フォトグラファー生存戦略「10代から写真で生きる」石田真澄 x 黒田明臣

Nov. 07. 2024

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第2回目のゲストは石田真澄氏。何気ない、しかし何よりも尊い高校生活を瑞々しく捉えた作品『light years -光年-』をきっかけに、数々の広告や雑誌、写真集の撮影を手がけている。

Masumi Ishida

Photographer

2017年初個展「GINGER ALE」を開催。 2018年初写真集『light years – 光年 -』 を刊行。その後、様々な雑誌や写真集、 ドラマ・映画のスチール撮影、広告など 幅広い撮影を手がける。

Akiomi Kuroda

Photographer

株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。

黒田

お会いするのは初めてですが、実は高校生時代から共通の友人であるモデルを通して存じ上げていた石田真澄さん。若くして成功されている点はもちろん、溌剌とした視点や写真から垣間見える芯の強さは何が源泉なのか、対話を通して掘り下げていきたいと思います。

仕事で写真を撮り始めたのはいつ頃からでしたか?

石田

大学1年生の冬に初めての写真集を出して、それを見てカロリーメイトのお仕事をいただいたのがほぼ最初なので、本格的に活動を開始したのは大学2年生ですね。

黒田

石田さんは単純に写真がうまいことはもちろん、自分の “ 好き ” が明確で、「石田真澄の写真だ」ということが誰にでもすぐに伝わる印象です。若い方々ができるだけカジュアルに、ライトに発表していくなか、フィルムはもちろん、比較的早い段階で個展を開催されるなど、あえてアナログな手法を取られている点が好きなんです。そもそもの写真を撮り始めたきっかけはなんだったんですか?

石田

中1の時にガラケーを持って、毎日写真が撮れるようになったことで写真が好きと思うようになり、翌年に自分でパナソニックの LUMIX のデジカメを買いました。

フィルムを使い出したのは高校生になって海外研修に行く機会があり、LUMIX とは別に写ルンですを1つだけ持ったことがきっかけです。それまでフィルムは「何が写っているかわからない楽しさがある」と思っていたけど、デジタルよりも自分が撮りたいと思った瞬間を鮮明に思い出せて、さらに現像時に見返すことで記憶がもっと濃くなる気がして。それが楽しくて、フィルムで撮りたいと思うようになりました。今は「この光はフィルムで撮るとこうなるな」と想像しながら撮るのが心地良くて続けていますね。

黒田

石田さんといえばフィルムだと思われがちな側面もありそうですけど、僕はどちらかというと光の見え方や視点、「ここでシャッターを押す」という意思が垣間見える部分に魅力を感じています。あと、距離感が良いですよね。等身大でありながらちゃんとコミュニケーションをとって、目の前にいる人として写真を撮っているイメージ。何か意識していることはありますか?

TITLE 夏帆写真集『おとととい』(SDP, 2022)

約3年かけて作った作品集です。写真を撮り終わった後の編集作業から展示構成も夏帆さんと対話しながら作っていました。装丁は佐々木暁さん。

石田

被写体との距離感は一番気にしているところですね。写真って、どうしても撮る・撮られるという関係がありますよね。写真を撮るって暴力的で、相手を少なからず不安にさせる行為だと思うんです。デジタルだったら途中で仕上がりを見せたり安心させられるけど、フィルムだとそれができない。さらに被写体の方よりも私が年下の場合が多いので、余計に相手を不安にさせないように意識しています。

よく撮るのが速いと言われるのですが、それも無意味な間ができないようにしているんです。もともと結構 “ 気にしい ”な性格なのですが(笑)、無駄に気にしすぎちゃうくらいのほうが、私の写真においては良いのかもしれません。

黒田

ああ、それこそが石田さんの魅力ですね。自然体っぽさを演出するための無配慮な写真ではなと。僕は石田さんの成功や活動を、年齢とか環境とか運であまり語りたくなくて、まさにそういう “ 気にしい ” な性格から生まれる繊細さなのではないかと今あらためて発見しました。

先ほど写真が暴力的な行為だと言っていましたが、僕も写真家は自分のエゴに自覚的でなければならないと思っていて、その中でどう距離感をつくるかですよね。一方で両立させたいのは、“ 自分が撮りたい写真で発注してもらえる自分でいること ” ですが、石田さんはそういう意味でも成功されている印象です。最初から好きなことや写真でやりたいことは変わりましたか?

