清水恵介 |CREATOR CANVAS

Dec. 23. 2025

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「クリエイターキャンバス」は、ビジネス構造を可視化するフレームワーク「ビジネスモデルキャンバス」の手法に着想を得て生まれた、月刊『コマーシャル・フォト』との共同企画。クリエイターを俯瞰視点でみつめなおすことで、その人らしさを浮き彫りにする新しいインタビュー特集です。

7つの視点から、気鋭のクリエイターたちの活動や価値観を深掘りし、その独自性を浮かび上がらせることで、その人の魅力や使命を体系的に解き明かしていきます。

今回は、クリエイティブディレクター、アートディレクター、映像監督など、マルチに活躍する清水恵介さんにインタビュー。ミュージシャンによる一発録りのパフォーマンス動画を配信するYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」や、NHKの音楽ドキュメンタリー番組「おかえり音楽室」など、これまでにない切り口のコンテンツを生み出してきた清水さんのクリエイターキャンバスに迫ります。

Keisuke Shimizu

Director / Art Director / Film Director

1980年生まれ。さまざまなブランドのキャンペーンやコンテンツを手がけるかたわら、TV、YouTube、ストリーミングサービスなどの分野で、コンテンツディレクターとして活動中。2019年にYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」の企画・クリエイティブディレクション・アートディレクション・グラフィックデザイン・映像監督・総合演出を担当。2022年にNHKの音楽ドキュメンタリー「おかえり音楽室」の企画・クリエイティブディレクション・アートディレクション・映像監督を担当。2023年に神楽坂のキャラリー「SHABA」のクリエイティブディレクション・アートディレクションを担当。2024年に子ども向けYouTubeチャンネル「COCHO COCHO」のクリエイティブディレクションを担当。2025年に映画「青春イノシシ ATARASHII GAKKO THE MOVIE」を監督。

Takahiro Sakai

Photographer

長野県出身、関東を拠点に活動。ソーシャルメディア時代ならではのアマチュア写真活動から2019年にフォトグラファーとして独立。人物写真を主軸に広告や漫画誌、カルチャー誌、写真集、映像など分断のない領域で活動の幅を広げている。SNSでのフォロワー数は、延べ18万に及ぶ。近作は、NGT48・本間日向1st写真集「ずっと、会いたかった」、西垣匠1st写真集「匠-sho-」、私が撮りたかった女優展vol.3参加など。2024年4月よりCo Agencyに所属。

1.活動 / アクティビティ

酒井

「クリエイターキャンバス」の第6回のお相手は、僕にとってずっと気になる存在だった清水さんです。しかも、今回は清水さんの素敵なご自宅でお話を伺えて。すごくうれしいです!

清水

ありがとうございます。ちゃんとおもしろいことを話せたらいいのですが……(笑)

酒井

(笑)。まずは、ふだんどんなお仕事をされているのか詳しく伺いたいのですが、清水さんってすごくいろんなことをされてますよね?

清水

一応「映像・写真・デザイン・体験などの企画・制作・監督」と名乗っていますが、要するに“スーパーなんでも屋”なんです。ホテルのブランディングだとか、洋服の柄のデザインだとか、依頼をいただければなんでもやっています。

酒井

ほんとうに多才ですよね。広告だけ、コンテンツだけとならないところが、清水さんならではという感じ。現在のようなスタイルを目指して、これまでキャリア形成されてきたのでしょうか?

清水

いえ、自然とこういう形におさまっていた、という感じです。酒井さんって、たしか30歳になってから写真の道へ進まれたんですよね? 実は僕も、30歳から広告業界に入った身で。それ以前には、雑誌をつくったり、映画の配給会社で働いたり、音楽の仕事をしたり、いろんなことをやっていました。

……と言うと、すごく幅広いように聞こえるかもしれませんが、実際には、やっていることはそんなに変わらないんですよね。ざっくり“デザイン”というか。

酒井

デザインって、単なるビジュアルだけでなく、コミュニケーションだとか街だとか、いろんな分野に当てはまりますよね。清水さんは、すごく大きな意味で“デザインすること”がお好きなんじゃないですか?

