刈馬健太|CREATOR CANVAS

Nov. 21. 2024

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「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊コマーシャルフォトとの共同企画。クリエイターを俯瞰視点でみつめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにする新しいインタビュー特集です。

活動 / アクティビティ – 主な仕事内容や理想のプロジェクト
専門性・特性 / スペシャリティ – 得意分野や他と異なるユニークな点
使命 / ミッション – クリエイターとして成し遂げたいこと
顧客 / クライアント – どのような人々にアウトプットを求められているか
接点 / チャネル – 仕事につながる情報発信の方法や出会いの場
自己投資 / インベストメント – 自身に投じる時間やリソース
幸福 / ハピネス – 仕事を通じて得たい幸福や目的

上記の7つの視点から、気鋭のクリエイターたちの活動や価値観を深掘りし、その独自性を浮かび上がらせることで、その人の魅力や使命を体系的に解き明かしていきます。第1回は、国内外のエディトリアルや広告、ブランドビジュアル、アーティストのジャケット写真等で活躍する、フォトグラファーの刈馬健太さんのクリエイターキャンバスに迫ります。

Kenta Karima

Photographer

フォトグラファー。長野県生まれ。 専門学校卒業後、単身渡米。 
主に、国内外のエディトリアル、ファッション誌、ブランドヴィジュアル、 広告、アーティスト写真、ジャケ写等で活躍。 
2022年に自身初となる個展【Atmosphère】を開催。

Takahiro Sakai

Photographer

長野県出身、関東を拠点に活動。ソーシャルメディア時代ならではのアマチュア写真活動から2019年にフォトグラファーとして独立。人物写真を主軸に広告や漫画誌、カルチャー誌、写真集、映像など分断のない領域で活動の幅を広げている。SNSでのフォロワー数は、延べ18万に及ぶ。近作は、NGT48・本間日向1st写真集「ずっと、会いたかった」、西垣匠1st写真集「匠-sho-」、私が撮りたかった女優展vol.3参加など。2024年4月よりCo Agencyに所属。

刈馬健太氏のクリエイターキャンバス

1.活動 / アクティビティ

酒井

「クリエイターキャンバス」という新しいインタビュー企画がスタートしまして、その初回をぜひ刈馬さんにお願いしたいと思い、お声がけさせていただきました。まずは現在の主なお仕事について、どのような経緯で今のキャリアをスタートしたのか教えていただけますか?

刈馬

もちろんです。海外の雑誌やメディアに作品を自分から売り込んで、気に入ってもらえたら掲載される「サブミッション」という文化があるのですが、僕はそこからスタートしました。なんのコネクションもなかったので、まずは逆輸入のような形で名前を知ってもらおうという発想でしたね。

そこからファッションフォトを撮りはじめるのですが、僕がインスピレーションをもらってきた写真家たちは、ファッション+魂(ソウル)のような、生もの感のある写真を撮る人がすごく多かったんですよ。僕の写真が「ストーリー性を感じる」「生きている感じがする」と言われるのも、その影響が大きいと思います。

酒井

ファションがはじまりなんですね。

刈馬

そうなんです。そこからタレントさんや俳優さんのポートレートを撮らせていただくようになり、音楽系のアーティストさんから、アーティスト写真やジャケット写真の依頼が来るようになって、さらに広告のお仕事も……という流れで繋がっていました。今はオールラウンダーにやらせてもらっています。

酒井

最初からオールラウンダーを目指していたんですか?

刈馬

目指していました。ファッションから入って、そこでいい花を咲かしていけばどんどん派生していけるんじゃないかというのは、戦略立ててやっていましたね。

酒井

もともとは、写真ではなく映像をやっていたんですよね。

刈馬

日本の専門学校でCG、VFX、エディターの仕事を学び、卒業後にロサンゼルスで映像の仕事をやっていたんですが、そこで出会ったタイ人のCMディレクターから「写真をやった方がいいよ」と言われたんです。それが僕の写真をはじめたきっかけです。

酒井

天のお告げがあったんですね。

刈馬

それも1回だけじゃなく、何十回と言われ続けて(笑)。最初は「関係ないでしょ」と思ってたけど、映像監督の大巨匠たちがみんな写真や絵画をやっていたことを知って、すぐにカメラを買いに行きました。とはいっても、当時は趣味程度のもので、ホームステイ先で出会った300人の写真を全員撮ると決めてやっていたくらいでした。

酒井

そこから帰国して仕事をしていくわけですが、特に日本に基盤があったわけではないんですよね?