石田

撮り始めたばかりの頃と今では写真の質感が違うけど、自分が何を好きかという点がより明確になってきました。アートディレクターの方や展示に来てくださった方にいただいた言葉で、改めて自分がよく見ているものや好きなもの、「これを撮っている時の写真って自信があるんだな」ということがわかってきたというか。“ ブレる ” と “ 変わる ” は違うので、軸がブレていなければ変化は良いことだし、常に変化はしていきたいなとは思いますね。

黒田

技術やアウトプットなどチャレンジした部分が変わったと思ってもらえるのは良いけれど、ブレてはいけない芯の部分は変わらないでいたいですよね。僕は写真における自分の芯がなにか気づくのに数年かかりましたが、石田さんは早い段階で芯の部分に気づかれていますよね。展示や作品集を発表するのは、ご自身の芯の部分を貫き通したい思いによるものなのでしょうか?

石田

高校生の時はフォトグラファーになんてなれないと思っていたから、フォトグラファーと仕事をする編集者や広告代理店のプランナーを志望していました。写真が好きで、誰かと1つのものを作りたいという気持ちは昔からあったので、雑誌や広告を作りつつ、いつか自分の写真で作品集を作れたらいいなと。

黒田

作品の発表の仕方や SNS の使い方を見ていると、何かを差別することなく、でも自分の好きなものは明確な姿勢を強く感じていたので、仕事の選び方にもなにか芯があってその心を追っているんだろうなという印象でした。ちなみに、写真のセレクトは迷わない方ですか?

石田

明確に好きなものはあるけど、自分の作品集に関してはアートディレクターと編集に任せています。自分の写真はどうしても俯瞰して見られないですから。特に『light years – 光年 -』の場合、セレクトの仕方によってはただの女子高生のスナップ写真にもなり得てしまうので、絶対に本業の方に任せるべきだと思っていましたし。だから人に任せることに対して躊躇はないですね。

黒田

その柔軟性や寛容さやプロフェッショナルをリスペクトする姿勢も魅力の1つなんでしょうね。

もう1つ聞きたいのは、撮影の際に、「これは写さないようにしている」というものはありますか? たとえば僕だと、僕との関係性が出ているようなものは撮っても発表したくないんですよね。どちらかというと盗撮っぽいほうが好きで(笑)。石田さんの写真は、被写体の意識が完全にこっちに向いているわけではないけれど、“ 確かにここにいるな ” というのがわかる感じがする。そして、そこが好きなんですよね。

石田

不意打ちとか泣き顔とか、相手が撮られたくなさそうな時は絶対に撮らないですね。寝起きですぐ撮った顔がかわいい、みたいな感覚はあまり自分にはありません。スッピンだから本当のその人が写っているかと言うと、別に違うと思いますし。もちろん全然気にしない人もいるし、むしろ感情が動いている時に撮ってほしい人もいるけど、私が怖くなっちゃうんですよね。

黒田

それは写真からめちゃくちゃ伝わってきます。ただし、形だけで石田さんの写真を真似する人は、スッピンや寝起きみたいな方向に走ってしまいそうなところはありますが(笑)。すごく自然体で良い瞬間を撮られているから。

石田

上澄みだけ見るとそういう写真に見えるから、そういう依頼も来ますね。“ カレ・カノ目線 ” で、みたいな。もうひとつ深く見てほしいなと思ってしまう。

黒田

やはり最初の話に全てが詰まっているなという気がしています。石田さんの写真に憧れる人は多くて、実際に真似をしている人も多いと思うけど、その裏には他者への圧倒的な想像力と洞察力、その良し悪しを判断する明確な自分がいないと到達できない。

それはそうと、石田さんは自分の撮りたい写真と仕事がシンクロしている感じがしていますが、これはちょっと…という仕事が来ることもあるのですね。

石田

そんな時もありますね。それこそ私の上澄みだけを見ていたり、年齢やフィルムを使っているという珍しさだけで見ていたりとか。お声がけしていただくことは本当にありがたいですが、そう感じる仕事はお断りしてしまっています。

