濱田英明 展示との対話「終点のあの子」|Dialogue in see you gallery

Feb. 27. 2026

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東京・恵比寿の「see you gallery」での、写真家・濱田英明さんによる写真展「終点のあの子」。

2026年1月23日より全国公開された映画「終点のあの子」に、スチールとして参加した濱田さんの写真作品にフォーカスし構成された同展では、異例のスチールデイを設け、本編とは必ずしも連動しないシチュエーションで撮影された、“もうひとつの物語”が立ち上がっていました。

今回は濱田さんに、展示作品の製作背景や、映画スチールにおいて日頃から大切にされていることなどについて、詳しくお話を伺いました。

Hideaki Hamada

Photographer / Film Director

1977年、兵庫県淡路島生まれ。2012年、35歳でデザイナーから撮影業へ転身。

映画という“虚構”から浮かび上がる“本当”を、スチール写真で掬いあげたい

―― まず初めに、写真展「終点のあの子」がどのような経緯で開催に至ったのか伺えますでしょうか。

映画「終点のあの子」のプロデューサーである前信介さんとのあいだで、本編の撮影当初から「この現場で撮ったスチール写真は、どこかで発表しよう」という話はしていたと思います。というのも、スチール写真って、ものすごい量を撮影する一方で、宣伝などに活用されるのはごく少数なんです。「写真展や写真集のように、何かしらの形に残して、発表できたらいいよね」というのを、前さんと話していました。とはいえ、具体的にどうするかはクランクアップ後もなかなか決まらず、「see you gallery」で写真展をすると決まったのは、展示を開催するほんの数ヶ月前でした。

―― スチールのみの撮影日を設けたり、スチール写真の展示を開催したりすることは、映画業界的にも珍しいケースですよね。

そうですね、僕自身にとっても初めての試みでした。そもそも映画の現場におけるスチールの立ち位置は、とても繊細で難しいものがあります。本編である映像の撮影が、キャスト・スタッフにとって最優先事項ですから、どうしてもスチールは遠慮がちにならざるを得ない部分があります。とはいえ、観客が作品と最初に出会うのはスチールであることも多く、宣伝においては不可欠な存在です。その重要性については、プロデューサーや監督、スタッフの方々とのあいだで、少なからず温度差を感じることもあります。

「終点のあの子」では、プロデューサーの前さんをはじめ、吉田浩太監督ともその意識を共有できていたので、比較的スムーズに撮影を進められたと思います。ただ、現場全体で理解を深めてもらうためには、やはり僕自身が積極的にコミュニケーションを取り、環境を整えていくことが不可欠だと感じています。

―― キャストの方々とは、スチール撮影に際し、どのような打ち合わせをされましたか? 登場人物たちそれぞれの複雑な感情が絡み合う本編に対し、展示写真は爽やかというか、ごくふつうの少女の日常のように感じられる点が印象的でしたが……。

スチールデイについては、前さんから「本編には映っていないけれど、“あったかもしれない”一日」という設定が共有されていましたが、僕からキャストの方々に演技的な指示を出すことはありませんでした。「ここを歩いてみましょう」「ここに立ってみてください」といった最低限の声かけをした程度です。スチールデイはクランクアップの数日後に設けられたこともあり、彼女たちのなかに役の土台がしっかりと築かれていたので、僕があらためて役について演出する必要はなかったのだと思います。

本編撮影中も、スチールのために細かな演出を加えることは、ほとんどありませんでした。少し誤解を招く言い方かもしれませんが、あえて台本を読み込みすぎないようにしています。というのも、できるだけ“その瞬間に初めて立ち会った”ような感覚で写したいからです。僕が普段撮っている写真も、そうした態度から生まれています。状況をまずは新鮮な目で目撃したい。内容を知りすぎていると、どうしても「このあと何が起こるか」を前提にした撮影になってしまうからです。できるだけ先入観を持たずに、その場で起こることに反応したいと思っています。

―― 濱田さんの感覚としては、映画のなかのキャラクターというより、ひとりの人間を撮影している、というほうが近いのでしょうか?

言葉にするのが難しいのですが……。彼女たちが女優であり、制服は衣装で、メイクも施されていて、カメラの前で演技をしているというその事実は、観客も当然理解しているわけで。映画はつくりこまれた“虚構”ですが、鑑賞していくなかでそれぞれのタイミングで「これは本当かもしれない」と感じる瞬間がある。その感覚こそが、映画やドラマの醍醐味だと僕は思っています。

この作品は、登場人物の年齢とキャストの実年齢が近かったこともあり、「こういう女の子たちは本当にいるかもしれない」という感覚だけでなく、「自分にも似た記憶がある」と思わせる説得力を持っていると感じました。演技を観ていても、「これは彼女たち自身の過去の体験や感情から引き出されているのではないか」と思わせる瞬間がある。嘘のなかに本当を見出す、その感覚にこそ、お芝居を撮るおもしろさがあります。だからこそ、“虚構”のなかに立ち上がる“本当”を掬い取るような写真を撮りたいと考えています。

―― それは今回の作品だけでなく、ほかの作品の現場でも意識されていることですか?

