2025年4月1日(火)から21日(月)まで、写真家・酒井貴弘さんと芸能プロダクション「seju」のコラボレーションによる写真展「東京路地裏散歩 meets seju」が、東京・恵比寿の「see you gallery」にて開催されています。
被写体となったのは「seju」所属タレントである、今森茉耶さん、沢田京海さん、なえなのさん、平松想乃さん、実熊瑠琉さん、向井怜衣さん。彼女たちが東京の路地裏を歩く小さな物語を、酒井さんが独自の目線で切り取っています。
今回は酒井さんに、ご自身のライフワークである「東京路地裏散歩」シリーズについてや、写真展の製作背景、被写体との向き合い方などについて、詳しくお話を伺いました。
東京の路地裏には「誰か」の物語がある

―― 2021年ごろから、酒井さんがライフワークとして続けてこられたという「東京路地裏散歩」。かねてからSNSでも注目を集めていたシリーズですが、どのようなきっかけではじめられたのでしょうか?
実は、当初から「こういうプロジェクトをはじめてみよう」と思っていたわけではありませんでした。仲のいいモデルさんや女優さんと個人的な撮影をするとき、撮影場所に路地裏を選ぶことが多かったので、SNSに投稿するときに「東京路地裏散歩」という“まとめ”的なハッシュタグをつけていて、それがそのうちシリーズになっていったんです。
―― 撮影場所に路地裏を選ばれていたのはなぜですか?
僕、東京の路地裏が好きなんです(笑)。六本木とか銀座とか表参道とか、いかにも都会的で華々しいスポットを歩いているとわからないけれど、ちょっと道をそれて路地裏に入ってみると、古びた家や小さなアパートがあったり、子どもたちの遊ぶ公園があったりして、ふつうに生活している人たちの物語が見えてくることがありますよね。
たとえばそこには、夢を追って上京してきたばかりの若者や、夢やぶれて故郷へ帰ろうと考えている人もいるかもしれない。僕自身が長野から上京してきた人間だというのも関係しているかもしれませんが、東京の路地裏には、夢をもった人たちの複雑な物語を垣間見せてくれる何かがある気がして、心惹かれてしまうんです。
今回の展示では、路地裏だけでなく、アパートの一室などの室内での写真も盛り込んでいますが、これはそんな物語を感じてもらえるよう意図したものです。彼女たちが路地裏にある小さなアパートに住んでいて、そこから散歩に出かけて、そしてまた帰っていく、というようなイメージですね。

―― たしかに、キラキラした面しか見ようとしなければ、東京はとても華やかな街ですが、実際にはもっとリアルで生活感ある場所も多いですよね。そういう意味では、「東京路地裏散歩」の被写体となっている、SNSやメディアで活躍するみなさんに通ずるものがある気がします。
今回はZ世代の憧れともいえる、芸能プロダクション「seju」の女の子たちが登場してくれているので、とくに「いつもとちがう面」が見える作品になっているのではと思います。ふだん表舞台で輝いている彼女たちが、日常的ともいえる風景に溶け込んでいる姿を見て、「この子も自分と同じ世界で生きているんだ」と感じてもらえるんじゃないかな。
もちろんこれが彼女たちの「素」というわけではないと思うけれど、彼女たちがまわりに持たれているキラキラしたイメージを少しだけ崩せるよう、意識して撮影しています。
全体のバランスを意識してつくり込んだ世界観
―― 「東京路地裏散歩 meets seju」の開催は、どのように決定されたのでしょうか?
2024年は写真展などの個人的な活動があまりできていなかったので、2025年には何かやりたいなと、去年の夏ごろから考えていました。ちょうどそのタイミングで、「seju」の担当者の方が「写真展を開催したい」と発信されているのを拝見して、「ぜひ一緒にやりませんか?」とお声がけしたのがきっかけです。

―― 今回展示された写真はすべて撮り下ろしということですが、「東京路地裏散歩」というひとつのテーマで6名の方を被写体とするうえで、それぞれの撮影にちがいが生まれるよう意識されましたか?
あまりひとりひとりの撮影に縛りを持たせないほうがいいと思っていたので、どの方を撮影する際にも「路地裏で撮る」くらいしか意識していませんでしたが、衣装の色などは被らないよう、スタイリストさんと事前に打ち合わせをしました。
スタイリングに関しては、色のセレクトだけでなく、日常的な景色とちょっとユニークな衣装との対比が良い違和感を生み出すかなと思い、多少こだわりをもたせています。とはいえ、あまりにファッショナブルな衣装だと景色から浮きすぎてしまうので、そのあたりの絶妙なバランスづくりは、スタイリストの方々の手腕に頼りました。

