2025年2月6日(木)より、写真家・東 京祐さんの写真展「in my room」が、同月に東京・恵比寿にオープンした「see you gallery」にて開催中です。東さんにとって、今年は独立10周年を迎える節目の年。今回の写真展では、広告やファッションの世界で活躍する東さんが、ご自身のルーツともいえる「エロティシズム」の表現に立ち返り、自宅を舞台に撮り下ろしたヌード作品が中心的に披露されます。今回は、写真展への想いとともに、東さんのインスピレーションの源や被写体との向き合い方、10年間で変化した仕事との向き合い方などについて、詳しくお話を伺いました。
ヌード撮影を通して過去の自分を回顧する「in my room」
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―― 今回の写真展「in my room」は、ギャラリー側からの打診を受けて開催に至ったということですが、展示のコンセプトはどのように決まっていったのでしょうか?
お話をいただいたのは2024年末ごろだったのですが、はじめは「今までの作品をまとめて展示してみませんか?」と提案していただいていたんです。「see you gallery」のオープンに合わせた柿落としの展示としてお声がけいただいていたので、それほど準備期間がとれないということもあって。でも、もともと僕も「独立10周年という節目を迎えるタイミングで何かやりたい」と考えていたし、ギャラリーの一発目の展示に選んでいただけたというのは絶好の機会だなと思って、新たに初心に立ち返った作品を撮り下ろして展示しようと決めました。
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―― 撮り下ろされた作品のほとんどはヌード写真でしたが、東さんのルーツとして外せないテーマなのでしょうか。
まだ大学生で、写真とまったく関係のない勉強をしていた頃、当時住んでいた小さなアパートでヌードを撮影していたんです。
その頃の僕は承認欲求がとても強かったし、世間や自分の環境に対する反骨精神のようなものもあって、やや背徳感のあるヌード撮影に没頭していました。それはたぶん被写体となってくれた女の子たちも同じで、お互いに若さゆえのエネルギーというか、「なんとか自己表現をしたい」という強い欲求を抱えていたんだと思います。
今回、4人の女性に被写体となっていただき、久しぶりにヌード撮影をしたのですが、「あの頃には戻れない。もう昔のような写真は撮れない」と実感しました。一方で、青年だった頃の自分自身の姿を少しだけ見ることができたような感覚もあって、昔の自分と今の自分が融合したような、おもしろい作品ができたと思っています。
―― 今回の撮影はご自宅でされたそうですね。東さんのご自宅はとてもおしゃれで素敵ですが、ご自宅の雰囲気やインテリア性はあえて感じられないよう意識されたのでしょうか。
そうですね。今回の撮影はほとんどベッドの上で行いましたし、それ以外に使っているのはバスルームくらいですから、部屋の雰囲気などは感じられないと思います。個展のタイトルは「in my room」ですが、今住んでいるこの部屋というより、大学生の頃に住んでいた、家賃4万円の小さな部屋を意識しています。なるべく、あの頃と同じような感覚で撮りたいなと。
撮り下ろし作品にモノクロフィルムを選んだ理由
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―― 展示される作品には、被写体の方の顔はほとんど写されていませんよね。これには、どういった意図があるのでしょう?
もともと僕は、リアル感のあるヌードは撮ったことがないんです。ヌード作品のなかには、撮影者と被写体とのあいだにある密な空気が感じられるようなものもあって、そういった人間的なヌードも魅力的だと思うんですが、僕はどちらかといえば「部屋の写真のなかに、ヌードがある」というような、無機的なヌードを撮るほうが好きなので、今回もそういったスタイルになっています。
―― 展示作品のほとんどがモノクロであることも印象的です。
僕の写真は「色味に特徴がある」とよく言っていただくんですが、一度そのイメージから離れて新たな挑戦をしてみたいという思いがありましたし、「色味」というフィルターを通さずに「目線」だけで被写体をとらえてみたいと思ったこともあり、モノクロを選びました。もちろん、自分らしい色を出すのも悪いことではないですが、僕は「写真を撮る」という行為こそとても重要だと思っているので、原点に返るという意味でも良い手段だったと思っています。
―― 今回はすべてフィルムで撮影されたそうですが、デジタルでなくフィルムを選ばれたのはなぜですか?
