2025年3月8日(土)から26日(水)まで、写真家・松岡一哲さんと、モデル・俳優のモトーラ世理奈さんによる写真展「せりなが」が、東京・恵比寿の「see you gallery」にて開催中です。オール韓国ロケで撮影された写真集「せりなが」に収録された写真や、未発表の写真で構成された同展には、お2人のつくり出す無垢であどけない世界が広がります。今回は松岡さんに、写真展「せりなが」の製作背景や、展示にかける想いなど、詳しくお話を伺いました。

写真家。1978年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、スタジオフォボスに勤務し、独立。フリーランスの写真家として活動するかたわら、2008年6月よりテルメギャラリーを立ち上げ、運営。 主にファッション、広告などコマーシャルフィルムを中心に活躍する一方、日常の身辺を写真に収めながらも、等価な眼差しで世界を捉え撮影を続ける。主な個展に「マリイ」BOOKMARC(東京、2018年)、「やさしいだけ」amanaTIGP(東京、2020年)、「what i know」amanaTIGP(東京、2020年)、「TOKYO GAMES」渋谷スクランブルSKY GALLERY(東京、2023年)。直近では、Taka Ishii Gallery Kyobashiのこけら落としグループ展に参加。
何の劣等感もない、被写体が「ただの人間」である瞬間を収めたい

―― 今回の写真展「せりなが」では、額装やアクリルパネル、ピン留めなど、大小さまざまな写真を異なるアプローチで展示されています。展示の構成は、松岡さんお一人でされたのでしょうか?
入口からすぐのシンプルな空間は僕が構成しましたが、ギャラリーの奥にある、何枚ものスナップがピン留めで展示されている空間は、写真集「せりなが」の出版レーベル「manpan press」の(鈴木)満帆吏さんが一緒に考えてくれました。「see you gallery」が回遊性のあるギャラリーということもあって、なかなかおもしろい構成になったと思います。
僕はいつも、写真を撮っている段階から写真集や展示のイメージを頭に浮かべることが多いのですが、「せりなが」展では、写真集の裏表紙にもなっている1枚を中心とするイメージが浮かんでいて。「この1枚をいかに良く見せるか」ということを念頭に置いて、ほかの写真をセレクトしていきました。
―― モトーラさんのあどけない表情が印象的な1枚ですね。これはモトーラさんの無垢な魅力を引き出そうと意識して撮影されたのでしょうか?
実は僕、この写真をいつ撮ったのかすら覚えていないんですよ(笑)。でもたぶん、僕自身が、人間のそのままの姿というか、子どもなのか大人なのかわからないような瞬間が好きだから、そういう写真を撮るクセがあるんでしょうね。
子どもって、他人に対する劣等感のようなものってあまり抱えていないじゃないですか。ただ人間としてそこにいて、その瞬間を過ごしている。大人になってみんな少しずつ複雑になってしまうけど、根本には子どものままの部分を持ち続けていると思っているから、つい「そのまんま」の姿を撮りたくなるんです。モトーラさんはそういう部分をさらけ出すのが得意ですしね。
―― 手前の空間には「モデル・モトーラ世理奈」、奥の空間には純粋に韓国の旅を楽しむ「素のモトーラ世理奈」が展示されているという印象でした。そのちょうど中間である通路には、カラオケを楽しむモトーラさんの額装写真があり、空間の橋渡しをしているように感じましたが……。
そう感じてもらえてうれしいです。このギャラリーで展示すると決まったとき、隣の空間につながるこの通路にも1枚飾れることに気がついて、この写真を選びました。表に並べるとちょっと違和感があるけれど、裏側に飾るにはぴったりだと思って。
この写真は、現地のクリエイターチームとともにファッションシューティングに臨んだ日に撮ったもの。韓国の学生たちは、ワンコインで1曲歌えるカラオケを放課後に楽しんだりしているらしく、チームメンバーにすすめられて入ってみたんです。写真のなかでモトーラさんはマイクを握っていますけど、実際に歌っているんですよ。チームのみんなと打ち解けて、本当に楽しそうに歌っている彼女の姿を、僕はガラス越しに撮影していました。それこそ子どものようにあどけなくて、素敵だなあと思いました。

―― チマチョゴリを着ているモトーラさんの写真も、とても自然体ですよね。伝統的な衣装を纏っている写真というと、上品なポーズで撮られることが多いですが、靴を履いている途中のような姿が収められています。
これは僕も好きな写真です。チマチョゴリって丈が長いから、普通に着ていると脚が見えない服なのに、モトーラさんが靴を履くためにたくしあげているんです。上品ではないかもしれないけど、決めてない感じが気に入っています。
僕は「バグ」のような瞬間を写真に収めるのが好きなんです。その写真を見た人に「自分らしくしているだけで美しいんだ」と伝えられるんじゃないかと思って。
ーー 松岡さんの写真は、モトーラさんに限らず、被写体がどんな存在であっても、等しい目線でとらえられているように感じます。これは実際に、松岡さんが一定の目線で被写体に向き合われているからなのでしょうか?
それは僕がすごく大事にしていることですね。被写体に対しては等価なまなざしで見つめたいといつも思っています。実際にうまくできているのかどうかはわからないですが。
松岡一哲の想う、モトーラ世理奈の魅力

