平木希奈 展示との対話「Amour」|Dialogue in see you gallery

Nov. 07. 2025

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東京・恵比寿の「see you gallery」での、写真家・映像ディレクターの平木希奈さんによる個展「Amour」。

ガールズバンド「SCANDAL」のRINAさんを主演に迎え、写真作品を通じて耽美かつホラーな物語を紡ぐ同展のテーマは、タイトルの通り「純愛」。そこには、平木さんご自身のパーソナルな経験や、これまでに魅了されてきたさまざまな“美しさ”が反映されているといいます。

今回は平木さんに、展覧会や作品の製作背景や、これまでの歩み、独自の世界観を形成したものなどについて、詳しくお話を伺いました。

Mana Hiraki

Photographer / Film Director

1994年生まれ。写真家としての活動の他、映像ディレクター、アートディレクター・プロップスタイリング等の分野でも活躍。御伽噺から飛び出したようなファンタジックなアイデアをベースに、マジックリアリズムを感じさせるシュールで一貫した表現力が武器。多くの音楽家のアーティスト写真やジャケット写真を手がけている。2023年にSCANDAL RINA × mana hiraki「WAVE?」(THE PLUG)、2025年に個展「筐はっか」(229 GALLERY)を開催。

絵描きから、唯一無二の世界観をもつ写真家・映像ディレクターへ

―― 写真家のほかに、映像ディレクター、アートディレクター・プロップスタイリストとしても活躍されている平木さん。クリエイティブのさまざまな分野を手がけられるようになった経緯について教えてください。
昔から絵を描くのが好きだったので、「自分は絵描きになるんだろう」と思い、大学では美大の油絵専攻に進みました。美大卒ではあるのですが、実は大学卒業までほとんど写真を撮ったことがなくって。とはいえ、油絵専門だったわけではなく、学んだのは“ファインアート“。ファインアートの領域では、平面の絵画や立体のオブジェにも、写真や映像にも線引きがないというか、表現するためならどんな手段を用いてもいいんです。在学中は油絵に専念していましたが、卒業後に立体や映像作品をつくることができたのは、私の中ではそれらが絵を描くことと地続きの表現だったからだと思います。

クリエイティブのさまざまな分野を自分で担いたいと思っていたわけではなく、単純に、それ以外の手段を知らなかっただけ。フォトグラファーやフィルムディレクター、プロップスタイリストなど、それぞれのプロフェッショナルが集まって作品づくりをする、ということを知るより前に、自分ひとりでチャレンジする環境に置かれていたという感じですね。

―― なるほど。卒業後は、どのようにキャリア形成されたのでしょうか。

「いつか着物に絵を描いてみたい」という夢があったので、卒業後は呉服店に就職しました。その後は、「自分にはもうクリエイティブなことはできない」と思って、創作活動をしない時期もありました。なにかをやりたかったけれど、平日は正社員として働いて、休日に油絵を描いて……というのは本当に大変で。というのも、油絵は完成までに材料費も、労力も、時間もすごくかかるんです。しかも私はせっかちなタイプなので、「この作品をつくりたい!」と思ってから完成までに時間がかかると、創作への熱が失せてしまうタイプで……。そのうちに、熱がもっとも高いうちに時間をかけずに表現できる方法は、写真だということに思い至りました。

写真家としての活動のスタートは、ヌード作品でした。ヌードといえば男性写真家が撮影したものを目にすることが多いけれど、「自分なら、女性ならではの視点で、女性の魅力を表現できる」と思って、挑戦したくなったんです。“匿名性のあるヌード作品”のプロジェクトを個人的に立ち上げて、SNSや個人サイトなどで発表するようになったのが、たしか2019年ごろ。当時は呉服店の仕事と両立していましたが、少しずつ反応がいただけるようになり、1年経つ頃には写真のお仕事もいただけるようになって。そのうちに、こちらのほうが本業になりました。

―― 映像ディレクターのお仕事はどのようにスタートされたのでしょう?

映像のお仕事は、作品づくりでもほとんど映像に挑戦したことがないようなときに、突然お声がけいただいたんです。当時使っていたカメラがたまたま映像も撮れるものだったのでチャレンジしてみたところ「写真でも映像でも、平木さんらしい“色”がそのまま出ているね」と評価していただけて、いつの間にか映像もよく撮らせてもらうようになりました。

あまり映像を撮ることにも抵抗感がなかったのは、大学の先輩である林響太朗さんをはじめ、写真と映像のどちらも撮られる方がまわりに多かったことも影響しているかもしれません。

―― クライアントワークでは、どのような役割を依頼されることがもっとも多いですか?

