第1回目のゲストは濱田英明氏。35歳でWebデザイナーからフォトグラファーに転身。今では広告・映像で引っ張りだこの濱田氏。そのキャリアはFlickrからスタートしている。
1977年、兵庫県淡路島生まれ。2012年、35歳でデザイナーからフォトグラファーに転身。主に広告、雑誌、映画、ドラマのスチール、CM、MV、ドラマなどのムービーも撮影している。
株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。
デザイナーとして働いていた会社を辞めてフリーランスフォトグラファーとして独立したのが2012年9月で、今年でちょうど10年になります。この10年はひたすらがむしゃらで、いきなり想像を絶する世界に連れて行かれたような感じで、経験も下積みもゼロだったので、最初の数年は何がなんだかわからない、という感覚もありました。
濱田さんはルーツを海外のデジタルプラットフォームに持たれていると思いますが、こと仕事においてはご自身のインフルエンスとは関係なく、仕事が仕事を呼んでいる印象があります。そのあたりのバランスは意識されていますか?
基本的には撮る仕事がしたいんですよね。例えば、撮影というよりもSNSでのPRまでを任せられるような仕事は慎重に選ぶようにしています。
なるほど。初めて対談させていただいた2017年。自分はちょうどフォトグラファーとしてお仕事をいただきはじめた頃だったのですが、その際にも同様の考えをお話されていました。ブレないですね。個人的にもその一貫した姿勢に影響を受けていました。濱田さんは、ご自身の思想が明確で、間違っていることは間違っているとビシッと言われるイメージがあります。そうでありたいけどできない人は多いですよね。僕も含め、自重してしまう。
もちろん悪い面もありますよね。それで抵抗感を覚えてしまう人もいると思います。一方でまたそれとは別に、最近は年齢の問題も感じています。とくに写真の業界は新しい才能を常に取り入れていく場所なんだと思います。
自分としては年齢は関係ないしキャリアもまだ浅いと認識していますが周りはそうは見ていないし、柔軟な振る舞いで頼みにくい雰囲気を出さないように気をつけています。
50歳を過ぎると仕事が激減すると、大御所の方でもおっしゃいますからね。ただ、濱田さんの写真や考えはとても温かく、一方でオピニオンリーダーとして言うべきところはきちんと言われる。一見矛盾しているような両輪を持たれていることが写真や人柄としての魅力や一貫性につながっているように思います。
ありがとうございます。確かに、意識しているわけでないですが、撮っているもののイメージと発言していることは自分の中で齟齬はないんです。おっしゃるとおり、常に弱い人の立場に立つようにしていて、おかしなところはおかしいと言い続けたいと思っていますね。まったく別の世界から、35からキャリアスタートさせた僕の立場だからこそ言えることがあるんじゃないかなとも思っています
村上春樹さんの卵と壁のスピーチにも通じますね。この業界は旧体制なところが多い印象です。だからこそ僕もそこを改めたり折り合いをつけたりして、声なき声や勘違いされがちな人たちの傍に立ちたいと思ってやっています。たとえば“インスタグラマー(笑)”と型にはめられて機会がフェアでなくなってしまうような事例なども多いので。
黒田さんはその枠組みをしっかり作って仕事にしているところがすごいですよね。
自社はもちろん、同業界他社の顧問的な働きもしているのですが、エンジニアリングや経営企画、マーケティングといったそれぞれの観点で代弁者となるのが理想です。最初の話に戻りますが、濱田さんはTwitterはじめ SNSにはどういうスタンスで向き合っていますか?
