「撮れ高よりも、楽しむことが大切」詩歩 × 黒田明臣 対談 | 写真と生きる

Apr. 08. 2019

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絶景というワードがまだ世の中に幅広く使われていなかった2012年からFacebookで「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」のページを立ち上げ、翌年には同タイトルの著書を出版。その後も毎年新刊を出しているだけでなく、アドバイザーやツアー企画など、「絶景」にかかわる仕事をマルチにこなす絶景プロデューサーの詩歩さんと、ヒーコ黒田明臣氏の対談をお送りします。

「撮れ高よりも、楽しむことが大切」詩歩 × 黒田明臣 対談

Facebookで人生が変わった

黒田

詩歩さんって、絶景の第一人者みたいな感じになっていますよね。でもFacebookで「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」のページを始めた頃「絶景」という単語はまだ、そんなのあったっけ、ぐらいのイメージだったと思うんです。

詩歩

そうですね、辞典には載っていた言葉だけどそんなに取り沙汰されることはなかったです。

本を出すきっかけにもなった「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」というページは、実はもともと会社の研修の一環でやっていたんです。広告メディアとして売れるように自分でページを作ってみようという、新人への課題でした。

会社で作ったページがバズったので仕事を辞めたんですけど、広告の仕事をしたくて広告代理店に入ったのに、一瞬で辞めたので、自分でもびっくりしましたね。Facebookで人生が変わっちゃった感じですね。

黒田

本当に人生が変わったレベルですよね。広告代理店のお仕事と、Facebookページの運用を並行してやっていたわけですか?

詩歩

就業時間中は忙しかったので、終電ぐらいまで普通に仕事をして、Facebookページのほうは稼いでいるわけではないので土日だったりとか、家に帰ってから自分の時間で少しやったりという程度でした。

黒田

すごい。 始めたのが、2012年の4月というと、もう7年前ですね。すでに広告の機能もあった頃だ。Facebookをまっさきに始めて成功したというわけではないと。おそらくコンテンツがはまったんでしょうね。

詩歩

他にも絶景をあげているページはいくつもあったのですが、私が見た感じ、そういったページは押し付けがましいものが多かったんです。

当時よく見かけたのが、「面白かったら『いいね』を押してね」という定型句のようなものだったんですけど、「こっちはこっちのタイミングで『いいね』したいし」というように、共感できないものが多いなと感じていました。そういったページを見て、分析をして、自分なりにリアクションしたいと思えるようにカスタマイズしていきました。

黒田

純粋に自分が欲しいもの、自分が求めているものにフォーカスをしていったと。

詩歩

はい。自分が発信者でもあり、受信者でもある感覚です。ペルソナは完全に自分でした。自分が見たときに「いいね」するか、しないかというのを一番の基準にしてやっていましたね。

Facebookには毎日朝7時半に予約投稿をしていたんですけど、ストーリーとしては満員電車で暗い顔をして通勤している日本人のサラリーマン、OLの人たちがスマホで見ている時に少しでも「今日も頑張ろう」とか「ここの景色にいつか行きたいな」と思ってもらえるような、ちょっとしたモチベーションになれたらいいなと思って、その時間帯に嬉しいような景色とか文章にしていました。そこまで作り込んでいるページは、当時他になかったんだと思います。

黒田

それは愛でしょう。僕には絶対にそんな発想はできないな、通勤の時間とか。ペルソナは自分というところが、実際にすごくマッチしていたのでしょうね。

詩歩

今思うと、仕事じゃなかったからそこまでできたんだろうと(笑)

黒田

そこから独立してそれを仕事にされてきたわけですね。それである程度マネタイズできるようになって、自分の仕事にするとしても、日々、何をしていけばいいかわからない人が多いのかなと思います。そこに不安はなかったんでしょうか?

