラルで可愛い』と言ってくださいますが、可愛く撮ろうというよりは、その場で生まれる化学反応や空間の中で生まれる写真が大事だと思っています。場所やスタイルは決めていますが、『この表情を絶対撮ろう』とか『この構図で絶対撮ろう』とかは考えないようにしています。自分が驚きたいというか、セッションの中で何が生まれるかを見たいんです。なのでロケハンもしていません。

黒田

酒井さんのスタイルは、被写体そのものというよりも、その瞬間の中で被写体との間にあるなにかを撮っているように感じることがおおいですね。

酒井

そうですね。写真集にすることも最初から意識していて、だいたい64ページになることはわかっていたので、これくらいの量を撮っておけば一つの物語として完結できるだろうという撮り方をしています。おひとりの撮影で2,000枚くらいは撮影しました。

6人のタレントたち — 「それぞれの個性を引き出す」

黒田

撮影された6人の俳優陣について、それぞれ印象や狙いなどを教えていただけますか?

酒井

なえなのさんは、前から見ていていつか撮りたいと思っていました。普段はポップな世界観や可愛らしいイメージがありますが、今回はそれをいかに崩せるか、いつもと違う顔を見せられるかというのがチャレンジでした。結果として少しアンニュイな印象になりました。

平松想乃さんは、いつもヘッドホンをつけていて、そこから着想を得ました。いつもはおしゃれな感じのイメージですが、今回はもっとボーイッシュな感じ、少年っぽさを引き出せたと思います。それは可愛くもあり、彼女が持っている素質がより出たんじゃないかと思います。

実熊瑠琉さんは、顔立ちが可愛らしくて、女性のファンも多いです。写真集の表紙になっている、目しか映っていない写真など、かなり攻めた表現にチャレンジしました。想像より面白い写真がたくさん撮れました。

今森茉耶さんは、一緒に何回か撮影したこともあります。今回のチャレンジとしては、私のアトリエの和室で撮ったのですが、それがすごく良くて。たくさん写真を撮りすぎて、撮影に立ち会っていたWangさんからは「撮り過ぎだ」と止められるほどでした。

向井怜衣さんとは、中華料理店で撮影しました。美しい顔立ちをしていますが、お店の前で踊ったりする様子など、表情の中に甘さとかっこよさが混ざっているのが面白かったです。

沢田京海さんは、圧倒的に面白い人です。どんどん動いて、見つけた葉っぱで遊んだり、虫も大丈夫で…天性の天然素材という感じです。本当に撮りやすくて、こちらが何も言わなくても色々とやってくれるので助かりました。

2F奥のスペースでは、6人それぞれの撮影の裏側を垣間見ることができる。

さいごに — 「路地裏が持つ物語性を感じて欲しい」

ギャラリートークイベント

トークイベントの終盤では、会場で販売されている写真集についても触れられた。6人それぞれの写真集が制作され、限定のコンプリートボックスも用意されているという。

黒田

撮影に使用されているカメラについて教えていただけますか?

酒井

基本的にライカM type262で撮っています。

黒田

写真集の表紙は全部アップですが、Leicaだと寄れないですよね?

酒井

寄りの写真はニコンを使っています。さらに寄りたい時はGRⅡを持っていて、マクロモードで撮ったりもします。フラッシュを焚いている写真もGRⅡですね。7〜8割はライカで撮って、2割くらいがニコン、1割くらいがGRⅡという感じです。

黒田

面白いですね。写真集の表紙はどのように決められたんですか?

酒井

これ表1と表4で1枚の写真なので、実際は表1ほど寄ってないんです。Wangさんのアイデアですね。縦で撮った写真を横にして使い、写真集を開くと1枚のように見える構成になっています。切り取り方がすごく印象的になっているのはWangさんの写真の使い方のセンスだと思います。

Wang

表紙は写真を見せすぎず、『これ誰だろう?』と思わせるくらいがいいのかなと思ってセレクトしました。表1と表4で一枚の写真として見せるのは結構大変で、顔の向きや空間のバランスなど、そういう条件で成り立つ1枚を探すのは難しかったです。

酒井

写真集は6人分、64ページずつあります。コンプリートボックスは限定で、箱もすごく良いものです。

Wang

写真集の構成も一人一人考えています。展示と同じようにリズム感も大事にしました。

黒田

ロゴもそうですが、ボックスの色使いとか一つ一つの完成度も高いですよね。写真をやっている人は教材として買うのもいいと思います。また、最後にこの展示の見どころを教えてください。

酒井

もちろん推しのタレントさんを見に来る人も多いと思いますが、それだけではなく、写真展としても楽しんでほしいですね。

Wang

展示としての美しさ、写真のリズム感、そして路地裏が持つ物語性。そういったものを感じてもらえたらうれしいです。

SNSで総フォロワー数18万人を超える酒井氏と、Z世代を中心に絶大な支持を受けるタレント達のコラボレーションは、まさに”SNS的”ではあるものの、実際にプリントされた作品を、ギャラリーという”古典的”な場所で観ることでしか感じられない何かがきっとあるのではないだろうか。既に足を運んだ方も、このトークショーで語られた背景も踏まえて、改めて観ると、見え方が違ってくるかもしれない。

「東京路地裏散歩 meets seju」展は4月21日まで、東京・恵比寿のsee you galleryで開催中。酒井氏によれば、平日も在廊していることがあるそうで、写真集購入時にはサインももらえるとのこと。詳しくは酒井氏のSNSをチェックしよう。

3F壁面に飾られているプリント作品は全て購入可能
展示会場ではメッセージボードをご用意しています。
ご来場の際には、ぜひご一筆ください。

Information

EXHIBITION
東京路地裏散歩 meets seju
会期:2025年4月1日(火)〜 4月21日(月)
営業時間:13:00〜20:00(会期中無休)
※4月20日のみ17:00閉館
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
観覧料:500円(未就学児無料)
入場特典としてポストカードをランダムで1枚お渡し

BOOKS
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」全6冊 各2,530円(税込)
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」6冊セット・BOX仕様 14,800円(税込)
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」6冊セット・BOX仕様 6名のサイン入り 22,000円(税込・国内送料込) ※後日発送

CONTACT
会場や会期に関するお問い合わせ: contact@seeyougallery.com
酒井貴弘氏へのお問い合わせ: co.agency@xico.co.jp (伊藤宛)

by Yusuke Arai

写真展「東京路地裏散歩 meets seju」談話|酒井貴弘 × J.K.Wang

Apr 17. 2025

Newsletter
弊社、プライバシーポリシーにご同意の上、ご登録ください。

このシリーズのその他の記事

  • 30種類以上のフィルムカメラを使ってわかった!最初に買うべきおすすめのフィルムカメラ3選
  • 海ポートレートの決定版!フォトグラファー視点で選ぶおすすめビーチ特集!
  • キャンパスの写真家がアツイ!早稲田祭展に行ってみたらプロカメラマンも驚くクオリティだった件
  • 人物撮影をポートレートと呼ぶのはもうやめにしたい。

関連記事

ARTICLES

Loading...