「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊『コマーシャル・フォト』との共同企画。クリエイターを俯瞰視点でみつめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにする新しいインタビュー特集です。
上記の7つの視点から、気鋭のクリエイターたちの活動や価値観を深掘りし、その独自性を浮かび上がらせることで、その人の魅力や使命を体系的に解き明かしていきます。今回は、2023年8月より月刊『コマーシャル・フォト』の編集長を務める、玄光社の長田京太郎さんのクリエイターキャンバスに迫ります。
長田京太郎氏のクリエイターキャンバス

1.活動 / アクティビティ
今回は「クリエイターキャンバス」の第3回です。第1回、第2回と写真家の方にご登場いただきましたが、今回は月刊『コマーシャル・フォト』の若き編集長である長田さんにお話を伺えたらと。
普段は自分がインタビューをする立場なので、緊張します……。
そうですよね。でも、編集の方のお仕事って公開されることが少なくて、あまりご存じでない方も多いかと思いますし、僕もすごく興味があるんですよ。
長田さんは、『コマ・フォト(コマーシャル・フォト)』を担当される前から、ずっと編集のお仕事をされてきたんですか?
そうですね。就職活動も出版社一択でしていて、新卒で入社したのは、主に車関係の雑誌を発行している出版社でした。その後、転職して入ったのが玄光社です。
どうしても出版社で働きたいという強い想いがあったんですね。それはやはり、もともと本がお好きだったから?
本好きの祖母の影響から本をたくさん読んでいて、本が好きだったというのもありましたが、実はそのほかに大きな理由がありまして。
僕、地元の熊本にいた頃から、モデルの蛯原友里さんが大好きだったんです。10代の頃、姉が読んでいた赤文字系雑誌に載っていた彼女を見て「こんな綺麗な人がいるのか!」と衝撃を受けて(笑)。「東京の出版社に入れば、エビちゃんに会えるかもしれない」というヨコシマな想いもあり、出版社への入社を目指しました。
すごい理由(笑)。青春の憧れに突き動かされていたわけですね!
面接のときに「出版社で何をしたいですか?」と聞かれたときにも、正直に「エビちゃんに会いたいです!」と答えていました。それで採用してくれる企業のほうも度量がすごいですよね(笑)
新卒で入ったその会社は体育会系の出版社で、かなりしごかれました。それでも、本をつくるという仕事はやりがいがあって楽しかったですね。とくに、当時担当していたのが読者出演型雑誌だったので、人とつながっていく感覚が楽しかったです。
その後転職されて、玄光社の『CMNOW』編集部に配属されたんですよね。
そうです。前職とはまったく異なるジャンルではあったのですが、実際に編集部で仕事をはじめてみると、「このジャンルも結構好きだな」と思いましたし、やりがいも感じられました。
『CMNOW』は惜しまれつつも2023年2月をもって休刊となったわけですが、そのタイミングで『コマ・フォト』に異動されたのでしょうか?
はい。2月に『コマ・フォト』編集部に異動になり、8月に編集長に就任しました。『コマ・フォト』は1960年創刊で、今年で85年目。それだけの歴史をもつ雑誌なので、編集長になるまでの半年間で、どういう雑誌なのか、どんなふうにつくられてきたのか、たくさん勉強させてもらいました。
それだけ歴史ある雑誌の編集長ともなると、プレッシャーもあったんじゃないですか?
これまで先人の方々が専門誌としての立場をつくってきてくれたから今の『コマ・フォト』があるわけですし、それをありがたく思いつつ仕事しなくてはいけないとは思っています。とはいえ、業界自体が先細りつつあるなか、時代に順応していかなくてはならないし、雑誌として挑戦し続けたいと思っているので、あまり気負いすぎないようにしようと決めていますね。