詩歩

独立して仕事がなくなったらどうしようかなという不安はありましたよ。本当は退職ではなくて、転職しようと思っていたんです。まだ2年しか働いていないし、全然違う仕事をしていたので「私はこれができます」というものがなかったから。

ちょうどそのころ、知り合いの紹介でクリエイター系の転職を支援している人に話を聞きに行ったんです。その時に言われたのが「2足のわらじで仕事をしていてもどちらも50:50の力でやることになるから、きっとどちらも成功しないよ。1回、独立してみて100%でやって、100%かけて駄目だったら半分半分にしたらいいじゃない?」というものでした。初対面の人だったのに「確かにな」と納得してしまったんです。

日本って本当に恵まれている国じゃないですか。アルバイトでも時給1000円稼げる。「独立して駄目だったらバイトすればいいや」と思って勢いで辞めて、いつのまにか5年経った感じですね。

もともとは写真を撮らない人間だった

黒田

その頃にはもう、写真は始めていたんですか?

詩歩


いや、それが一眼カメラもなくて。

黒田

そうなんだ!?

詩歩

ウユニ塩湖にも行っていたんですけど、そのときの写真が本当にないんですよ。私は何をしていたんだろうって(笑)

キュレーション側だったので、写真に関しての知識がありませんでした。一眼カメラを初めて買ったのも、2014年のこと。絶景の仕事をはじめてからですね。普通に旅行をしていた時はコンデジしか持っていなくって、そもそも写真を撮るのもそんなに好きではなかった。

黒田

ウユニ塩湖なんかは、僕の感覚だと撮れなきゃ行く意味がない感じですよ。

詩歩

そうなんですよ。みんな撮りに行くじゃないですか。でも私は目で見て感じたいタイプなんです。歴史好きなので「古代遺跡を見たいな」というモチベーションで行って、写真は撮らずに目で見て、五感で感じて、1時間そこでボケーっと(笑)

黒田

マジ!?

詩歩

でも、写真もそろそろやったほうがいいんじゃないかなって(笑)せっかくいろいろなところに行くなら、写真で残せたほうが、旅の良さも伝えやすいじゃないですか。

黒田

伝えるというところで言えばビジュアルコミュニケーション的に写真や動画が一番わかりやすいですね。

詩歩

イタリアにランペドゥーザ島という島があって、船が浮いて見える島なんですけどね。そこに仕事で行くことになって、その時にはじめて一眼を買いました。ニコンのD3300です。本当に一眼カメラがなんなのかもよくわかっていなかったので、とりあえず、その黒いボディの大きいやつを買えばいいのかなと思ったんですよ(笑)

黒田

とりあえず、大きければいいだろう、と。

詩歩

そうそう。2017年ぐらいまではずっとそのニコンのD3300を使っていたんですが「そろそろそれだとやばいんじゃない?」といろいろな人に言われ始めました(笑)

フルサイズがいいらしいと聞いて、買ってみようと思ったんですが、何を買っていいかわからない。業者さんやまわりの人に「これこれこういう条件なんですけど、どういうのがいいと思います?」と聞いて、今使っているソニーのα7Ⅱを一昨年の夏ぐらいに買いました。

今は、仕事のメインはそっちを使っていますが、コンパクトで軽いので、旅行にはすごくいいと思います。

黒田

それはいい選択だったと思います。ミラーレスで、小さくて、フルサイズで。確かに僕もそれを勧める気がします。

絶景プロデューサーの仕事とは

黒田

詩歩さんは、ご自分のことを「プロデューサー」とおっしゃられていますよね。インフルエンサーにも近いのかなと思います。というのも、行って、書いて、伝えるというコンテンツ制作能力が抜群。ライターとしての能力がすごいです。あれをもし、自分でやっているならばですけど(笑)

詩歩

ほんとうですか!うれしいな。影ライターはいなくて、自分でやっていますよ。依頼はインフルエンサーとしていただくことが多いです。自分ではあまり意識してないのですが。

黒田

だとすれば、やはりそこがすごいことだと思います。フォトグラファーも、ある程度有名になって注目されるようになると、インフルエンサーとして自分自身がメディアになる部分が出てきます。インフルエンサー的な活躍もできるひとは、クリエイティブな能力が高いですよね。

詩歩さんは「あれ?こんなこともやっているの?」というものまで、いろんなお仕事をしていて、クリエイティブが高いなというのをすごく思います。たしか、どこかとコラボして商品開発なんかもしてましたよね。

