柴崎まどか | Artist Interview by Co Agency

Oct. 24. 2024

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ヒーコのアーティストエージェンシー『Co Agency』に新たに加わったアーティストに、所属を決めた理由や今後の展望についてインタビュー。今回は、アパレル業界のデザイナーやアートディレクターを経て写真家にキャリアチェンジし、雑誌やグラビア、映画スチールなどを手がけてきたフォトグラファーの柴崎まどか氏にインタビューを行いました。写真を通して人々の魅力を引き出し続ける彼女のキャリアと今後の展望に迫ります。

Madoka Shibazaki

Designer / Photographer

1990年生まれ。2015年に写真家として独立し、『彼女が好きなものは』(21)、『愛なのに』(22)、『猫は逃げた」(22)、『LOVE LIFE』(22)、『市子』(23)、『雨の中の欲情』(24)など数々の映画スチールを手掛ける他、雑誌、広告、カタログ、アーティスト写真など幅広く活動中。

ーー アパレル業界のデザイナーやアートディレクターを経て、写真家になっていますよね。転機はいつでしたか?

1つ目の転機は、SNSで写真をアップし始めたときです。会社員として働きながら趣味で撮影していた写真が、SNSで徐々に注目され始めて、「もしかしたらフリーランスとしてやっていけるのかもしれない」と思うようになりました。そしてデザインと写真をフリーランスでやっていこうと思い、25歳で独立しました。今後について模索しているとき、プロとアマチュアが合同で展示をする『ポートレート専科』というグループ展のオーディションを受けたんです。ポートフォリオを持ち込んで写真を見てもらい、翌年のポートレート専科に参加できることになりました。そこでプロの写真家さんと出会い、現場に付かせてもらったり、アシスタントに行ったりしながら仕事のやり方を覚えて、個人でやっていけるようになったという経緯があります。

2つ目の転機は、『左様なら』という映画のスチール撮影に呼んでいただいたことです。当時、役者さんやモデルさんと作品撮りをさせていただく機会が多かったのですが、そのとき撮影していた役者さんのつながりで、監督が私の写真を見つけてくれたんです。それがきっかけで、映画業界に入っていきました。

映画『左様なら』より

ーー 映画やドラマのスチール、グラビア撮影なども担当されていますが、ここまでのキャリアプランはあらかじめ計画を立てて行動されていたのでしょうか?

2015年に独立した際、写真家としてのやりたいことリストを作ったんです。人を撮るのが好きだったので、「写真集を出す」、「雑誌の表紙を撮る」、「映画のポスターを撮る」など、いくつかの目標を立てていました。それから「映画のポスターを撮るなら、まず映画に出ている人たちを撮影しよう」と考えたり、意識的に映画のような空気を感じる写真を撮ってSNSにアップしてみたりしました。そのときできることで自分なりに目標に向かって行動していたんでしょうね。映画に限らず、グラビアやファッションも同様に、営業に持っていけるようなイメージで作品撮りをよくしていました。

映画『市子』より

写真を仕事にしようと思う前から紙になった広告物が好きで、高校生の頃は雑誌の好きなページを切り抜いてスクラップしたりしていました。自分もいつかこんな写真を撮れたらいいなあと思っていたので、写真集には思い入れがすごくあります。昔買った写真集を今でもよく見るのですが、基本的に紙という物質で写真を見るということが好きなんです。独立した時から今までコンスタントに写真集を作って自費で発表しているのですが、自分にとってとても大切なことだから、これからも続けていきたいと思います。

ーー これまでのキャリアで印象に残っている撮影やご自身の可能性が広がったと感じるものはありましたか?

2020年頃から映画の仕事が増えたことをきっかけに、「映画や役者さんに対して、私にできることってなんだろう。もっと役者さんを応援したい!」と考えるようになって。ちょうどその頃、とある映画に企画から携わる機会があり役者さんたちのプロフィール資料を見ていたら、宣材写真で損をしている方が結構いるなと感じたんです。実物はもっと素敵なはずなのに、その魅力が全然写っていない写真を使っている人がたくさんいました。そこで、手頃な価格でフリーの方でも気軽に参加できる撮影会を開催するようになったんです。スチールマンとして映画の現場に入ったり、映画制作に関わったり、生で芝居を感じられる環境にいる自分だからこそできるアドバイスや、引き出せるものがあると思っています。その人の良い部分を誇張せずに引き出して、際立たせる表現が得意なので、宣材撮影は自分の撮影スタイルと相性がよかったんですよね。宣材撮影をするようになって、自分の可能性が広がったなと思います。

ーー まどかさんが撮る宣材写真は、空気感をすごく写していると思うのですが、どのように引き出しているのでしょうか?

