日に30時間の労働という矛盾のみが軌跡をうむ。オレは今ブラック企業を越えた。黒田明臣 @crypingraphy です。今日は、さいきん購入した sd Quattro Hというカメラについてご紹介します。以前に丹野徹先生によるレビューがありましたが、身内では朱門先生までFoveonセンサーの魅力にハート持っていかれてまして、ミーハー代表の黒田が購入するには充分な理由でした。
風景やスナップの作例を拝見することは多いのですが、ポートレートの作例をみることは殆どなかったので、試してみるかな〜というソフトな動機ですがシャープにレポートします。
そもそも sd Quattro ってなに?Foveonセンサーってなに?
基本的な情報はSIGMA公式サイトをご覧いただくのが良いと思うので、ここでは説明は最小限にしておきます。
普段何気なく使用しているデジタルカメラですが、多くはベイヤーフィルターを採用したイメージセンサーになっています。中にはFUJIFILM社のカメラで採用されているようなX-Transカラーフィルターもあったりもしますが、今回ご紹介する sd Quattro HのようなFoveonセンサーは、ベイヤー式ともX-Transフィルターとも異なるアプローチが採用されています。
詳しくはSIGMA公式サイトをご覧ください。
新開発 Foveon X3 SENSOR Quattro
Foveonセンサー独特の豊かなトーンとグラデーション、しっかりとしたテクスチャを感じさせる「フルボディ」画質は、光の情報を垂直方向にまるごと取り込める世界唯一のセンサー方式、「フルカラーキャプチャシステム」によるものです。新センサーでは、新たな3層構造1:1:4を採用。輝度情報はトップ、色情報はトップ、ミドル、ボトムの3層で取り込み、Foveonセンサーならではの持ち味はそのままに、さらなる高画質を追求。解像度(従来比30%アップ)とノイズ特性を向上させ、高画素化に伴うSN比の悪化を抑えられるだけでなく、忠実な色再現を行うための膨大なデータ処理の高速化にも成功しました。画質には一切の妥協なく、超高解像とノイズ特性改善を可能にする新センサーのジェネレーションネームは、「1:1:4」ソリューションにちなんで「Quattro」と命名しました。
SIGMA公式サイトより引用。
Foveonセンサーを使ってみたかった。
Foveonセンサーの原理は興味深いなと前々から思っていて、いつか使ってみたいな〜とうっすら思っていたところ、周りのフォトグラファーがすごくハマっていて、勢いで購入してみたのでした。
レンズ一体型の dp Quattro とレンズ公式の sd Quattro
SIGMA社は、いくつかFoveonセンサーのカメラを出していますが、多くはいわゆるAPS-Cセンサーサイズです。しかし sd Quattro Hは、それより一回り大きい APS-H という規格を採用しています。公式曰く5,100万画素相当ということだそうです。また、Foveonセンサーを採用している中には、dp Quattroというレンズ一体型のカメラもありますが、今回はレンズ資産をメイン機のソニーカメラでもMC-11というアダプタを利用して再利用可能なように、レンズ交換式である sd Quattro を購入しました。
sd Quattro Hをポートレートで使ってみた
それでは写真をご紹介します。Foveonセンサーでのポートレート例はあまり見る機会がなく、海外サイトをいくつか徘徊したのですが、それでも参考になる写真は数えられる程度でした。少しでも参考になれば幸いです。
Sigma 35mm F1.4 Artでの撮影ですが、センサーサイズがAPS-Hなので、大体44mm相当になります。いわゆる標準域になりますかね?これは50mmより少し広い程度ですが、個人的には好きな距離感です。55mmよりも45mmの方が自分の写真にしやすいので、大歓迎。これは購入に踏み切った一つの理由。(Nikonマウントの35mm Artは所有していたので、二本目ということになり少し抵抗があったが、APS-Hの場合は45mmと考えると話は別。)
また、個人的な事情でアレですが、MC-11を利用してソニーカメラで35mm難民となっていた点も解決するのが良かった。