刈馬

まったくのゼロベースでした。ただ、海外でたくさんのフォトグラファーの写真を見ることができて「この人になりたい」という最終地点みたいなものを、早くに見つけられたんですよね。それさえ見つけてしまえば、「じゃあ、彼らはどういうことをしてきたんだろう」と逆算していくだけなので。

それと同じタイミングでレオナルド・ダ・ヴィンチが生み出した絵画技法「キアロスクーロ(明暗法)」に出会ったことも大きかったです。簡単に言うと、明暗を強調することで人物を浮かび上がらせる手法なんですが、僕の写真も、潰れているところは潰れているし、飛んでいるところは飛んでいる。でも、「それでよし」って考えでやってます。

酒井

その手法をメインに据えつつ、この媒体だったらどう狙えば辿り着けるか、ということを考えていったんですか。

刈馬

まさにそうでした。例えば「キアロスクーロ×何かの媒体」としてしまえば、イコールで答えに辿り着けるので、あとはそこに向けて撮影するだけでした。だから、ゴールがすごく見つけやすかったんです。その手法を見つけた半年後には、もう雑誌でタレントさんを撮っていましたから。

酒井

そんな簡単にできるんだ(笑)。でも、これはあまり読者の参考にならないかもしれないね。

刈馬

そうですね(笑)。あとは、そのタレント雑誌に売り込むために2ヶ月で100人のポートレートを撮影したことも、僕の中では大きかったです。

酒井

やっぱり、やり込む力が強いですよね。刈馬さんが考える理想的な仕事ってどんなものですか?

刈馬

僕のテイストって日本国内だとハマる企画が少ないんですよ。そういうときに、合わせにいくのか、それとも自分を貫くのかで分かれると思うんですが、僕は貫く方で生きていきたくて。だから、がむしゃらに仕事の量を増やすというよりは、ディレクションからポストプロダクションまでを完全パッケージでやりきるような、重みのある仕事を月に数十件できる環境になれたら理想的だなと思っています。

あとは、2年前に「Atmosphère」という写真展をしたのですが、そこから時間が経ってしまったので、個展もまたやりたいですね。今後はアートワークと商業の比率を6:4ぐらいのバランスでやっていけたら、“豊か“かなと。30代の最終目標を、ニューヨークやヨーロッパ、アジアの大きな美術館で個展をすることに定めているので、それを目指して少しずつシフトできたらと思っています。

2. 専門性・特性 / スペシャリティ

酒井

そんな刈馬さんが考える、ご自身のユニークな点を挙げるとしたらどこですか?

刈馬

写真ではやっぱり「生感」をすごく大事にしていますね。ポートレート撮影ではあまり会話をしないけど、お互いのセッションというか、心の戦いみたいなものが好きで、それがピタッとハマったときが一番気持ちいい。だから、人間そのものの本質をいかに捉えるか、ということの答え合わせを、死ぬまでずっとやっていくんだろうなと思ってます。

酒井

たしかに、刈馬さんはかっこいい画を作るけど、画作りをする人ってイメージはないですね。海外のファッション誌で名前を見ることも多いから、ファッションフォトグラファーだと思ってる人もいるかもしれないけど、そうではないですし。

刈馬

そうなんですよ。僕はやっぱり、どこかに火が灯っていたり、人間臭さやストーリー性がないとやりたくない(笑)。でも、ファッションってその人間の部分を削ぎ落としていくものだから、逆なんですよね。落としどころとしては「生きている証だけは絶やしてはいけない」という気持ちでやっています。

酒井

熱いですね!その辺りのスペシャリティというのは、ある程度狙って作ってきたものなんですか?