2. 専門性・特性 / スペシャリティ
長田さんが編集長になられてから、『コマ・フォト』の読者層に変化はありましたか?
読者の年齢層が少し下がりました。それは予想していたというか、計画通りでしたね。『コマ・フォト』に限らず雑誌自体がWebに圧されているなかで、一旦間口を広げたいと思い、より幅広い世代の人に読んでもらえるよう工夫したんです。「Webでは見られないようなものを届けよう!」と。
具体的には、写真家の方の過去の作品ではなく、新たなコマ・フォト用の撮り下ろしを掲載したり、少しライトなテーマで特集を組んだり、話題性のある俳優さんを起用したり、Xなど、SNS上での反応もかなり意識しました。それと、電子版も販売開始したんですよ!
おお、ついに。たしかに、『コマ・フォト』はアプローチの仕方が以前と変わったように感じますね。
僕自身が、ただ仕事をこなすというよりは、自分で何かをどんどんやっていきたいタイプなんだと思います。時代の流れに逆らわず、いい意味で流されたいと思っていますし。
昔、占いブームの頃に『妖精占い』が流行ったじゃないですか。10代のときに占ったら、僕は“若葉の妖精”だったんです。そこに「風の吹くまま流されるまま、行き着いたところで咲きましょう」というようなことが書かれていて、それがそのまま今の自分の流儀になっていますし、何事においてもバランスに気をつけています。
長田さんの個性を表している言葉ですね、悪い意味じゃなく「染まっていない」というか、「偏りがない」というか。だからこそ、雑誌づくりに向いているんじゃないですか?
作り手の“色”が前面に押し出されているからこそ魅力的な雑誌もありますけどね。でも僕はあまり偏りを持たせず、「『コマ・フォト』とはこういう雑誌だ」という固定概念にとらわれすぎず、どちらかといえばニュートラルにつくっていきたいと考えています。仕事全般にも、同じ感覚で望んでいると思います。


3. 使命 / ミッション
長田さんが編集者という仕事を通じて、成し遂げたいと考えていることはありますか?
先ほど、僕がこの仕事に就いたきっかけはエビちゃんだったと話しましたが(笑)、大まかにいえば、僕はひとつの雑誌に人生を左右されたんです。そういうふうに、一冊の本が誰かを動かすことって大いにあると思っていて。
例えば『コマ・フォト』を読んで写真に興味をもったり、ライティングの勉強を始めたりして、そこからプロフェッショナルになったという人もたくさんいます。本を通じて、誰かが何かに興味や関心をもって、それがやがて人生を変化させていくっていうのは、すごいことじゃないですか。そういう、誰かの何かがはじまるきっかけになれるような本をつくりたいと、ずっと思っています。
『コマ・フォト』にはさまざまな写真家やカメラ、機材が登場するし、「次はこれを使ってみようかな」とか「こんな写真に挑戦してみようかな」と思ったりしますよね。
そういう、誰かのポジティブなフィルターになれていたらうれしいです。「iPhoneでの撮影にこだわるようになった」とか「カメラを初めて買ってみた」とか、「SNSに写真を投稿するようになった」というようなことからでもいいので、誰かと何かの架け橋になる本がつくれたらと思います。
4.顧客 / クライアント
雑誌づくりって、関わる人がすごく多いですよね。
そうですね。記事ひとつとっても、フォトグラファーの方やデザイナーの方、モデルの方や、クライアントとなる企業の方など、ほんとうに多くの方々に携わっていただきます。
だから、編集の方ってすごいなと思うんですよ。企画とかキャスティングとか、諸々の連絡とか、全部やるわけじゃないですか。
とくに弊社は少数精鋭の出版社なので、予算を立てて、ブッキングして、記事をつくって、SNSで告知して……という一通りの仕事は一人でこなします。いわば「究極の雑用」です(笑)
「あちらにはこれを連絡して、こちらにはこう指示をして……」と常に頭を働かせなくてはいけないので、大変ではあるんですが、いろんなものをまとめたり組み合わせたりしてひとつのものを生み出すというのは、僕の得意分野なんだと思っています。0から1を生み出す才能はないので、クリエイターにはなれないんですけど、クリエイターの方が生み出した1を、5や6にする能力はあると信じています。
かっこいい!それはそれで、ある種のクリエイターだと思いますよ。

鳴海唯1st写真集
『Sugarless』 (2023年)