そうですね。本編カメラとまったく同じ位置から場面写真を撮ることは、ほとんどありません。できるだけ視点や距離を変え、本編とは異なる瞬間や見え方を捉えようとしています。たとえば、ふだんの写真でも「本当じゃない」ように感じることはありませんか。実際に目で見たよりも美しく見えたり、「こんなふうに見えていたんだっけ」と思ったりすることがある。

僕はこの仕事を始める前から子どもの写真を撮り、発表してきました。現実に存在する子どもを、どこかファンタジーのような見え方で写してきました。いわば、ドキュメンタリーをフィクションへと少しずつ変換していくような作業です。そうすることで、鑑賞者が他人の子どもであるはずの写真に、自分自身を重ねる余白が生まれるのではないかと思っているんです。あまりにも生々しく写してしまうと、個人的な記録に閉じてしまうからです。

一方で、映画はもともと虚構から出発しています。僕はそれを「これは本当かもしれない」と感じられるように写したい。虚構を、真実のように立ち上げていく。子どもの写真と映画の写真は、出発点こそ対極にありますが、現実と虚構が渾然一体となって、いつか入れ替わっていくという意味では、とても似ている気がしていて、目指している地点は、きっと同じなのではないかと思うんです。そのあいだにある、ほんのわずかなリアリティを写したいと常に思っています。

展示写真が爽やかに感じられたのだとしたら、それは写真というメディアの作用かもしれません。学生生活には事件もあれば、何でもない日常もあるはず。映画では描かれなかったけれど、「こんな瞬間もきっとあったのだろう」と思えるような、“嘘のなかのリアリティ”を、写真から感じ取っていただけたらうれしいです。

故・大林直行氏との最後の共作

―― 今回の写真展では、濱田さん撮影の写真だけでなく、スチール協力として参加されていた、濱田さんの一番弟子である、大林直行さんの写真も展示されているそうですね。具体的には、どの写真が大林さん撮影のものでしょうか?

今回の展示は、スチールデイの写真を軸に構成しました。それに加えて、本編撮影中の写真もいくつかセレクトしています。文化祭でドレスアップした登場人物たちが踊るシーンの写真と、中島セナさん演じる朱里が海辺に立つ写真の2点は、大林くんが撮影したものです。実は現場にいた日数は彼のほうが多く、公式サイトに掲載されている場面写真にも、彼のカットが多く使われています。

―― 映画「終点のあの子」は、2024年秋に亡くなられた大林さんの遺作のひとつにもなりました。大林さんとの共作という意味でも、本作や写真展は、濱田さんにとって思い入れ深いものになっているのではないでしょうか。

そうですね。実は本編ポスターやフライヤーにも、大林くんの写真が採用されています。メインキャストが並ぶメインビジュアルの撮影は僕が担当しましたが、最終的には彼が撮った朱里の写真と、僕が撮った希代子の写真が組み合わさる形になりました。宣伝においては、誰が撮ったかよりも、どう作品を伝えるかが重視されます。結果として共作のようなビジュアルになったことに驚きつつ「もし大林くんがこのビジュアルを見たら、喜んだだろうなあ」とうれしく思いました。

大林くんは撮影現場でもすごくやる気に満ちていて、場面写真に彼のカットが多く採用されたのは、それだけ写真の力があったからだと思います。ほぼ初めての長編映画スチールの現場だったはずですが、彼にとっても大きな手応えのある経験になったんじゃないかと想像しています。

映画のビジュアルは、もっと鑑賞者の想像力に訴えかけてもいいはず

―― 写真展「終点のあの子」では、キャストの写真のみではなく、シーンカットや抽象的な写真なども展示されているのが印象的でした。展示写真のセレクトや空間の構成など、とくにこだわられた部分について教えてください。

複数の展示準備が重なった時期だったこともあり、まずは「see you gallery」のディレクターであるJ.K.Wangさんに、展示の土台を組んでいただきました。そのうえで、僕なりに再構成し、細部を整えていった形です。