刈馬

最初は、インスピレーションをもらった写真家さんの真似から入ったので、1年目、2年目は「〇〇さんに似てるね」って、めっちゃ言われてました。ただ、僕はそれを「真似事が成功したんだ」とめちゃくちゃポジティブに受け止めていて、そこからようやく次の段階に進むことができました。じゃあ「刈馬健太」ってどういうものなんだろうと考えて、そこから1年半くらいずっと濃い霧の中を彷徨っていた気がします。

酒井

それからがまた大変だったんですね。

刈馬

そうですね。ちょうどコロナ期間中と重なっていて、そのときにはじめたのが、オンラインポートレート撮影プロジェクトの「HOME」でした。僕がライター兼写真家として、ZOOMを使ってリモート撮影をする企画で、2ヶ月かけて、111人を撮りおろしました。なので、僕はコロナ禍にコネクションを増やした数少ない人間なんです(笑)

オンラインポートレート撮影プロジェクト「HOME」より
酒井

やっぱり、刈馬さんは発想が面白いですよね。

刈馬

やり方次第なんですよね。そのときに「刈馬はこうしていけばいい」というのが見えたので、そこからは、キヤノンでもニコンでも、デジタルでもフィルムでも、「刈馬さんっぽい」と言われる写真を撮れるところにまで持っていけるようになりました。それが、ここ数年って感じですね。

3. 使命 / ミッション

酒井

これからの活動で成し遂げたいことはありますか?

刈馬

例えば、商業の世界でも、独特な作家性を持った方と、企業さんやクライアントさんがいろいろなことができる仕組みを作れたらいいなと思うんです。海外だとどの媒体を見ても、すぐにどの写真家さんが撮ったかわかるんですよね。そういった環境を日本にも増やしたくて。

酒井

写真家として、刈馬さん自身が目指すものはありますか?

刈馬

独学で写真をはじめたときに、「(自分は)写真上手いな」と思ったことを宿命だと思っているんです。“選ばれたもの“という感覚があるので、それに勝るものはないというか。なので、前提として、今写真をやれていることが本当に幸せだし、最終的には後世の誰かひとりでも「この写真家さん素敵だよね」って言ってくれていれば、幸せなことだと思っています。

もちろん、家族と旅行をしたり、大きい家に住んででっかい犬を飼いたい、猫も飼いたい、拠点を海外に置きたいとかも、幸せを感じることだとは思うけど、“豊か“という観点でいえば、まず写真ありきです。その上で、今は「写真と向き合いすぎずに、向きあう」ことを自分に課してます。向き合いすぎてしまう深淵に落ち込んでしまうと、そこから這い上がるのがすごい大変なので(笑)

酒井

なるほど。生活は生活としてありつつ、写真とともに生きた証を残したいというか。それ自体が人生の大きなテーマになっているんですね。

刈馬

そうですね。僕が主人公の大きな映画で、エンドロール(死)に向かって起承転結を楽しみましょう、みたいな感覚です。

4.顧客 / クライアント

酒井

今、仕事をする相手はどんな属性の方が多いですか?

刈馬

媒体の編集部さんと、最近はアートディレクターさんも多いですね。あとは自分からコンタクトをとることもあるので、音楽レーベルさんもありますし、広告のときは広告代理店さん、制作会社さんからも依頼があるので、そのときどきで連絡をいただいた方たちと、ご一緒させていただいています。

酒井

自分からコンタクトをとることもあるんですね。

刈馬

そうですね。自ら手に入れにいくというスタンスは今も変わっていません。

5.接点 / チャネル

酒井

自分からクライアントさんにコンタクトをとるときは、どうしているのか言える範囲で教えていただけますか?

刈馬

だいたいWEB上に窓口があるので、そこに連絡するだけです。あとは、海外誌に関しては、先ほどから言っている「サブミッション」のほかに、エディトリアルやオファーなどもありますね。「DEW Magazine」はその一例です。最初は僕から連絡をして掲載してもらって、気に入っていただけたのでそこから何十回と連続でやらせてもらいました。

酒井

「HOME」は顕著だったと思いますが、SNSでも仕事に繋がる発信を意識していますか?