詩歩

いろいろやっていますね。ツアーの企画とかも。 文章だけ書いているわけでも、写真を撮って納品しているわけでもない。インフルエンサーとして依頼をもらっていても、投稿して終わり、というわけでもありません。「なんの仕事をしているの?」と聞かれて一言で言えないという悩みがあって「絶景の仕事です」と言うんですけど(笑)

黒田

それはとてもよくわかります。僕も肩書き問題はあって、いくつあるのか自分でも本当によくわからない。「2足のわらじ」どころか「4足のわらじ」ぐらいの感じなんです。

詩歩

肩書きは常に悩んでいますが、自分の強みは理解しているつもりです。私の一番の強みは「このターゲットにはこういう絶景が刺さる」とか「この景色はこうやって切り取ったらきっとうまくいく」というふうに、いろいろ旅行をしている中で得た経験や知識から、発信の仕方や風景の切り取り方のベストがわかるところ。それに、普通の人が知らないような旅先をリサーチして周ったりできる。

黒田

自分のプロフェッショナルな部分を生かして、外部にアドバイスできる。企画屋さんというか、そういうスキルセットがある人は、なかなかいないと思うんですよね。

例えば写真がうまい人も、写真を撮るのはうまいんですけど、それ以外で企画をしたりとか、仕組みをつくったりとか、商品をつくったりとかっていうように、そのスキルを更に応用することになると、一気にできない人が多くなります。特に写真だけをずっとやってきた人なんかはそう。

詩歩

黒田さんは、もともとはエンジニアなんでしたっけ?

黒田

そうです。あっちの世界で言うところの上流工程というか、仕組みづくり、サービスづくりのところからやることが多かったので、この世界に入っても企画からはじめることに抵抗はなかったんですよね。それがマルチにできている理由かもしれない。詩歩さんはなんでもありな感じでやっていますね。

詩歩

私、実はものすごく飽き性なんです。1つのことを追求できないタイプだから、いろいろなものに手を出して少しずつやる方が楽しい。

興味があったら始めてみる!

詩歩

最近はTikTokを始めてみました。これがすごく楽しくて!

黒田

えっ、やっているんですか!?僕はインストールすらしてなくて。面白いですか?

詩歩

とにかく新鮮!フォロワーがゼロの状態からSNSを始めるのがまず5年ぶりぐらいなんです。

黒田

TikTokをやっているのは全然知らなかったです。始めたきっかけはありますか?

詩歩

旅行を広める立場なので、若い人が海外に興味がない現状をなんとかしないといけないと思って。さいきんの若い人って、ぜんぜん旅行をしないんです。 そう考えたときに、彼らのことを知りたいな、と思ったのがTikTokをはじめた最初のモチベーションです。

それから、言葉は悪いんですけど、TikTokって見るユーザーのリテラシーがすごく低いんですよ。たとえば、私が写っている写真を投稿すると「景色はいいけど女はいらないな」と普通にコメントされます。こういう人がいるんだと思って(笑)

私が今までに使っていた他のSNSでは、そういうことはなかったです。年齢層が10代の子たちで低いからだと思うんですけど、新鮮なんです。

詩歩

素直にそういう驚きができるのがいいですね。

黒田

最近はドローンを使って動画の撮影などもしています。インフルエンサー的な立ち位置もあるので、新しいものには触れておきたいなと。

詩歩

好奇心旺盛なんですね!

写真は「旅の楽しみ」を伝えるひとつの手段

黒田

インスタもやっぱり写真を載せたり動画を載せるところですし、TikTokは動画や映像というところですけど、詩歩さん的にビジュアルコミュニケーションというか、映像、写真で見せるというところに関しては工夫とかもしているんですか?

詩歩

そうですね。最近だと絶景は遠い存在に思われがちなんですよね。

たとえば「ウクライナに行きたい。でも行けないよね。」というコメントがつくんですけど、実際はウクライナって結構簡単に行けるんです。私は1週間前にチケットを取って行きました。ビザはいらないけど、英語が通じないので少しサバイバル力が必要かな(笑)

チェルノブイリとか負の遺産のイメージが強いかもしれませんが、普通にご飯もおいしくていい国なので、そういうことを伝えるために最近は写真の中に自分が少し写るようにしているんです。そうすることで身近に感じてもらって「こんな小娘でも行けるんだ。私もいけるだろう。」と思ってもらえたらいいなって。