―― 色といえば、展示会場でも、パネルの側面やテーブルなど、さまざまなところに色がアクセントとして取り入れられているのが印象的でした。
展示の構成には、株式会社guillocheのJ.K.Wangさんが協力してくださったのですが、色を効果的に取り入れるアイデアは、Wangさんが僕の撮った写真から着想を得て提案してくれたものです。長方形や円形のパネルだったり、額装だったり、展示方法をいろいろ採用してみるというアイデアもWangさんによるもので、かなり時間をかけてこだわってくださいました。おかげで、すごく素敵な展示になったと思います。
入口からすぐの広い空間にパーテーションを設けて、ギャラリーにさらに回遊性をもたせているのですが、これは僕も「やってみたいな」と思っていたアイデアです。ぐるぐると回りながら見る構成だと、路地裏を散歩しているような感覚を味わってもらえるし、おもしろそうだと思って。

――展示する写真のセレクトは、酒井さん自ら行われたのでしょうか。どのような基準で選ばれましたか?
3階のパーテーションにカジュアルに展示している写真はすべて僕がセレクトしていて、2階の展示に関しては、半分くらいかな。
写真のセレクトは、全体のバランスを見て考えながら行いました。寿司に例えるのも変ですが、“大トロ”みたいな写真ばかりずらっと並んでいたら、胃もたれしそうじゃないですか(笑)。ちゃんといろんな“ネタ”が並ぶように、ちょっと抜け感のある写真も意識して選んでいます。
それぞれの「東京路地裏散歩」中に撮った景色の写真なんかも、隣の写真との相性などを考えながら並べました。1枚1枚の写真からというより、全体を通して世界観が伝わるようにつくっていますね。
常に被写体を肯定的にとらえる存在でありたい


――今回の展示では、被写体が逆光に包まれているものや、室内に差し込む光を肌に反射させたものなど、光を効果的にとらえた写真が多いことも印象的でした。これらは計画的に撮影されたものでしょうか?
どれも「こういうのを撮りたいな」とイメージして撮影したものではなくて、撮影中に「この光きれいだな」と気づいて撮ってみた、偶発的な写真ですね。
僕は、音楽でいうとジャズのセッションのような、即興性のある撮影が好きなんです。その日の天気とか、その場所に生まれた光と影を見つけたりしながら、光とのセッションを楽しむような撮影が好み。元来大ざっぱな性格なので、完璧に計画を練って臨むより、そのときの素材を活かして撮るほうが得意なんだと思います。

――被写体のみなさんのごく自然な表情も魅力的でした。これは酒井さんの写真の特徴でもあると思いますが、被写体の女性たちのナチュラルな美しさを引き出すために、どのような目線を大切にされていますか?
僕はいつも人を撮るとき、「心を自由にしていてほしいな」と思っています。誰でも高圧的な態度の相手の前では、自ずと緊張してしまうから、僕は相手に対して肯定的であることを心がけているんです。自分を肯定してくれる相手の前ではみんな自由になれるし、思い切り自分を表現することができますから。
でも、それは何も女性の被写体に対してだけの話ではなくて、相手が男性でも同じです。誰でも僕のカメラの前では心を自由にして、その人らしさを表現してほしいなと思っています。


――たしかに、酒井さんが撮影されると、男性もどことなく愛らしい雰囲気になるような気がします。
かっこいい人も、ちょっとワルな雰囲気の人も、僕が撮ると少しだけ優しい印象になってしまうかもしれませんね(笑)。でもそれは、たぶん僕が基本的に人間を「愛すべきもの」として捉えているからだと思います。やや性善説的な価値観というか、悪いところも含めて「ちょっと憎めない存在」と思っているというか。誰もが素敵な部分を持っていて、僕はカメラを通してそれを肯定的に捉える存在でありたいと、常々思っているんです。
――今回の展示では、被写体となった「seju」タレントのみなさんと同世代の方々も多く来場されています。若い世代の方々に向けて、展示を通して感じてもらいたいことはありますか?
今回の展示では、ファンの方々がいつも見ている「seju」のみなさんとは、少し違った側面が見えるはず。表現者である彼女たちの「何でもない日常」を意識してつくり上げた展示なので、今回のコラボレーションならではの化学反応を楽しんでもらえたらいいなと思っています。

今回被写体となってくださったみなさんは、Z世代でなくても名前を聞いたことがあるような、現代のトレンドのアイコンともいえる存在。彼女たちを「東京路地裏散歩」と掛け合わせることで、現代を象徴するひとつの物語をつくることができたと、僕は思っています。彼女たちの可愛さや美しさだけでなく、この時代にひとつのトレンドを残した存在として、その背景にある物語にまで思いを馳せてもらえたらうれしいです。
Information
EXHIBITION
東京路地裏散歩 meets seju
会期:2025年4月1日(火)〜 4月21日(月)
営業時間:13:00〜20:00(会期中無休)
※4月20日のみ17:00閉館
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
観覧料:500円(未就学児無料)
入場特典としてポストカードをランダムで1枚お渡し
BOOKS
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」全6冊 各2,530円(税込)
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」6冊セット・BOX仕様 14,800円(税込)
写真集「東京路地裏散歩 meets seju」6冊セット・BOX仕様 6名のサイン入り 22,000円(税込・国内送料込) ※後日発送
CONTACT
会場や会期に関するお問い合わせ: contact@seeyougallery.com
酒井貴弘氏へのお問い合わせ: co.agency@xico.co.jp (伊藤宛)