一番大きな理由は、ヌードを撮影したあと、一旦写真を寝かせておきたいからです。裸の女性を前にして、撮影した写真をいちいちその場で確認するのはなんとなくしてはいけない気がするし、簡単に見てはいけないと思うんです。それに、一度目を背けてからあとで確認すると、より良いものに感じられます。
普段から僕には、撮影中に被写体をちゃんと見られていないようなところがあって。もちろんファインダー越しに見つめているし、その方と向き合ってはいるんですが、どこか夢を見ているような、ふわふわした感覚になるんです。だから、撮影が終わってデータを確認したり、フィルムを現像したあとになって、ようやく「素敵な子だったな」とか「美しいな」と思ったりします。僕にしてみれば、撮影しているときのほうが非現実的で、写真を見ているときのほうがずっと現実的というか。なので、ヌードを撮影しているときにも、女性の裸体を前にしているという緊張感はあまりなくて、時間を置いて現像した写真と向き合ったときに、その実態をより感じることができているような気がします。
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被写体にのめり込むことで引き出される“リアリティ”
―― 東さんの写真には、被写体の女性の魅力が内側から引き出されているような、1対1で向き合っているように感じられる「生っぽさ」があるように思います。普段、人物の撮影において大切にされていることはありますか?
よくその質問をいただくんですが……、僕は言語化が得意なタイプではないし、感覚的にやっていることが多いので、うまく説明できないんですよね。大切にしていることはたくさんあるし(笑)
ただ、ひとつ挙げるとすれば、相手がどんな方でも「この人のことを好きになろう」と努めることかな。もし被写体の方が女優さんであれば、その方の出演作品をチェックしてみるし、相手に興味をもって、自分の「好きだ」と思える部分を探してみる。それは何も外見に限ったことではなくて、私服のセンスや、話し方、ちょっとした所作でもいいのですが、その方の魅力的な部分を発見することで、より良い写真が撮れるような気がします。
―― 相手の魅力的なところを探すというのは、プライベートでも心掛けていらっしゃることですか?
いえ、全然。僕はもともと人見知りだし、言い方が悪いかもしれないけれど、そんなに他人に強い関心をもつほうじゃないんです。たぶんこの仕事をしていなかったら、もっと他人とコミュニケーションを取ることが苦手だったと思いますよ。写真を撮るようになったことで、人に興味をもつようになったので、それは人間として素晴らしい変化だと思っています。
―― 東さんが撮影されると、被写体がとても著名な方でも「実際に目の前にあらわれたら、こんなふうに見えるのかもしれない」というリアルさを伴うような気がします。それはやはり、東さんが相手の方について深掘りされているからなのでしょうか。
それは僕が撮影中に被写体の方にのめり込んでいて、被写体の方も僕にのめり込んでくれた結果、2人の間に特殊な人間関係が出来上がっているからかもしれませんね。だからといって、撮影が終わったあとに仲良くなったりするわけでもないんですが、撮影しているそのときには、特別なコミュニケーションを取れているような気がします。
あとは、僕がもともと「写真は記録するための機械だ」と考えていることも関係していると思います。例えば友達と遊んだり、両親と食事をしたりしたときに、記録として何気なく撮る写真がもっともリアルで、僕は一番好きなんです。今回の展示のテーマとはかなり離れていますけど、この先の活動のなかで、そういった写真も積極的に撮っていきたいと思っています。
10年間のうちに感じた人間的な変化
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―― 独立10周年を前にした今、写真家としてもっとも変化したことは何だと思いますか?
僕は新卒でとあるスタジオに就職して、3年経った頃に独立して、今年で10年になるんですが、独立したての頃はほんとうにがむしゃらで、生き急いでいました。とにかく仕事が最優先で、自分の心や身体は二の次。目の前に急な坂があらわれたとしても、「急がないと!」と猛ダッシュで駆け上るような生活でした。でも今は「この坂、しんどい。疲れたなあ」とかボヤきながら坂を上って、その先に美しい景色があればパッと撮影できるような感じ。仕事が最優先ではなくなって、ものごとのひとつひとつにかけがえなさを感じられるようになったと思います。自分の幸福感を大切に思えるようになったんです。
―― 今回の個展も、誰かや何かのためというよりは「自分自身のため」に開催されたという感じがしますね。
そうですね。今回「see you gallery」がギャラリーとして新たに誕生されるというタイミングで、僕自身も「写真家・東 京祐」の誕生を振り返ることができてよかったですし、自分の引き出しのなかを見ることができたように思います。あとは、展示へ足を運んでくれた人にとってもおもしろいものになれていたら、とてもうれしいですね。
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Information
EXHIBITION
東 京祐 写真展「in my room」
会期:2025年2月6日(木)〜2月23日(日)11:00〜20:00
会場:see you gallery
住所:〒150-0012 東京都渋谷区広尾1-15-7 2F
BOOK
In My Room
Pages:56
Size:318 x 272.5 mm
Binding:Hardcover
First edition of 500 copies
※The first 50 copies with a In My Room tote bag
ページ数:56
サイズ:318 x 272.5 mm
製本:上製本
初版500部
※先着50部にはIn My Roomトートバッグ付き
展示期間中は会場限定での販売となります。
Photograph KYOSUKE AZUMA
Art Direction & Design AYAKO HAIDA
Printing YAMADA PHOTO PRESS CO.LTD