クリエイティブディレクター・アートディレクターを務める神楽坂のギャラリー「SHABA」
清水

そうですね。もともと、モノの本質とか成り立ちとかを探っていくのが好きなんですよ。例えば、目の前にコップが置いてあったら「コップって、誰が発明したものなんだろう? これまでにどんなデザインが生まれてきて、今はどんなものが主流なんだろう」と深掘りしてしまうような感じ。考えすぎることがクセになっているんだと思います。

雑誌が全盛期だった頃に思春期を過ごしたことも影響しているかもしれません。古本屋に行って、日本だけでなく海外の雑誌も読み漁って、誌面の隅から隅まで目を通していました。そのうちに、自分は何かを編集したり、デザインしたりするという、いわば“編集者視点”が好きなんだということに気づきましたね。

酒井

なるほど。自分が好きだということを追求しているうちに、今のお仕事になっていたと?

清水

振り返ってみると、そうかもしれません。というか、好きじゃないことがぜんぜんできないんです(笑)。事務作業とか、いまだにすごく苦手ですし。自分に向いている仕事に就くことができて、ほんとうによかったなあと思います。

酒井

僕も同じです(笑)。とはいえ、清水さんはこれまでさまざまなお仕事を経験されているわけで。結構、チャレンジ精神が旺盛なタイプなんでしょうか?

清水

「おもしろくないな」って感じてしまうのが怖くて、常におもしろいと感じることを探してしまうんです。そうすると、まだやったことのないものに挑戦することが多くなるんですよね。とくに仕事においては、“新しい”と感じることがとても大切だと思っているので、栄養素として自分自身に刺激を与えることは意識しています。

でも、こんなふうにアグレッシブになれたのも、40歳を超えてからかもしれない。40歳になってから、自分の人生にはあとどのくらいの時間が残されているのか、すごくリアルに考えるようになって。「これまでは受動的に仕事をしてきたけれど、もっと自分のやりたいことや好きなことに時間を注ぐべきだ」と思うようになったんです。そのおかげで、今は自分の「おもしろい」と思うことに注力できるようになったかな。

酒井

なるほど。常に他者でなく自分自身が行動のベースになっているんですね。素敵だなあ。

2. 専門性・特性 / スペシャリティ

クリエイティブディレクションを担当したROTH BART BARONのMV「花吹雪」
酒井

次は専門性や特性について伺いたいのですが……。清水さんのつくり出すものって、どれもすごくユニークですよね。共通するテーマや価値観はあるのでしょうか?

清水

共通して持っているのは、“一回性”という価値観ですね。一期一会というか、「最初で最後」だと感じるものには、人は感謝の気持ちが生まれて、素直になれると思う。ひとつのものに慣れてくると、みんなそれを当たり前のように感じてしまうけど、“今”という瞬間は、絶対に今しかないんです。それを伝えるために、僕は“一度”をすごく大切にしています。

酒井

まさに“ファースト・テイク”ですね!

清水

なんだか高尚なことを言ってしまいましたが、実はこの考え方には、僕の根暗な性格が影響していて(笑)。というのも、僕、仕事を依頼していただいても「きっと今回が最初で最後だろう」とか思っちゃうんです。だからこそ、より「最高のものをつくろう」という気持ちがはたらくんですけど。

酒井

清水さんってすごくアクティブな一方で、人柄は穏やかで落ち着いているし、いい意味で“暗さ”がありますよね。「THE FIRST TAKE」もそうですけど、清水さんのつくり出すものには「一瞬のきらめき」のような独特の切なさがあって、僕はそれがとても好きなんです。

企画・ディレクション・映像監督・総合演出などを担当するYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」
清水

うれしいです。僕も、自分の暗さはイヤな暗さではないと思っていて。誰にでも何にでもいつかは最期が訪れるわけで、何かに“いい”と感じたときには、同時にその終わりにも意識を向けてしまうんですが、僕はその切なさが好きなんです。道路に散った桜の花びらが車に轢かれてタイヤ跡がついているところなんかにも、どことなく魅力を感じてしまうというか。

酒井

なんだかわかるなあ。僕も「写真は“瞬間”をとらえるものだ」と思っているし、それがどんな写真だったとしても、光や風の具合、被写体の表情など、すべて絶対に二度と再現できないものだと思っていて、そこに切なさと美しさを感じるんです。日本のアーティストって、そういった諸行無常の価値観をもっている人が多いような気がします。

清水

先ほど酒井さんが言ってくださったように、「THE FIRST TAKE」にも「一回性の切なさ」という、諸行無常の価値観が根底にあると思うんですよね。ありがたいことに「THE FIRST TAKE」は世界で愛してもらえるチャンネルに成長しましたが、もしかしたら、そういった日本的な美意識を評価してもらえているのかもしれません。

3. 使命 / ミッション

酒井

ご自身のキャリアの中で、なにか成し遂げたいと思うことや、使命と感じていることはありますか?