―― 韓国での撮影期間は3日間のみだったそうですね。写真のなかのモトーラさんはとても楽しそうに見えますが、松岡さんはいかがでしたか?
もちろん楽しかったです。でも、朝から晩まで撮影していたので、モトーラさんは大変だったと思います。彼女のすごいところは、疲れていてもまったく嫌な空気を醸し出さないというか、体力的にはきつくても、作品づくりを純粋に楽しんでくれるところですね。
写真はその時間に流れていた空気をそのまま残せるので、「せりなが」では、楽しさや美しさに満たされた、充実した空気を収めることができました。モトーラさんや、製作に携わってくれたみなさんのおかげだと思っています。
―― 松岡さんとモトーラさんは、ファッション雑誌の撮影などで何度もご一緒されていましたが、改めて彼女に密着してみて、どのような印象をもたれましたか?
モトーラさんと初めて現場で会ったのはもう8年も前で、彼女はまだデビューして間もない頃だったと思うのですが、印象は1ミリも変わりません。とても気さくで、でもどこかミステリアスで、ほかでもない「モトーラ世理奈」として常に美しい存在。ずっとシャッターを押したくなるような人です。
まだ10代の頃の彼女も、撮影が長時間に及んでも嫌な顔ひとつしないような、作品づくりに対する理解と集中力をもっていました。今回、時を経て彼女をじっくり撮ることができましたが、その姿勢はまったくブレていなくて。改めて「すごい方だなあ」と思いました。
「作品の完成形」を示せる展示の重要性

―― 「せりなが」の写真展を開催するのは、韓国の書店「treelikeswater」、東京の「蔦屋書店」に次ぐ3度目でしたが、それぞれの展示のテーマは少しずつ異なるのでしょうか?
あえて変えようと思っていたわけではないのですが、会場によって合う写真を選んで、見に来てくれる人が楽しめるよう考えた結果、ちょっとずつ違う構成になりました。「treelikeswater」、「蔦屋書店」、「see you gallery」と、それぞれが魅力的な展示になったと思っています。
―― 松岡さんはこれまでにも大小さまざまな展示を開催されてきましたが、やはり「写真を展示する」というのは、写真家として活動されるなかで大切にされていることですか?
そうですね。SNSに投稿することも写真集をつくることも、展示同様に大切にしてはいますが、やはり展示では「これがこの作品の完成形です」と言って見せることができるわけですから、自分にとってとても大切なことなんです。
とはいえ、写真集と写真展のつくり方は、基本的には同じかな、と。

―― 今回は写真集の後発展示でしたが、写真集の展示とそうでない個展とでは、作品の届け方は変わりますか?
この質問は難しいですね。今回の写真展でいえば、完全に写真集「せりなが」ありきのもの。写真集の世界観のまとめという意味合いが強いです。
僕だけじゃなく、モトーラさんや満帆吏さん、デザイナーさんやヘアメイクさんやスタイリストさん……みんなでつくり上げたひとつの世界観を届けたいと思って開催したものです。僕だけの個展だったら、もう少しパーソナルな世界観になると思います。
―― 写真展「せりなが」にはすでにたくさんの方が訪れ、「幸せな気持ちになった」という感想も多く見られました。松岡さんやみなさんがつくり上げた世界観は、しっかり届けられているように感じますね。
僕の力だけじゃなく、関わってくださったみなさんのおかげだと思いますが、自分のやるべき仕事はきちっとできたという感触はあります。この展示を見て、誰かに少しでも希望や夢のようなポジティブなものを感じていただけたら、本当にうれしいことです。
Information
EXHIBITION
モトーラ世理奈 × 松岡一哲 写真展「せりなが」
会期:2025年3月8日(土) 〜3月26日(水)12:00〜20:00
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
BOOK
モトーラ世理奈 × 松岡一哲 写真集「せりなが」
撮影:松岡一哲
発売:2025年1月10日
定価:4,730円(4,300円+税)
版型:ソフトカバー / B5変形(W175 × H257 mm)/160ページ
ブックデザイン:藤田裕美
発行:manpan press
Title:Serena Motola × Ittetsu Matsuoka Photobook “Serenaga”
Photographer:Ittetsu Matsuoka
Release date:January 10, 2025
Price:4,730 yen (4,300 yen + tax)
Type of book:Softcover / B5 size (W175 x H257 mm) / 160 pages
Book design:Hiromi Fujita
Published by manpan press