刈馬

あのときは依頼がめちゃくちゃきて、いろいろなところと繋がっていったんですけど、今年は特に、「刈馬さんと一緒になにかやりたいです」と言ってくれる、日本の既存の媒体を大事にした年だったと思います。でも、たしかにSNSをたくさん活用してここまで来たひとりかもしれないですね。活動初期にはInstagramで美容師さんに声をかけて、美容師さんにモデルさんを紹介してもらって撮るみたいな、特殊な方法をやっていたこともあります(笑)

酒井

それを自分の頭でちゃんと考えて見つけてるのがすごいと思います。やろうと思ってもできない、何をやればいいかわからないみたいな人がたくさんいるじゃないですか。

刈馬

その差は大きい気がします。「その媒体で撮りたいけど、どうしたらいいんだろう」って言う人がいるけど、僕は逆にそれがわからなくて。「その媒体で撮りたい」って答えがすでに見つかっているわけで、雑誌にはクレジットも載っているし、電話番号だって書いてある。ただ逃げているだけに聞こえちゃうんですよね。

酒井

そこで動ける強さも、刈馬さんのストロングポイントかもしれないですね。

刈馬

ロサンゼルスで3年半を過ごして、怖いもの知らずになれたのかもしれません(笑)。もしかしたら人によっては「ずうずうしいな」と思われるかもしれないので、日本ではバランスも大事かなと思います。尖りすぎずに、当たりはもう少しマイルドにみたいな。

6.自己投資 / インベストメント

酒井

自己投資という点で、特別にやっていることはありますか?

刈馬

僕の場合、生きている時間がすべて自己投資になんですよね。「錬金術」と言ってるんですけど、映画も服も、どこかのお店にしても、あと「ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」に出てくるビジネスマンも、見たものはすべてインプットしておいて、いずれ使えるみたいな感覚です。ナチュラリズムを大事にしていますね。

酒井

確かにそれが一番効率いいですね。

刈馬

だから、本を読むことも自然にやっていることです。活字も読むし、マンガも読むし。あとは、ワンピースカードもやる(笑)。

酒井

それだけの時間がよくあるなと思います。

刈馬

自分を“豊か“にするルーティンを作り上げた感じです。月20本の仕事をやったこともあったけど、体に合わなかったんですよね。どこかのタイミングがあれば事務所に入るという選択肢もあるかもしれませんが、今もフリーランスを続けているのはそれも大きくて、なるべく自分と向き合うような形で仕事をしていきたいと思っています。その分、常にあぐらをかかないようにはしていますけどね。

酒井

自分をコントロールするのって、難しくないですか?

刈馬

表現者の刈馬健太と、管理者の刈馬健太がいる感覚ですね。自分で管理して、自分の思ったときに行動する方がやりやすい。それが、この5、6年でビタっとハマってきたので、たぶん嘘じゃないなと思っていて。一日中ソファでぼけ〜っとしてるときもあるけど、それも自分じゃないですか。とにかく嘘なく生きようって感じですね。それで、ふと空を見上げたときに、夕焼けがきれいだったりすると「もらったな」って。この最高の写真1枚が撮れれば、それだけで、もうナイスな1日。それに尽きます。

7.幸福 / ハピネス

酒井

ちょっと意外でした。写真の雰囲気や活動だけ見ていると、あまりそういうことに興味がなさそうに見えるじゃないですか。

刈馬

憧れたフォトグラファーさんの影響もあって、ちょっと怖がられたいなとか、不思議そうな人に思われたいなって気持ちが最初はあったんですよ。でも、僕はどうやったって僕だから、嘘をついてかっこつけてもしょうがないなって。それがここ数年でちょっとずつわかってきました。本当の自分は「楽しくポジティブにいこうぜ」って感じなんで、このインタビューで「へー、刈馬ってこんな感じなんだ、ええやん」みたいなのが伝わると嬉しいです。

酒井

いろんな人に読んでほしいですね。

刈馬

別のインタビューとかでは、ちょっとかっこつけちゃってるんですけど、今日はこれまでまったく話したことのない、それこそ嫁しか知らないようなところを話せていると思います。

酒井

初回にして素晴らしいインタビューになりました。でも、本当にその刈馬さんを知られるのはイヤじゃない?

刈馬

30歳を過ぎて、今は「孤高」というより、写真を日本の根強いカルチャーにしていくために、みんなで楽しくやっていこうよって気持ちが強まってるんです。こういう話ってお酒を飲んでるときには話すんですけど、どうしてもそこで終わっちゃうから、この記事や僕の写真をきっかけに、写真をはじめた人が「こうなりたい」とか、逆に僕がインスピレーションを与える側になっていけたら最高ですね。

Photo by Sakai Takahiro

by Kenta Karima

刈馬健太|CREATOR CANVAS

Nov 21. 2024

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