音楽関係のお仕事をいただくことが一番多いのですが、ありがたいことに、アーティストの方やアイドルの方々の曲のイメージを私の“世界観”で表現してほしいと言っていただけることがほとんどで、MV、ジャケット、アーティスト写真などを、アートディレクター・写真家・映像ディレクター・プロップスタイリストといった役割で、まるっと担当させていただいています。

―― クライアントワーク・パーソナルワーク問わず、平木さんのつくり出す作品では唯一無二の世界観が表現されているように思います。スタイリストやヘアメイクなど、作品づくりに参加されるチームメンバーには、どのようにイメージを共有していますか。

事前にコンセプトやイメージラフなどを載せた企画書を渡して、綿密な打ち合わせを重ねています。ヘアメイクやスタイリングに関しても、文章やイラストや写真など、さまざまな方法で「こういうイメージでお願いしたい」とお伝えしていますし、しっかりと汲み取ってくださる信頼のおける方々に依頼しているので、いつも想像以上の最高のものができあがりますね。ときには「こうしてみるのはどうですか?」とご提案いただくこともあるのですが、みなさんの経験や感性と混ざり合う瞬間はとても幸福です。だいたいいつも同じメンバーで製作しているので、呼吸も合いますし、私も安心して取り組めるんです。

ホラーに内包される耽美を表現した「Amour」

―― 「SCANDAL」のRINAさんを被写体に迎えた作品は、かねてから平木さんのファンであったRINAさんからのオファーでスタートしたという「WAVE?」に続き2作目となりますが、今回の「Amour」での作品づくりはいかがでしたか?

もともとRINAさんは「SCANDAL」での活動のほかに個人で活動をしてらして、その世界観を表現するパートナーとして私にお声がけくださったのがきっかけだったのですが、前回の「WAVE?」のコラボ展は、私の作家としての初展示だったんです。自分の写真作品をプリントして飾ったり、展示空間を構成したりといったことも初めてだったのですが、すごく楽しくて、「また展示を開催したい」という自信につながりました。

今年2月には初個展となる「筐はっか」を開催したのですが、その後「see you gallery」のディレクターであるJ.K.Wangさんから「またRINAさんを被写体に迎えて、個展を開きませんか」というお話をもらって、RINAさんともう一度作品づくりができることになりました。

今回はどんなものをつくろうかと打ち合わせしていた際、ホラー作品が好きだという共通点が見つかって、ホラーかつ耽美な世界観を表現しよう、と決まりました。お互いに思いきり好きなものを表現することができて、製作も楽しかったですね。

「WAVE?」より

―― たしかに、「Amour」では、RINAさん演じる女性が徐々に人間離れしたおそろしさをまとっていく姿が写し出され、どこかホラーな美しさを感じさせます。平木さんのなかで、“ホラー”と“耽美”は共存するものなのでしょうか。

そうですね。私は、ホラーには美しさが内包されていると思います。静かで緊張感があって、人間が畏れを感じるものって、とても神秘的で美しいでしょう? それに、ホラー作品に共通して漂う“死の気配”って、どこか色気があるように感じるんです。

これは私が女性だからかもしれませんが、ホラーの表現に欠かせない“血”というものは、月経などで自分の性と密接に結びついていて、本能的にエロスを感じてしまいます。だからこそ、清潔でキラキラした表現よりも、うす汚れて陰鬱としたホラー的な表現に、とても色気を感じます。今回の作品は直接的にホラーというわけではないけれど、ホラーの中にある美しさをあらわしたいと思いました。

―― 「Amour」は夏目漱石「夢十夜」の「第一夜」から着想を得たそうですが、この小説を作品のモチーフに選ばれたのはなぜでしょうか。

個人的な話で恐縮なのですが、私が大失恋を経験したことが関わっています。「夢十夜」の「第一夜」は、死にゆく女性に「百年待っていてください」と告げられた男性が、女性の言葉通りに墓の横で待ち続けていると、女性の墓から百合の花が咲き、約束の百年が経過したことに気がつく──という物語ですが、女性側を主人公にして考えてみると、すごく執着心を感じるなと思ったんです。そして私自身も、恋愛においては相手にすごく執着してしまうことがあったので、この気持ちを成仏させるためにも、作品として昇華させたいと思いました。

でも、執着ってすごく悪いことのように言われがちだけれど、大切な感情なんじゃないかとも思っていて。ひとりの人に対してそこまで大きな感情を向けられるなんてそうあることではないし、真摯に何かを想うことはとても美しいと思うので、そういった素晴らしさも表現したいと思いました。