昔はあまり自分が写っている写真を入れてなかったんですけど、最近はあえて入れるようにしました。人がいることで規模感がわかりやすいということもあるんですけどね。

黒田

すごくわかりやすいし、身近に感じられることが一番いいかもしれないですね。

詩歩

写真に関していうと、最近改めて思ったことがありました。カメラマンさんとかフォトグラファーさんは「僕にしか撮れない1枚」を探し求めるじゃないですか。私はどちらかというと「誰にでも撮れる1枚」でいいなと思っています。

黒田

とても面白いですね。

詩歩

私の場合、私の写真を見て現地に行った人が、同じ景色が見られないと意味がないのかなと思っています。 非公開の場所で撮ったものは絶対に載せませんし、観光協会などで人が送り込まれることがあっても問題ないような場所の写真しか、今は投稿しないようにしています。

あとは秘境すぎる場所も同じ。アマゾンの奥地とかも誰も行けないのでやりません。基本的にはツアー化されているJTBのやつでも頑張ればいけるかな、お年寄りでも行けるかな、という場所を選ぶようにしているんですね。

黒田

とてもいいですね。それがまさに写真の面白いところで。写真というものが大衆性を持っているなかで、写真をアートにしていこうとする人もいるわけじゃないですか。ただの記録でしかないと思っている人もいるし、同じ方法、手法なのにこれだけ考え方が違う。スポーツとかもプロでやるのと、フットサルのように誰でも遊べたりするのと全然違いますけど、写真はそういう上下だけではなくて右左とかいろいろ関係していきますよね。そこの幅の広さがあるのがいいんだと思っています。

詩歩

そうですね。本当にアートにするつもりはないので「同じ景色を是非、みなさんも見てくださいね」という、どちらかというと旅の楽しみを伝える手段の一つがたまたま写真であって、ドローンでもいいし、動画でもいいと思っているので。

いい機材はそんなに使わない方がいいのかなと思っていて、それこそ「スマホでもこれだけ撮れますよ」ということでもいいのかなと思っています。

黒田

なるほどね。今は誰でもそれを撮れる状況にもなってきているし。本当に極端な話はiPhoneで全部撮りますということになりますよね。それをポリシーにしていてもおかしくない。

「撮れ高」よりも「楽しむこと」を優先する

黒田

それはとても面白い。僕とは写真に対して思っているイメージが全くイメージが違う。たとえば、僕ならカメラがなかったらウユニ塩湖には絶対行かないですよね。

旅に出る場所を選ぶ時は「仕事でここに行かなきゃ」というケースも多そうな気もするんですけどいかがですか?

詩歩

そうですね。月に一度は海外に行っているんですけど、仕事で行くことは3回あったら1回ぐらいしかなくて、それ以外は自腹で行くんです。プライペートの旅行のときも、将来、仕事につながるだろうなっていうところだったりとか、あとはこのエリアはこれから話題になりそうだから先取りしておこうかな、という基準で選んでいます。自分が行きたい場所ベースで選ぶというよりかは、仕事で活かせそうな場所に投資として行く感じですね。

黒田

それは本に載せたりするってことですか?

詩歩

本でもあるし、取材を受けたりとか、自分で記事を書いたりする時にそういう素材があった方が書きやすいので。

黒田

そこでもやっぱり写真とか、映像とかを撮るんですよね。1回の旅で何枚ぐらい撮りますか?

詩歩

「ここはこのショットだ」というのを決めていくので意外と撮らないです。もちろん、いい場所は他に探しますけど、だいたい事前に構図を考えてから行きます。何枚撮るとかはあまり考えたことがないです。1,000枚とかは撮らないですね(笑)

黒田

へえ。撮らないですか? 僕は1週間いたら、余裕で1万枚は撮るかな。1日に2、3,000枚ぐらいですかね。歩いていて、見るもの全てが面白くって。

詩歩

私は全然撮らなくて、一眼は基本的に鞄の中なんです(笑)

黒田

そういうことか。僕はぶら下げて、スイッチもオンにした状態ですね。ピャッ、ピャッ、ピャッとシャッターが押せるように(笑)

詩歩

私は道中の写真は全部スマホで撮っちゃう。でも決めショットだけ一眼を使いますね。重いなと思いながら(笑)

黒田

それはいいな。その気持ちに戻るべきな気がしているな、病気だもん、もう(笑)
仕事というか、いい画を1枚でも多く人生に残しておかなければならないというか。

詩歩

責任感でしょうか?