AKB48 小田えりな1st写真集
『青春の時刻表』 (2024年)
5.接点 / チャネル
たくさんの人と一緒に本をつくっていく上で、大切にしていることはありますか?
どんな企画でも真っ先に「無理」だと決めつけることはせず、「どうやったらつくることができるか」を考えてから、やるか、やらないかを判断することですかね。「これは売れないかもしれない」と思っても、すぐに諦めるのではなく、その企画の可能性を最大限広げてみる。すぐに無理だと決めつけてしまうと、そこで自分の発想も、入ってくる情報もストップしてしまうので、もったいないじゃないですか。
結果として、うちではないほかの媒体でその企画が採用されたり、違う形になったりということも当然ありますが、いつも「自分だったら何ができるか」は最初に考えるようにしています。
たしかに、そういうスタンスでいてもらえると、周囲の人も「こんなのどうですか?」って相談しやすいですね。長田さんのまわりって、自然と人が集まってくるじゃないですか。
「一緒にお酒を3杯飲めば、みんな友達!」と思ってますから。3杯飲むまではやや心を閉ざしてますけど。
きょうはアルコールなしですけど、心を開いてくださっているようでうれしいです(笑)

6.自己投資 / インベストメント
長田さんのプライベートにもすごく興味があるんですが、何か仕事のモチベーションになっているものってありますか?
あえて仕事のモチベーションを挙げるなら、もうすぐ10歳になる娘かな。学校で、両親の仕事について調べて発表する機会があったりするじゃないですか。そういうときに、「パパはこんな本をつくっている人です」って紹介してもらえたらうれしいなと。“かっこいい仕事をしているパパ”でありたいんです。
素敵ですね。編集のお仕事ってすごく忙しいイメージですが、ご家族との時間を確保するのって大変じゃないですか?
子どもとの時間をもっととりたいと思ってはいるんですが、なかなかうまくいかず、悔しいですね。妻には「あなたの趣味は“娘”だよね」と言われるくらい、僕は彼女を溺愛しているんですけど……。
かわいい(笑)。あまり、趣味というものはないんですか?
プライベートで写真を撮ることもあるし、本もたくさん読むし、釣りに行ったり、キャンプをしたりすることもあるんですけど、どれも一番の趣味とはいえないかな。ひとつひとつに、「これが好きだ!」というこだわりのようなものを持っていないんです。あまり一定のところに荷重をかけたくないというか、ハマりすぎたくないのかもしれません。
先ほど、仕事においても「あまり色をつけたくない」とお話されていましたけど、プライベートでも同じ考え方なんですね。
本当だ! 自分ではこれまでそんなふうに考えたことはなかったんですけど、改めて自分自身を振り返ると、ヤジロベエみたいというか、変に“自分っぽさ”を持たないように生きている気がしますね。なんだかこの企画を通して、自分自身を再発見しています。
7.幸福 / ハピネス
最後に、長田さんが仕事を通じて得たいと思う“幸福”について聞かせてください。
実は僕、1年ほど前に、病気で倒れてしまって。2週間くらい入院してしまいました。倒れたときには命も危ぶまれる状態だったそうで「ああ、うっかり死んでしまうこともあるんだな」と実感しました。そこでふと「自分は死ぬまでにあと何冊の本をつくれるんだろう」と思ったんです。もちろんみんないつかは死ぬわけで、つくることができる本に限りがあるというのは当たり前のことなんですけど、改めて痛感したというか。
出版社の編集者って、本をつくる仕事ではあるけれど、なんでも好きなようにしていいわけではなくて、サラリーマンである以上は会社に利益をもたらさなくてはいけません。でもその上で、先ほどもお話したように「誰かの架け橋になれるような本をつくりたい」という想いもあるから、最高の仕事をしたい。人生であと何冊の本をつくり出せるのかはわからないけれど、悔いの残らない仕事ができたら、それが一番の幸せだと思います。
僕もそうですけど、自分が好きで「やりたい」と思っている仕事ですもんね。「時間は有限なのだから、悔いのない作品を残したい」という想いには、とても共感できます。
毎日「手が4本欲しいな」と思うくらい、大忙しですけどね。命が尽きる前に、やれるだけのことはやっておきたいです。
ちなみになんですが……。「エビちゃんに会う」という夢は、もう叶えられたんですか?(笑)
まだ叶っていないんです。オファーを出してみようかと考えたこともあるんですけど、もしエビちゃんに会えたら、そのあと自分がどうなってしまうのかわからなくて、怖い(笑)。そこで万が一にも燃え尽きちゃったら困るじゃないですか。そういう意味でいうと、彼女といつか仕事をするという夢も、未だに僕のモチベーションとして残っていますね。と言いつつ、叶えたいなという気持ちも近年強くなってきています。
その情熱が、もはやかっこいいですよ!長田さんの夢が叶う瞬間、見てみたいですね。