描写については、半逆光気味の一枚、F2という状況ですがしっかり解像していて驚きます。本来被写体に目をやるべきなんでしょうけど、初Foveonとなる自分にとっては、バスタブや壁の質感にも驚かされました。
解像感というのはRAW現像時やレタッチによってシャープネスによるコントロールもある程度可能なのですが、例えば髪の質感を高解像にするのは難しい印象で、今回もっとも個人的に気に入った点はナチュラルに髪の毛一本一本を描写しているところ。
1024pxに縮小した画像でも、ハイライト部分から毛先までの立体感が感じられるという驚き。
前ボケを使用した一枚、解像感によってボケ感が失われるのかな?と懸念していたのですが、そういう心配は特にありませんでした。ただダイナミックレンジが広いわけではないので、ボケの階調を後からコントロールするというのはコツがいるかもしれません。
ホテルの白熱灯を使用した一枚。1/80sでした。演色性も悪く低照度という、少し意地悪な環境でしたが、雰囲気をそのまま捉えている感覚は嬉しいですね。F値は開放の1.4。光が回っていないので状況での現像には苦戦しましたが、コツがありそうです。
同じく白熱灯と、窓からの外光が入ったミックス光。色の分離をきちんと表現しながら、やはり髪の質感に驚かされます。基本的にダイナミックレンジが広く、低周波域の優れたレンズを日頃好んで使用しているので、戸惑いはありましたがフォーカスしたいポイントにきちんと露出さえ合っていれば肌の濃淡もきっちり描いてくれていて、ちょっと世界が広がった感覚。まじでキスする5秒前。
sd Quattro Hと同時に購入した、14mm Art での写真。APS-Hでは18mm相当になります。広角レンズを使うことは殆どなく、所有している中でも使用するのは25mmか28mmくらい。18mmというのは未体験領域突入です。しかしこれが正直すごくおもしろくて。
シチュエーションを俯瞰で撮影することが好きな自分としては非常に興味深い画角でした。何よりも歪みがない。ゼロディストーションを歌うだけの性能がたしかにありました。sd Quattro Hよりもこのレンズに驚いたかもしれない笑、これはまた作例が貯まってきたら改めてご紹介したいと思っています。
当たり前のことを言うようですが、広角レンズを使う時は、広角レンズとして使いたい。必然的に周りの環境も含めてシーンを切り取るような感覚で、良い意味で被写体に依存しすぎない、共存を目指すような撮り方を心がけるとうまくポートレートともハマりました。
個人的感想ですが、あまり広角で被写体に寄って顔が細長く歪んだような写真は、ザ・広角といったかんじで抵抗があります。このくらいが自分らしさを保てる丁度よい距離感。
sd Quattro Hと14mmの組み合わせを使用して驚くのは、室内の質感。鉄は鉄として、ガラスはガラスとして写っている感覚は、はじめての撮影場所ではないのにも関わらず新鮮味を感じました。Foveonセンサーならではの無機物の質感表現が非常にマッチしています。
室内灯と、ライティングによる一枚。RAWデータをみて、お世辞にもシャドウ部分の情報量が多いとは言えないのですが、RAW撮影時に最終ビジョンまでの露光量を確保できていれば問題ありません。やはりFoveonセンサーらしい空間掌握能力というか、解像感に裏打ちされた生感が非常に気に入っています。
まとめ
使いこなせたと言えるほどの使用経験はまだありませんが、それでも一度使用しただけで「何かが違う」ということはわかりすぎるほどの一台。ポートレートに使えるかという確認を兼ねて試用したわけですけど、結果的には使えすぎるという感覚。
ただ、確かに万能機といえるような一台ではありません。その特性を理解した上で正しく使用しないといけないなという点も強く心に残っています。いくつかポイントをあげておきます。
SPP
純正RAW現像ソフトであるSigma Photo Pro(SPP)ですが、sd Quattro HのRAWデータは日頃使用しているAdobe Lightroom CCには対応していません。Foveonセンサーによるデータ解析に難度があるのかと思うので、これは致し方ないですね。