黒田

責任感……日々チャンス、練習というか、おどろきたいんですよね。何気ないところでもパッと撮ってみると、撮る前のイメージとは全然見え方が違うなという「ズレ」があるんです。これはイケると思ったらイケていて欲しいじゃないですか。でも全然駄目なことがまだあって、ポジティブでもネガティブでも、それがあるうちは楽しめるので、結構好きなんですよね。

でも撮っているときには強迫観念みたいな感覚もあって、純粋にその場、その瞬間を楽しめていないというか。

詩歩

それ、私も最初の方はそうでした。2014年の3月に会社を辞めてしばらくは、一眼カメラで撮っても「撮れ高」しか意識していない旅行を1年ぐらいやっていたんですけど、ふと、旅の楽しみを伝えるのが目的なんだということに気がついたんです。

それなのに私自身が旅を楽しんでいないなと思ったんです。そこからは「撮ること」ではなく「楽しむこと」が一番の優先事項になりました。伝えることの優先順位は二番目。旅の途中にも疲れたら休む。詰め込みすぎない。目的をちゃんと決めるようになりました。そこから一眼カメラはもう鞄に入れて、iPhoneでいいんだと思うようになったんです。

黒田

その気づきが早いですね(笑)

詩歩

旅に行くたびに疲れている自分に気がついて、それって本末転倒だなと思ったんですよ。写真は1日1枚、決めショットがあればいいという気持ちでやるようになりました。

日本人の知らない日本を発掘する

詩歩

日本が大好きなんですが、日本ってもったいないじゃないですか。

長野県でながくお仕事をしているんですが、長野って自然の風景がすごくたくさんあるんです。
自治体の人が見逃しているような場所を私が見に行って「ここをこうしたらもっといいよ」ということもアドバイスしたりしながら、良かったら発信して、という感じ。もっと絶景として発信できる場所がいくつもあります。

長野もそうですし、日本はいいものがいっぱいあるのに、ホームページがダサかったり、インスタもやっていないところが多い。チャンスを逃してますよね。知らないからやってないだけ、そういう自治体さんに外部の視点を入れてあげられるような立場になれたらいいのかなと思っています。日本の良さをもっと日本人にも知って欲しいですし、海外の人にも知って欲しいかな。

黒田

なるほど。アウトバウンドというよりはインバウンドの促進ということですかね。

詩歩

そうですね。もしくはそもそもスポットの発掘とか。海外の人にも知って欲しいと思ってます。

黒田

日本のもったいなさというのは本当にありますよね。

詩歩

50カ国ぐらいまわってみて、こんなにいい国はないと思います。でも、海外での日本の認知度ってまだまだ低いんです。一度でも来た人はファンになってくれるけど、来たことのない人は「東京って何があるの?」というくらい。

黒田

一時期、広めの家に住んでいたのでカウチサーフィン(宿を探している旅行者とホストをつなぐサービス)でバックパッカーを泊めていたんですよ、1年か2年ぐらい。

バックパッカーなのでそれこそ何カ国も周っている人たちとかと話していて一番衝撃的だったのが、東京が今まで行ったどの都市よりも一番美しいと言っていたことですね。

何を言っているんだと思いました。たしかイタリアとノルウェーから来ていた2人組だったかな。美の基準もいろいろありますけど、これを美しいという価値観があるのかという、ぎょっとした瞬間があった。とても面白い経験でした。

詩歩

日本がすごい国だと一番わかっていないのは、日本人だと思います。地元の人が一番わかってない。私は関東に住んで10年目になるんですけど、よく考えると「私、東京のこと知らないな」と思って、最近、東京を撮って周っているんですよね。

東京タワーを階段から見る外国人にだけ大人気のスポットがあるんですけど、日本人には全然知られていない。東京の人はわざわざ東京タワーを見に行こうとしないし、私もそうでした。でも、ここに初めて行ってみて、ワッて思ったんです。眠るところには眠っているし、切り取り方次第だと思いました。