―― タイトルを日本語ではなく、“愛”を意味するフランス語にしたことには、どういった意図がありますか。

もともとは、“愛”に関する日本語の漢字を並べた、堅くて古さを感じるタイトルをつける予定でした。ただ作品を観ただけでは、愛がテーマになっているとは気づかないかもしれないけれど、あえてタイトルで答えを提示することで、鑑賞者の観方が変わるのではと思ったんです。でも、漢字の「純愛」をタイトルにすると、この作品のアングラ感が出過ぎてしまうかなと思い、あえて「Amour」としました。愛は万国共通の身近なテーマですから、「この作品は愛がテーマだ」と最初にネタバラシされることによって、より作品に入り込んでもらえるのではと思っています。

作品に“目で触れる”ことができるから、展示には価値がある

―― 展示では、目の高さに配置されている作品もあれば、足元に近い位置に配置されている作品、床に並べられている作品もありましたが、これにはどのようなねらいがありましたか。

生き生きとした“乙女”の姿を写した作品の向かいには、“幽霊”のような姿となった作品を配置していますが、これは「鏡に写った女性が変貌している」ことを表現するため。白い花と女性の髪の毛を写した作品が床に近い位置に配置されているのは、ふと見下すとボトっと落ちていた、と感じてもらうためです。

壁に囲まれた床には細長い台を配置し、絵巻物のように数枚の作品が観られる構成に。この台には、乙女の姿と幽霊の姿が対になるように配置していて、女性が少しずつ変貌していくさまを追うことができます。

そもそも私は、夢と現実だとか、生前と死後だとか、時間軸や世界線が錯綜している表現が好きなんです。今回は写真作品でハッキリとそれを可視化したわけではなかったので、空間構成で感じてもらえるよう、見せ方にはかなり工夫を凝らしました。

―― メインの空間から物販スペースへ移動する小さな通路には、作品とともにスピーカーが配置されており、10分ごとに不思議な音声が聴こえてくる演出が採用されていましたね。

あれは、実は私の声なのですが、「夢十夜」の「第一夜」を朗読した音声をあえてぐちゃぐちゃに流しています。はじめはギャラリーにBGMを流すことも検討したのですが、音楽って鑑賞にリズムをつけてしまうから、今回はちょっと違うなと思って。みなさんはいろんな順番で作品を鑑賞されるはずで、そうなると物語の進み方もバラバラになるので、朗読している音声もあえてまぜこぜにしてみました。それを、音をくもらせたり、部分的にミュートしたり、ラジオ音声のように加工しています。「どこからともなく声が聴こえてくる」というのは、ホラーの定番ですからね(笑)

―― 今回は作品集を通常版・特装版の2種類販売されていますが、作品集を未製本仕様としている点や、特装版にコースターやサシェを付属させている点も斬新でした。

作品集を未製本仕様としたのは、購入した方が、好きな写真を好きな場所に飾れるようにしたいと思ったからです。結果として、作品集を鑑賞する際に紙芝居をめくるような動作が必要となったところも、この作品らしくて気に入っています。コースターも同様で、作品を気軽に、好きな場所で鑑賞できたらいいなと思い採用しました。

私の作品について、時に「匂いたつような写真だ」という感想をいただくことがあるのですが、今回はそれがダイレクトに楽しめるよう、花の香りのサシェを付属させました。香りとともに作品を鑑賞すれば、より深く作品の世界に入り込めるのではないかと思います。

―― 視覚以外でも作品が楽しめるというのはユニークですね。平木さんが展示を開催される理由には、そういった“身体を使って鑑賞できる”ということも関わっているのでしょうか。

そうですね。今の時代、SNSでも作品を発表することはできるけれど、たくさんの写真が情報としてあふれているなかで、1枚の作品を鑑賞する時間がどんどん短くなっているように思うんです。SNSで流れてくる写真を見つめる時間なんて、長くて3秒くらいじゃないでしょうか。それって、きちんと作品に触れられていないよなあって。

作品が実空間に展示されていると、いろんな角度から鑑賞したり、プリントされた紙の質感に目をこらしたりして、作品に“目で触れている”感覚が味わえますよね。それに、配置によって生まれる物語にも興味があります。モニター越しに対峙すると、どうしてもすぐにスワイプしてしまうし、質感や質量などの情報量も少ないので、じっくりと触れることができない。だから私はやっぱり展示で作品を楽しむほうが好きだし、表現者としても、コンスタントに展示を開催していきたいと思っています。

Information

EXHIBITION

Amour
会期:2025年10月31日(金) – 11月9日(日)
営業時間:13:00 – 20:00 (会期中無休、入場無料)
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
主催:see you gallery
ディレクション:J.K.Wang
協力:株式会社ROOFTOP
SNS:instagram.com/seeyougallery/
お問い合わせ先:contact@seeyougallery.com
メール対応時間 10:00 – 19:00(弊社休日を除く)

by Mana Hiraki

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