この映画自体が、登場人物の微細な表情や目線、気配から感情やそれぞれの存在のバランスを描き出す作品なので、展示でもその空気を体感できるようにしたいと考えました。手元や足元だけを写したカット、自分としては珍しくブレたカットや、何かに遮られた向こう側に誰かの存在を感じさせるような写真など、よく見なければわからないものをあえて織り交ぜています。想像力を促す余白を、空間のなかに点在させたかったんです。

真正面から人物がこちらを見る写真ばかりでは、わかりやすい印象だけで終わりそうな気がして。でも「終点のあの子」は単に有名な俳優が出演する作品ではなく、もっと繊細な揺らぎを内包しています。展示が、映画をより立体的に捉えるきっかけになればと願っていました。

―― 濱田さんはパーソナルワークでも積極的に写真展を開催されていますが、クライアントワークである今回の写真展と、制作段階での違いはありましたか。

パーソナルワークの展示は、だいたい5年から10年ほどかけて取り組んだものをまとめることが多いです。それに比べると、クライアントワークはどうしても時間軸が短い。その違いは大きいですね。ただ、空間に対してどの写真を選び、どう配置するかというプロセス自体は、ギャラリー担当者と協働することが多いです。撮影業務と並走しながら展示を構築するのは、一人では難しい。ただし、展示作品の核となる考え方を明確にできるのは自分だけだとも思っています。最終的には、自分の手で輪郭を整えていくことが多いですね。

―― なるほど。でも、そこには協力者の方々への信頼が不可欠なのではないでしょうか。

もちろん、そうですね。Wangさんとは以前にも展示をご一緒していましたし、前さんには映画の枠組みのなかで新しい試みを実現しようとする姿勢への敬意がありました。Wangさんは豊富な経験を持つ方で、実際に一緒に進めるなかで何度も「さすがだな」と感じました。

前さんは、「終点のあの子」という映画作品を一番理解している方。その上で、写真展という場を設けてくれたこと、アウトプットのアイデアをくださったこと自体に、ものすごく信頼感を覚えています。展示の構成に関しても、プロデューサーの立場からすれば、よりわかりやすく、より興行に貢献するようにすることもできたと思うのですが、僕のクリエイティブを尊重してくれました。ありがたいことです。

―― 先ほど、映画製作の現場におけるスチールカメラマンの立ち位置の難しさについてお話されていましたが、このような宣伝の形やスチールのあり方もあるのだと、業界に影響を与えるような作品になっているのではないでしょうか。

そうなってくれたらうれしいですね。僕がこの業界で取り組みたいのは、まさにそういったことなんです。

僕自身、外部の領域から映画の世界に入ってきました。これからは、同じように異なる背景を持つ若い世代が増えていくのではないかと思っています。かつては、長く映画業界に身を置いてきた人たちが中心となって作品をつくるのが一般的だったかもしれませんが、「映画業界とはこういうものだ」という前提を持たないフォトグラファーが参入することで、スクリーン外の表現はもっと広がっていくはずです。例えば、キャリアは僕なんかよりも豊富ですが、木村和平さんや柴崎まどかさんのような若い世代、あるいはファッションや広告の分野からの参入も、その可能性を示していると思います。

日本映画のビジュアルは、宣伝や事務所の事情から、主要キャストの顔が順に並び、内容が一目でわかる説明的なものが多い印象があります。興行的には理にかなっているし、そうすることでみんなが安心できるのだと思いますが、誰が写っているのか一見わからなくても、内容がすぐに説明されなくても、その世界観を的確に伝えることはできるはずなんです。僕たちは観客の想像力をもっと信じてもいい。物語を伝えながらも、ムードやビジュアルの強度だけで成立する表現をつくれたらいいなと思っています。

今は、宣伝やスチールに関わるなかで培ってきた考えを、映画製作に携わる方々と共有したいと日々思っています。もしも、ですが、自分が監督をさせていただく機会があるなら、宣伝とスチールについてのレクチャーを最初に行ってから撮影に入りたい、そんな妄想をすることもあります。先日は一般向けですが「えいがのしゃしん」と題したトークイベントで、スチールの立場から見た映画製作の現状や課題についてお話しする機会もありました。まだ小さな取り組みかもしれませんが、少しずつでもスチールの風通しを良くし、豊かなビジュアルを持つ作品が増えていけばと願っています。

Information

EXHIBITION

終点のあの子
会期:2026年1月16日(金) – 2月1日(日)
営業時間:13:00 – 20:00 (会期中無休、入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
写真:濱田英明・大林直行
出演:當真あみ・中島セナ・平澤宏々路・南琴奈
制作:グラスゴー15
展示ディレクション:J.K.Wang
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

by Hideaki Hamada

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