ただ、やはりLightroomほどの軽快な動作はなく、まるで戦車のような重厚感で、使用感に癖があるわけでもないのですが、日頃慣れていない分、困惑したのは確か。ただ幸か不幸か、FoveonセンサーによるRAWデータは撮影段階で殆ど完成しているようなものでした。SPPを使いこなしてもLightroomのような追い込みや大規模な変更は必要ない場合がほとんどです。
抽象的な例えで恐縮なんですけど、フイルムで言うところのネガとポジのような違いを感じました。(ネガフィルムと比べてポジフィルムは後処理の許容度は低いが、撮影時にポジ特有の鮮やかな発色などが期待できる)。もちろん、Foveonの場合は発色に期待できるというよりは、やはり解像感の一言に尽きるのですが。
個人的には、SPPで少しニュートラルに調整したのち、TIFFデータとして書き出してLightroomに送っています。これはLightroom上で更に現像というよりは、写真管理の観点で移行していると思っていただいて良いです。
それほどまでに、写真自体は撮影時に殆ど完成しています。あまりやることがない。
解像感
これは先程ご紹介した 35mm による一枚。等倍サイズで確認するとこのような描写になります。よくみていただけるとわかると思いますが、開放付近での撮影なので前髪のあたりは若干ボケているんですね。さらに、肌の質感なども、シャープネスを大幅にかけたような質感、Photoshopのフィルターでいうダスト&スクラッチに近いでしょうか、高周波域と低周波域の違いがはっきりしているというか。何なら境界線のドットまで感じられます。
しかし引いた全体画像を見ていただければわかる通り、すべての特徴が解像感という答えになって返ってきます。ボケている中でも髪の毛一つ一つの解像感が感じられるんですよね、これは初体験でした。
もちろんシャープネスをかけているわけではないので、その点も含めてカメラの特性の一つと言ってもいいかもしれません。ポートレートの場合は、これまでのカメラと比較した違和感を感じるのは確かですが、背景などの場合はただただ解像感にひれ伏すばかり。さらに、引いてみるとこれが写真としての完成度に貢献しているのだから面白いです。
シャープネスの正体は、見た目上の話で簡単に言ってしまえば境界線のコントラストになるわけですが、ドットのレベルで一つ一つの色を可能な限り再現しようという方向性なので、ベイヤーセンサーにおける補完処理と比べるとこうまで違うのかと、色々な意味で勉強にもなりました。
ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジについては、正直なところいくつかはわかりませんが、体感レベルでもシャドウの復元力などがあるとはいえませんでした。ただ、それをもっても余りあるメリットがあるのと、撮影時にこの点を把握さえしていれば、先程示した例のように低照度でも問題はありません。撮影時に見たままに、ただ写るというごくごくシンプルな話です。
この 14mm における例でも、壁の直射光によるハイライトと、ベッドなどの壁になっている部分のシャドウなど、かなりの明暗差があるという点は見たとおりですけど、ニュートラルに再現できています。
sd Quattro Hによるポートレート
そんなこんなでした。いや〜、おもしろいカメラ!ほんとに!正直Foveonセンサーでポートレートを試したかっただけなので、微妙だったらすぐ売ろうかなくらいの感覚だったんですけど、普通に即戦力でした。仕事ではまだ使用できていませんが、ブツ撮りの撮影や店舗の撮影なんかでも使用してみたいなという感覚です。
いちばん感覚として残っているのは、デジタルグラフィックのような完璧すぎる質感というか、良い意味での見慣れた写真への違和感。これはFoveonセンサーがFoveonセンサーであるということを証明しているようなモノで、これまでのカメラとは別のような感覚で使えるため、これ一台を余分に持っていても違和感がないんですよね。
また、14mm F1.8 DG HSM Artは素晴らしく、これは公私ともに使いたいですね。あとは同時に135mm F1.8も購入しているのですが、これはまだ使用できていません。(買ってから二ヶ月くらい経ってるんだけど…)
機会を見つけて使ってみますね。14mmについても続報をお待ちください(笑)
それではまた桜の散るころに。