フォトグラファー生存戦略「写真の歴史はテクノロジーとの歩み」太田睦子 × 黒田明臣

Aug. 25. 2026

SHARE

  • xでシェア
  • lineでシェア

企業のマーケティング活動をコンテンツで支援するXICO(ヒーコ)。エンジニアからフォトグラファーにキャリアシフトし、企業コンサルティングなども手掛けマルチに活動するヒーコ代表 黒田明臣氏が、広告写真業界を軸に独自の観点で様々なプレイヤーと対談。この時代をフォトグラファーが生き抜くためのヒントを、対話の中から導き出す。

11回目のゲストは、太田睦子氏は、アート写真雑誌『IMA(イマ)』の創刊、ギャラリー運営や写真集刊行事業を経験し、現在ではフォトフェスティバルも手がける。世界をまたいで写真文化振興のために精力的に活動している太田氏に、デジタルやAIの発展による写真シーンの動向や展望を聞いた。

※本記事は2023年9月に実施したインタビューを再編集・再録したものです。当時の視点から語られた内容としてお楽しみください。


(インタビュー実施日:2023年9月当時)

Mutsuko Ota

Editor

アマナ IMA Div エディトリアルディレクター。91年サントリーに入社。雑誌『マリ・クレール』、『エスクァイア』『GQ』を経て、2012年より雑誌『IMA』のエディトリアルディレクターを務める。

Akiomi Kuroda

Founder of XICO

株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。

黒田

太田さんとは以前にXICOのWeb記事で対談させていただきましたが、あれから5年ほど経過しています。現代アートという観点で写真を活用したものが増えてきたり、世界的な写真コンテストでジェネレーティブアートの作品が最優秀賞に選ばれたりと、面白いトピックが増えていますよね。ぜひ、このあたりを写真雑誌『IMA』と絡めてお聞かせください。

太田

IMA は今年で創刊11年目になります。私は以前『Esquire(エスクァイア)』の編集部にいたのですが、初めて企画した写真特集が大きく当たったんです。それまでは、レストランや旅の特集をしていたので、写真がこれだけ望まれているんだ! と驚きました。その後、フリーの編集者になって、オランダの『FOAM』というフォトマガジンを日本にローンチするテスト版手伝いの話をいただいたんです。


FOAMのバックナンバーはどれも本当に素晴らしくて、「日本にもこういう雑誌があったらいいのになぁ」と思いながら編集しました。そんな流れがあったので、アマナでIMA を創刊することになったとき「FOAMのような雑誌を作りたい」と思ったし、当時はデジタル化の波に押されて様々な雑誌の休刊が相次いでいたので「どうせなら紙でしかできないことをやりたい」という気持ちがありました。ちょうど写真もフィルムとデジタルがせめぎ合っていた時期で、国内外で新しい表現をする才能ある若手写真家がたくさん登場したタイミングでもありました。

黒田

当時の日本の写真シーンは独特な文化が発達しすぎていた気がします。まさにガラパゴス化ですね。ただ、この10年で現代アートが受け入れられるようになり、少しずつ融和してきていますよね。

太田

この11年の間に、写真集ブームもあり、デジタル化により小さい出版社でも少部数の発行ができるようになりました。ファウンドフォトを使った作品、赤外線を使った作品、コラージュや刺しゅうとか、それまでにない多様な表現が出てきたので、雑誌で紹介する作品には困らなくて、取り上げても取り上げてもまだまだあるぞって感じでしたね。

黒田

IMA に登場するフォトグラファーは創刊から今まで10年間変わらず、国内外問わず、錚々たる顔ぶれですよね。どのようにオファーしているのでしょうか。

太田

エスクァイアでアートと写真の担当をしていた関係でライアン・マッギンレーやスティーブン・ショアのようなアーティストたちとつながりがあったので、IMA 創刊時のオファーにも彼らがすぐにOKをくれました。その他にもゲルハルト・リヒターやヴォルフガング・ティルマンスや所属ギャラリーが協力してくれ、名もない雑誌にもかかわらず、ありがたいことでした。あ、森山大道さんやホンマタカシさん、鈴木理策さん、川内倫子さんなどもです。


話は少し変わりますが、私がエスクァイアで写真特集をしていた頃はドイツ写真家が人気を博していた時代だったのですが、やはり写真の中心は NY かパリ、ロンドンまでだと思っていました。でも、そのあとアムステルダムの FOAM がオランダから写真界を盛り上げてきたり、その少し前から南アフリカの写真が面白くなってきたりという動きがグローバルにあって、写真界の中心がちょっとずれた印象があって、面白い写真表現がどんどん生まれたんです。その背景には、アムステルダムの「ヘリット・リートフェルト・アカデミー」やローザンヌの「ECAL」という学校の存在が大きいと思ってます。日本の写真も教育が変われば、もっと変わるんじゃないでしょうか。

黒田

なるほど。日本のアートに対する理解が諸外国と比べて遅れをとっている根底は、まさしく教育にあると思います。太田さんご自身は日本の写真教育に関して考えられていることはありますか?