清水

江戸時代の人形浄瑠璃・歌舞伎劇作家の近松門左衛門が掲げていた芸術論で「虚実皮膜(きょじつひまく)」というものがありますよね。「芸術の真実とは、虚構と事実の皮膜にある」という考え方なのですが、僕は虚実皮膜を現代的にアップデートしたデザインを世に届けることを、自分自身のミッションにしています。

酒井

なかなか深い言葉ですよね。

清水

以前呼んでいただいたトークショーのトークテーマが“虚実皮膜”だったんですよ。それで、この言葉について改めて考えてみようと思ったとき、「僕のクリエイティブも虚実皮膜だ」とハッとさせられて。

ディレクションって、要するにフェイク──虚構をつくり込んでいるわけですよね。でもその場には自分やスタッフや出演者がいて、“たしかに存在していた”という事実もある。つくり物であると知りながらも、そのつくり物のリアリティの淵(ふち)に深く入り込み、非現実の中に真実性を見出す鑑賞体験を、どれだけ豊かに享受できるかということが、自分がやっていることだと気づいたんです。

酒井

すごく共感できます。僕が撮っている写真も、シチュエーションなどをつくり込んではいるけれど、その場に被写体が存在したという事実はあるもので、そこが0からフェイクをつくり出すAIとの違いだと思います。現代のクリエイティブにこそ、この虚実皮膜の価値観が響くような気がしますね。

4.顧客 / クライアント

クリエイティブディレクションを担当する子ども向けYouTubeチャンネル「COCHO COCHO」
酒井

今、仕事をする相手には、どんな属性の方が多いですか?

清水

ほんとうにさまざまなのですが、プロデューサーの方が多いでしょうか。YouTube、TV、配信プラットフォーム、映画など、ジャンルもバラバラですが。

酒井

どういうルートで依頼をもらうことが多いのでしょう。

清水

ほとんど僕からコンタクトを取りに行くことが多いですね。一緒に仕事をしてみたい人や、話を聞いてみたい人、おもしろいものが一緒につくれそうな人を見つけたら、とりあえずすぐに電話してみます。面識のない方でも、ネット上に連絡先が公開されていたら、とりあえずそこに連絡してみるんです。

酒井

すごい行動力!

清水

岡本太郎氏の格言で「なんでもいいから、まずやってみる。それだけなんだよ」というのがあるでしょう? 人って、つい「できない」理由を探して諦めてしまうけど、考える前にまずはやってみないとはじまらない。実際には返事をもらえることのほうが少ないかもしれないけれど、それも連絡をしてみないとわからないことですから。

僕も「緊張するな、連絡したくないなあ」と思ったりしますけど、それを乗り越えるのが大切。なるべく、無理やりにでも行動するようにしています。

酒井

「どうせ無理だろう」というマイナスな気持ちを乗り越えるのはなかなか難しくて、僕も日々課題に感じているのですが……。なにか秘訣はありますか?

清水

秘訣は、内側から湧き出るエネルギーをそのまま相手にぶつけることですかね。でも、もしかしたら酒井さんも、40代になったら平気になっているかもしれませんよ。僕は40歳を超えてから、プライドや恥のようなものがなくなってきて、無茶だと思うようなことにもチャレンジできるようになりましたから。「僕がおもしろいと思うんだから、やったほうがいいんだ!」と振り切る無責任さが大切だ、と思えるようになったんですよね。

酒井

それを聞いたら、40歳になるのがより楽しみになってきました!

清水

……とか言っておいて、今でもしょっちゅう落ち込んだりしているんですけどね(笑)。自分の中に灯った小さな火を大きな炎にしたくて、必死に燃えあがらせようと、クライアントに対しても大きなこと言ったりしちゃうんですけど、帰宅して布団に入ってから「なんであんなこと言っちゃったんだろう」って反省したりして。

酒井

おもしろい(笑)。光が強ければ影が濃くなるように、燃え上がる反動も大きいというわけですね。それはそれで、清水さんならではの魅力だと思いますが。

監督映画「青春イノシシ ATARASHII GAKKO THE MOVIE」

5.接点 / チャネル

酒井

清水さんって、公式サイトを持っていないし、連絡先も公開されていないですよね。先ほどおっしゃっていたように、ご自分から連絡することが多いからですか?