黒田

本当にそう。切り取り方ですね。スクランブル交差点とかも、地元民の僕からすれば「汚くて申し訳ないな」という感じなんですけど、世界で一番有名なのがあそこの景色なんですよね。それを美しいと思う価値観は大切にしないといけないなと思いました。

カウチサーフィンでの経験からすごく日本が好きになって、極めつけはLAとか、海外に行った時に食いものが不味すぎるというか(笑)

詩歩

本当にそうですよね。牛丼が300円で食べられるのって奇跡だなと思います(笑)

ネット時代の波に乗り続けて

黒田

なるほど。今、お話を聞いていても結論が全部一貫して、旅をいかに楽しむかというところに集約されていますよね。それはすごくいいですね。

「絶景」は、いろいろなところに行けるキーワードだと思うんです。それを通して旅行を楽しむことも、旅行をする人を増やしていくこともできる。絶景プロデューサーとして、これから新しくチャレンジしたいことはありますか?

詩歩

全然ないんですよね(笑) どうしたらいいんだろうと思っているんですけど。

流れに乗ってきたら今に至っている感じなんです。もともと独立志向があったかというと全くないし、本を出したかったかと言われると別にそんなことは考えてはいなかったです。ネットの時代って流動しますから、その波に乗り続けていくのかなとは思います。でも、絶景をずっと続けるか、と言われるとおそらく違う。

黒田

それも面白い(笑)

詩歩

「絶景」という言葉がもともとなかったからこそ、私のような役割の人が必要だったと思うんです。でも今は、SNSが発達して誰でも絶景を見つけて発掘できる時代になっている。情報も溢れているし、本もいっぱい出ています。だから、「絶景プロデューサー」は別にいなくてもいいんじゃないかなとも思っていて、執着も全くしてないんですね。

黒田

詩歩さんの話を聞いていると、サーファーのようだなと感じます。風に乗り、波に乗り。流れに身をまかせるだけではなくて、自分がそこに乗るというのが見えてしまえば、それに対して分析も計画的に、効率的にやる。行き当たりばったりではない緻密さもあって面白いですよね。

詩歩

やるにはうまくいきたいと思っているので(笑)

黒田

大胆なジャッジをしていくのにやることはすごく精密。成功に向かってやっていくところが相反しているので面白いなと思います。

今日はほんとうにありがとうございました。いわゆるフォトグラファーとは違った視点、立場で写真を撮られているんだな、というのがお話をお聞きしていてすごく面白かったですね。スマホで撮るにしても、一眼で撮るにしても、ドローンで動画を撮るにしても、根本に「旅のよさ、楽しさを伝えたい」という目的が一貫してある。

詩歩さんは、ライターとしても力があって、ツアー企画をしたり、地方自治体にアドバイスができたり、クリエイティビティがすごくある。日本国内のアウトバウンドに貢献したい、というようなお話がありましたが、「絶景」という一分野のプロであり、かつインフルエンサーとして活躍している人がそこにコミットできることは大きいと思うんですよね。これからの活躍もたのしみにしています。

詩歩

ありがとうございます。

プロフィール

詩歩

「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」管理人
1990年生まれ。静岡県出身。世界中の絶景を紹介するFacebookページ「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」を運営し、70万以上のいいね!を獲得し話題に。 書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」シリーズを出版し累計60万部を突破。アジア等海外でも出版される。昨今の”絶景”ブームを牽引し、2014年は流行語大賞にノミネートされた。 現在はフリーランスで活動し、旅行商品のプロデュースや企業とのタイアップ、自治体等の地域振興のアドバイザーなどを行っている。静岡県観光特使・浜松市観光大使も務める。

Facebookページ「死ぬまでに行きたい!世界の絶景

書籍
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編」
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 ホテル編」
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 体験編」
「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 新日本編」
「絶景を旅するシンプル英会話50」

クレジット

制作 出張写真撮影・デザイン制作 ヒーコ http://xico.co.jp
カバー写真 黒田明臣
出演 詩歩
Biz Life Style Magazine https://www.biz-s.jp/tokyo-kanagawa/topics/topics_cat/artsculture/

by Akiomi Kuroda

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