太田

パリとアムステルダムと東京の3都市で日本人の若手フォトグラファーによる「LUMIX MEETS BEYOND 2020」という写真展示企画を7~8年ほど続けました。みなさん展示の経験も少ないし、現地でお客さんから直接質問を受けても最初は自分の作品を上手に説明できないのですが、どんどん鍛えられて、自分の作品を客観的に見る訓練になる。また、滞在中にパリフォトや UNSEEN を視察して見聞を広めることもできる。アワードで賞金をもらうのもいいけれど、こういう血となり肉となる経験はとても有意義だと実感しました。

黒田

自分の作品のコンセプトを説明したり、自分がどういうアーティストなのかを伝えたりする方法を、義務教育として美術の授業で学べるといいですよね。

太田

実はこのイベント、来場者が一番少ないのは日本なんです。日本人は無名の新人の展覧会に行く人はきわめて少ないのですが、アムステルダムやパリではたくさんの人が見に来てくれます。展示を見て、たくさん質問を投げかけられるから、自分の作品の強みや弱みも見えてくるんです。極東から来た名前も知らない若者たちの作品を見て「いいじゃない」と言って、しかも作品を買ってくれる。それってすごく自信になりますよね。

黒田

日本は有名な作品の素晴らしさを再確認するのが好きで、海外の方は誰も知らない名作を発掘するのに喜びを感じるというところはありますね。ところで、日本の写真界においては広告とアートは切り離されることが多かったですが、欧米ではどうなのでしょうか?

太田

線引きしている人もいるし、線引きしていた時代もありますが、今はヴィヴィアン・サッセンのように広告をたくさんやっているアーティストもいて、曖昧になってきているように感じます。特にファッションブランドは広告をアーティストでやりたいというトレンドもあります。洋服を着ているから結局はファッション広告ではあるんだけど、そこに何らかのコンセプトやテーマがあって、各人の表現で撮る作家性の強い写真が好まれます。服がきれいだからではなく、考え方やアティチュードみたいな部分に共感してそのブランドのファン度が高まっていくんです。

しかも、以前はそういうハイブランドとつながるためにはギャラリーに所属して写真集を出すとか、アワードを取るとか、いくつかのステップが必要でしたが、今は SNS に写真をアップしていれば、ブランド側のクリエイティブディレクターから直接話が来るケースも増えています。

黒田

ブランドがユーザーとの距離感を縮めるようなアプローチが強まるなかで、よりアートとしての写真が、ひいては “ 自分の写真を撮る ” ということが求められているのかもしれませんね。IMA では世界的なフォトグラファーとあわせて新進作家の方も取り扱っていますが、どのように発掘していますか?

太田

良い写真集を出している出版社をチェックしたり、フェアやフェスに参加したり、編集者やキュレーター、ギャラリーの人から教えてもらうことも多いです。あとはポートフォリオレビューとかアワードの審査で出会うことも。若手も著名な方も、日本人も海外の方もすべてフラットに紹介する写真雑誌は日本にはあまりなかったので、IMA ではそれをやりたかったんです。

黒田

日本人フォトグラファーの露出が過ぎるとグローバルなメディアとして公平性を欠くように見えてしまいますが、国内も国外も紹介するスタンスであれば、「本当に面白い人を紹介している」という認知になりますよね。

太田

若手写真家の紹介という意味では、IMA ONLINE で若手写真家と企業のタイアップもしています。普通だとそのブランドの土俵で仕事をすることになりますが、IMA の広告タイアップなら自分の作風にブランドを引き込むことが求められているので、作品との中間での仕事をすることが可能です。

GENRE コンテスト
TITLE IMA next

雑誌「IMA」を立ち上げる際に、図書館に通って、これまで日本で出版されてきた膨大な写真雑誌を見直しました。
中でも読者からの写真投稿雑誌が多数刊行されてきた歴史を知り、こうした営みが日本の写真文化を醸成してきたのだ、
写真を扱うメディアとして無視はできないと思い、オンラインコンテストの IMA next を始めることにしました。


黒田

ボトムアップが許容されて、出自関係なく突然トップに行ける世界になってきていますよね。そこで太田さんが今、注目されている写真は?