宣材写真のイメージに合うよう、スタジオもヘアメイクも自分で選んでいます。宣材写真のヘアメイクや衣装って、実はかなり難しいんですよね。ナチュラルだけど良く見える、すごく絶妙な塩梅を表現してくれるヘアメイクさんとスタイリストさんを厳選して頼んでいます。緊張をほぐすためにはヘアメイクをする時間も大切だと思っているので、ヘアメイクさんの人柄も重要。メイクルームで緊張を緩めてもらってからスタジオに入ってもらい、撮影中もなるべく自然体でリラックスできるように、私もたくさん会話をするようにしています。「今後どういう役やってみたい?」とか「最近どんな映画見た?」とか雑談を混ぜながら、空気感を大事にして撮影するよう心がけています。

最近では撮影の他に、キャスティングする側がどういうものを求めているのかを客観的に捉えて、それを踏まえたプランを提供することにも力を入れています。
例えば、オプションで撮影前の事前面談を行ったり、スタジオ付近でロケーション撮影をしたり、プロフィール資料の作成まで担当することもあります。これはデザイナーとしての経験も生きていますね。
撮影前の事前面談については、役者さんは普段お芝居をするとき、カメラの存在を意識しないようにしているので、カメラを見ることが苦手な人が多いんです。なので宣材写真の撮影で緊張してしまう方も少なくありません。自分の方向性が分からないという方もいますし、撮影当日にぶっつけ本番ではなく、相談のために事前にディスカッションできる場を希望する方がいるんです。事前準備をしておくと、撮影当日の緊張感も全く違いますしね。ロケーション撮影はスタジオよりも開放的な場所で撮るので、より自然な表情が撮れたり、映画の中の世界にいるようなイメージで撮影できるので人気のオプションです。
他には、衣装のカウンセリングもしています。宣材写真を撮りに来てくれる方は、フリーランスの方やこれから事務所を探したいという方も多く、プロのスタイリストさんにスタイリングしてもらうのが初めてというケースも多いです。自分の体型に合う服や、やりたい役をイメージしてもらえるようなスタイリングをプロ目線からアドバイスしてもらうことで、自分を客観的に見る場としても活用してもらえればいいなと思っています。

ーー まどかさんの写真はどれを見ても、その人の良い所を引き出していますよね。

どんな人にも良いところとか、良い顔とか、「これだ!」と思うスイートスポットが必ずあって、それを引き出せたときにめちゃくちゃテンションが上がります(笑)。その人の一番好きな顔や良く見える角度を捉えている感じ。特にグラビアは、その人の一番良い表情を引き出してやる!と思って撮っています。

ーー その写真への情熱はどこから?

やっぱり、楽しいからでしょうか。どの仕事でも「この写真を撮るために私はここに来たんだ」と感じる瞬間があるんです。自分が撮った写真が一番好き。自分が自分の写真の一番のファンだから、「こんな良い写真が撮れた!」とか「またこんな新しい写真を生み出しちゃった!」と感じる瞬間が嬉しいし、楽しいです。

ーー 以前、写真以外のことは続かなかったとお話しされていましたよね。

例えば絵、音楽も好きですが、絵や音楽では私の好きなものはうまくアウトプットできませんでした。唯一、自分がイメージしたものをそのまま出せるのが写真だったから、続けられるし、常に新鮮で楽しいです。撮影を重ねるごとにできることがどんどん増えて、自分自身の経験や変化と共に写真も変わっていく感じがあります。過去を振り返って昔の写真を見ても「私、めっちゃいい写真撮るじゃん!」と思うことがあります(笑)。だから写真は面白いです。

ーー 天職ですね!これまでのデザインやディレクションの経験も写真に影響していると思いますか?

撮影をするときに、この写真はどんな風に使われるのかということをよく考えています。例えば、映画のスチールで現場に入ったとき、このシーンはあらすじで使われそうだから文字を乗せられるような空間をあけておこうとか、パンフレットで使いやすいように寄りと引きのバリエーションを多めに撮ろうなど、具体的なアウトプットについて考えながら撮影することが多いです。自分がもともとアートディレクションやグラフィックデザインをやっていたので、宣伝ではこういう風に写真を使いたいなというイメージが先に出てきますね。
11月放送のドラマ『きみの継ぐ香りは』では、写真だけでなくロゴやポスタービジュアルなどのデザインも私が担当したのですが、デザイナーとして自分が作りたいイメージが頭の中にあったので、撮影のときも迷いなく挑めました。

ただ、ドキュメンタリー感が欲しいグラビア撮影など、人をいかに写すかが重要な現場では、あえて余計なことを考えずに撮ることもあります。

ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』より
ドラマ『1122(いいふうふ)』より

ーー 今後チャレンジしていきたい領域や展望について教えてください

自分の作品として世に発表できるものを増やしたいと思っています。国内に限らず、海外も含めていろんな人に見てもらえる作品をつくっていきたいです。それから、やはり写真集は目標としていたことでもあり、好きなことなので継続していきたいですね。人が好きなので、人と向き合って何かを作っていく共同作業にやりがいを感じるし、楽しいです。

写真は、被写体と自分とのコミュニケーションだと思っているので、一人とじっくり腰を据えて、時間をかけて丁寧に向き合うような仕事がしたいですね。人が生活している空間や日々の暮らしなど、カルチャーの撮影にも興味があります。人だけでなく物に関しても良い所を見つけるのが得意なので、どう写せば魅力的に見えるのかなどのディレクションも含めて担っていきたいと思っています。

ーー 最後に、ヒーコに今後期待していることなど、所属を決めた理由を教えてください!

ヒーコの得意な分野と自分の作家性を掛け合わせて、自分ではアピールできなかった私の写真の良い部分を見つけてマッチングするなど、架け橋になってくれることを期待しています。また、契約書や法律関係など自分だけでは限界を感じる部分もあるのでサポートしてほしいですね。

請求書の作成などの事務作業にも割と時間を取られていたので、作品づくりに専念できる環境を整えてくれることを期待しています!2015年に独立してから今までずっと一人でやってきましたが、11年目にしてヒーコの力を借りて活動の幅を広げることができたらと思っています。

by Madoka Shibazaki

柴崎まどか | Artist Interview by Co Agency

Oct 24. 2024

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