TITLE 『light years -光年-』(TISSUE PAPAERS, 2018)
GENRE PERSONAL WORK

高校時代に撮り溜めていた写真を1冊にしました。初めて仮のレイアウトを見た時に、写真のプリントサイズや並びでこんなに見え方が変わるのかと感動したのを覚えています。装丁は米山菜津子さん。

TITLE 『everything will flow』(TISSUE PAPERS, 2019)
GENRE PERSONAL WORK

アイスランドに旅行した時の様々な色の光が写っている写真たちです。装丁は金田遼平さん。

TITLE 「部活メイト」
GENRE グラフィック
CLIENT 大塚製薬 カロリーメイト

インターハイ30競技を撮影。実際にその競技の部活に所属している学生とコミュニケーションを取りながら撮影する時間がとっても楽しかったです。

企画制作=博報堂+AOI Pro.+アドソルト
CD+C=小島翔太 C=荻原海里・杉山芽衣・小渕朗人 AD=野田紗代
D=別府兼介 P=石田真澄 Pr=久松真菜・鈴木貴秀
PM=途中慎吾・重信弓月・川口航平・小堀駿広
コーディネーター=神長朋史 Cas=スポーツマジック
ST=大隅麻奈美 Ret=西野健司・津金卓也

黒田

きちんとお断りされるのですね。なかなかできないことなので、素晴らしい勇気だと思います。石田さんの写真って、撮り手がどういう人なのかを無言で語っていると思うんです。意思ももちろんそうだし、スタイルとしてもブレない何かがある。この根幹にあるのは、「理想を追い求めた末のあらわれ」なのか、「自分自身の趣味嗜好といったような根本的なもの」なのかでいうと、どちらですか?

石田

後者ですね。今後こうなりたいとか目指したいものは明確にはないのですが、自分が今どの立場にいて、「この仕事はやるべきかどうか?」はその都度自問自答しています。第三者から見てどう思うかも気にしていますね。

黒田

常に自分のポジションややりたいことを照らし合わせながらキャリアを積み重ねているからこそ、ブレがないのですね。そこも強さに繋がっているのだと思います。石田さんの写真や活動を見ていて思うことは、年齢を感じないということです。石田さんって年齢は確かに若いけど全然ブレがなくて、ある種、老人みたいというか(笑)。“ 若い ” という一言には、本来はその裏に色々な失敗や、ブレへの許容や色々なことに振り回されてしまう青さみたいなものも含まれていると思うんですよね。そこが全くないというか。

石田

「そんなに若いの !?」とはよく言われますね(笑)。 今年24(※2023年当時)になって、ようやくそのフィルターが外れてきた感覚があって、ずいぶん仕事がやりやすくなりました。若さゆえに色々なことを吸収しやすいから、途中であれもいいかもこれもいいかもとテイストが変わる人もたくさんいますが、私は “ 好き ” が明確なので、そういう意味ではブレはないですね。

黒田

やっぱり年齢不相応なほどにご自身をよくわかっていらっしゃる感じですね(笑)。ありがとうございます。

フォトグラファー生存戦略とは

企業のマーケティング活動をコンテンツで支援するXICO(ヒーコ)。エンジニアからフォトグラファーにキャリアシフトし、企業コンサルティングなども手掛けマルチに活動するヒーコ代表 黒田明臣氏が、広告写真業界を軸に独自の観点で様々なプレイヤーと対談。この時代をフォトグラファーが生き抜くためのヒントを、対話の中から導き出す。

ヒーコとは

企業のコミュニケーションをデザインし、クリエイティブで実装していく、コ・クリエイティブカンパニー。多角化する企業のマーケティングやブランディング活動を、プロデュースとディレクションを武器に支援。市場や媒体を横断しながら企業の付加価値を高めるための成果をお届けすることがヒーコの役割です。

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※本記事は『コマーシャル・フォト』2023年2月号の転載となります。

by Masumi Ishida

フォトグラファー生存戦略「10代から写真で生きる」石田真澄 x 黒田明臣

Nov 07. 2024

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