太田

AIの自動生成画像がアート写真に与える影響が、と気になっています。自動生成はフォトグラファーの仕事を奪うのではなく、それを上手に活用して、今後AIを手法のひとつにする人も増えていくんじゃないでしょうか。


写真自体、もともとが撮影者だけの作為ではなく、機械による予測不能な要素が入ってくるものですし。デジタルカメラが登場した時はフィルムが駆逐されると危惧されていましたが、それどころか今は20代の若い人たちがわざわざフィルムを好んで撮っていますよね。もう古いとか新しいとかの二者択一じゃなくて、自分がやりたいことに対して、どの道具を使うのかというだけですよね。

黒田

絵画と違って、写真には偶発性があるからこそ“妙”という部分があります。そういう意味で言うとジェネレーティブ AI(生成 AI)も結局はそれに近いところがありますよね。もしかすると、アナログがデジタルになった時のほうが大変なことが多かったかもしれません。

太田

そうですね。IMAは立ち上げから雑誌とWebの両方でスタートしたのですが、Web には載せないでほしいという作家も結構いました。あと、グルスキーを取り上げた時に、よかれと思って写真を観音開きで大きく掲載しようとしたら、「スキャンされたら困るから大きくしないでくれ」と言われたことも。テクノロジーが進んだからこそ、そういう心配も起こるのだと驚いたのを覚えています。

黒田

今では写真が小さくてもAIが補完してアップスケールできるようになっています。テクノロジーの発展で表現の幅が広がっていくだけでなく、時代と共に対策も変わっていくんでしょうね。

太田

絵画と違って、写真は出発が “テクノロジー” なんですよね。テクノロジーと人の歩みが写真表現を作ってきているのだと思うと面白いし、それが続いていくのかと思うと終わりがない。今後はどうなっていくのかがますます楽しみですね。

GENRE フォトフェスティバル
TITLE 浅間国際フォトフェスティバル2023 PHOTOMIYOTA

2023年のテーマは「イメージの実験場」。年々、写真には“物質感”がなくなり、“情報”の要素が強くなっています。

その一方で写真家の方々は古典技法や最新技術をイメージに掛け合わせながら、実験的な制作活動を繰り返している、それが今の時代です。

上2点(左:柿本ケンサク/右:苅部太郎)は AI を使用した作品2点。

フォトグラファー生存戦略とは

企業のマーケティング活動をコンテンツで支援するXICO(ヒーコ)。エンジニアからフォトグラファーにキャリアシフトし、企業コンサルティングなども手掛けマルチに活動するヒーコ代表 黒田明臣氏が、広告写真業界を軸に独自の観点で様々なプレイヤーと対談。この時代をフォトグラファーが生き抜くためのヒントを、対話の中から導き出す。

ヒーコとは

企業のコミュニケーションをデザインし、クリエイティブで実装していく、コ・クリエイティブカンパニー。多角化する企業のマーケティングやブランディング活動を、プロデュースとディレクションを武器に支援。市場や媒体を横断しながら企業の付加価値を高めるための成果をお届けすることがヒーコの役割です。

誌面はこちら

最新号はこちら

プロフォトグラファーのための情報サイト

※本記事は『コマーシャル・フォト』2023年11月号の転載となります。

by Mutsuko Ota

フォトグラファー生存戦略「写真の歴史はテクノロジーとの歩み」太田睦子 × 黒田明臣

フォトグラファー生存戦略「写真の歴史はテクノロジーとの歩み」太田睦子 × 黒田明臣

Aug 25. 2026

Newsletter
弊社、プライバシーポリシーにご同意の上、ご登録ください。

このシリーズのその他の記事

関連記事

  • デジタル広告運用の「AI自動運転化」で広告代理店の運用人材はどうなるか|Meta・Google AIで変わる職種と残る職種
  • 広告代理店「大再編」の構造分析|博報堂×オプト、NTTドコモ×CARTA、KRAFTONによるADK買収が示す業界の行方【2026年版】
  • AI動画広告が自動生成される時代に、クリエイティブディレクターに求められる5つの役割
  • EC×リテールメディア時代のビジュアル戦略5原則|”商品画像が広告になる”時代の実践ガイド

ARTICLES

Loading...