清水

そうですね、あまり自分から発信することは重要視していないかも。直接会話したり、会いに行ったり、自分で足を動かしたいタイプなので……。

酒井

企画なども、ご自身が売り込んで実現することが多いのでしょうか?

清水

そのほうが多いです。ただ、僕の企画するものって、自分が観たいと思うものだとか、つくりたいと思うものばかりなんですよ。そうすると、必然的に前例がないもの、まだ世の中に存在しないものになるので、提案しても通らないことがほとんど。もしかしたら誰か「やりましょう」と言ってくれるかもしれないし、とりあえず口にしてみるようにしていますけどね。

6.自己投資 / インベストメント

清水さんのご自邸
酒井

仕事以外に、自分自身に投資していることはありますか? ご自宅がほんとうにおしゃれなので、建築やインテリアにも造詣が深いのだろうなと思いますが……。

清水

建築やインテリアも昔から好きなのですが、自分の家を好きなように設るのも、結局“デザイン”なんですよね。「ここにこんなもの置いてみたら合うんじゃないかな」と内装に凝ることだって、仕事でしていることと、感覚としては大きく変わりません。というか、むしろ仕事のほうを仕事と思っていないのかもしれない(笑)

酒井

清水さんの中で、生活と仕事は一体化しているんですね。

清水

先日、学生時代の友人たちと旅行したんですよ。彼らと過ごすなかで「みんな休日には仕事のことを忘れて、しっかり休もうとしている。仕事の日と休日をしっかり切り替えているんだな」と感じて。もしかして、世の中にはそういう人のほうが多いのかな、と思いました。

でも、僕にとって、毎日仕事のことを考えているというのは、苦でもなんでもないんです。休日に旅行をしていても、ふとしたときに仕事のことを考えてしまうのは、たぶんそれだけ仕事が好きだから。もはや、生きがいのようになっているんだと思います。

酒井

素晴らしいですね。これまでに、スランプになったり、お仕事で悩まれたことはないのでしょうか?

清水

もちろんありますよ。というより、ずっと悩み続けてます! とくに、製作の前段階で苦しむことが多くて、いつも撮影の前日まで「何かもっといいアイデアが浮かばないかな」「ほんとうにいいものができるだろうか」と不安に苛まされていますよ。貪欲で欲深いせいで「もっといいものを!」と考えてしまうので、自分を納得させるのがいちばん大変です。

酒井

その苦しみ、僕もすごくわかります……。でも、簡単に満たされるようになったら、クリエイティブ的にいいものがつくれないかもと思ったりして。もしかすると、クリエイターに“欲深さ”は必要なものなのかもしれませんね。

7.幸福 / ハピネス

キーアートのアートディレクション、予告編のディレクターを担当したNETFLIX限定番組「LIGHTHOUSE」
酒井

最後にお伺いしたいのですが、清水さんにとっての“幸福”とはなんですか?

清水

またしても岡本太郎氏の言葉を借りる形になってしまいますが……。彼は世間に定義された“幸せ”という言葉を嫌っていて、「自分の中に毒を持て」と言い続けていました。僕も同様に「世間の幸せと自分の幸せは違う」ということを、ちゃんと忘れないでいたいと思っています。

ここまでお話させていただいたように、僕はものづくりが大好きで生きがいに思っているけれど、つくる過程ではひどく落ち込んだり、苦しんだりしています。まるでジェットコースターに乗っているかのように(笑)。でも、そうやって追い込まれるからこそ“生きている”と感じることができますし、ネガティブな側面を含めて、クリエイティブが僕にとっての幸せだと思うんです。極端にいえば、追い込むこと、追い込まれることが好きなんでしょうね。

酒井

動物にたとえるのも変ですけど、「サバンナで生きていきたい」っていう感覚ですよね。快適な住環境で、エサも与えてもらえる動物園で生きるよりも、自分で狩りをしてサバイブしていきたいという。

清水

そうですね。動物園に招かれたとしても、結局サバンナを選んじゃうと思います。そうしたいというより、そうしないと生きていけない。「好きなことの近くにいたい!」って。

酒井

こんなに静謐なご自宅で、そんなアツい言葉を聞けるとは(笑) 清水さんのクリエイティブから、ますます目が離せなくなりました。

by Keisuke Shimizu

清水恵介 |CREATOR CANVAS

Dec 23. 2025

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