完全に“SNSの人”というふうには見られないようにしています。僕の出自はFlickrなのでそう見られるのは避けられない一方で、発信ツールとしてうまく付き合っていきたい。その磁場みたいなものは否定はできないので、いかにバランスよくいられるか。SNSで存在感のある人はみんな投稿や言葉選びも工夫があり、巧みでうまい。それがでも、結果的にバズるのはいいけど、狙ってやるのは本末転倒とも思っています。
バズりって何が写っているかにも大きく左右されるし、どこからが写真の本当の価値なのかと考えさせられます。どうしても一流のファインアートよりも風景のような写真が拡散されやすいとか。写真の本質的価値ではなく、バズ前提で発注される案件なども少なくありません。
そこは見ている人は見てくれていると信じるしかないですよね。例えば音楽の話ですけど、最近ギターソロを省略して聴いたり、そもそも曲自体にギターソロがなかったりすることが多いらしいんです。プラットフォームが音楽の聴き方も作り方も変えたんですよね。かといって、ギターソロがいけないわけではないし好きな人もたくさんいる。そういうファストさと対局にあるような10分くらいある曲を見捨ててはいけないし、見捨てられてはいけない。一方で、 矛盾するようですが最適化された流行を評価する意見ももちろん大事なんですよね。
まさにそういうことですね。SNSが成熟化したことで、使い手が判断しなければいけなくなってきたことが増えたというか。見かけの数字だけでなく、よりエンゲージメントに近い実態も注視するクライアントも増えてきた印象です。数字は使い方次第ですね。
1人の作家という立場で言うと、今となっては数字やバズは避けて通れないからこそそういう評価軸に巻き込まれないように距離をとっていますね。自分がどう楽しくいられるか、モチベーションを持ち続けられるかが大切なんです。今思えばSNSを始めたタイミングもよかったですし、意図せずアドバンテージになっているのは、今から始める人にしてみればずるいと思われるかもしれません。
これは個人的な感想ですが、濱田さんがパイオニアとして今のポジションを築かれている理由は色々言われていると思いますが、答えはたった1つだと思っていて。それは濱田さんの写真が圧倒的に良いからなのではないかと。たしかに数字はお持ちですが、そこに溺れないように人一倍コントロールされている。いちフォトグラファーの自分から見ても、とにかく写真がうまいという印象です。ところで最近は映像に力を入れられているようですが。
ここ2、3年で一気に増えましたね。数もスチルを超えるかも。「どうやら濱田が映像も始めたらしい」というのがだんだん知られたのだと思います。映像に関しては目標がはっきりしていて、最終的には映画を撮影したいんです。ただ映画は制作の構造上、だいたい同じ組で撮るので新規参入が難しいんです。下積みや実績なしにいきなり商業映画の撮影を頼まれる人はほぼいないのではないでしょうか。
そうですよね。映像の究極に映画が位置していると思います。しかし改めて考えてみると、濱田さん自身は常に挑戦される立場に身を置いていますね。写真で堂に入って構えることなく常に新しいところへ走り続けているというか。
時代の流れもありましたけどね、とくにMVやCMでは写真的な映像を撮れる人材が求められていて、参入しやすくなったというのもあります。数年前まではそんなことは稀だったはずなので、やっぱりずるいと思われるかもしれません(笑)。
ずるいんですかね?(笑)決して最短距離を歩いているイメージはないんですよね。むしろさっきの数字の話ではないですが、もっとずるく立ち回りすることはできるはず(笑)。それよりも遠回りの最短距離のようなものを目指している印象です。受ける仕事や発言など遠回りのブランディングで常に“選んでもらえる“自分を模索しているイメージ。常に下から上に向かっていこうとしているというか。
確かにそういうところはあるかもしれない。実際、自分はまだまだ下にいると思っています(笑)。でも確かに、ある種、遠回りすることでクライアントさんとお互いより強い思いで幸せな関係を結べたらいいなと思っています。
東京に住んでいないっていうのもそのひとつですしね。「東京にいないけど濱田に頼みたい」という期待にいつでも応えられる自分を作っておかないといけない。
そのようにしてクライアントさんと深い関係を作られていくんですね。僕は広く浅くタイプなので、本当にリスペクトします。僕のコンプレックスでもあるのですが、100%を何か1つに費やして、なお情熱を保ち続けられるのかが不安なんです。1つのことで著名になりたい野心もないから気楽なわりには隣の芝が青く見える。ただ、昔ほど低姿勢を取りすぎるのはやめました。自分を見込んで頼んでくれているということは、誰かの仕事を奪っているという責任を持たなくてはいけないですよね。
黒田さんがいろいろされているのはできるからだし、向いているからですよ。自分には到底できないことです。期待に応えられる存在でい続けることが大事ですね。
濱田さんには一貫性がすごくあって、それが主義や行動選択に生きている。目先の利益ではなく中長期的に見ていることが埋もれない秘訣なのかもしれません。
写真は対象との関係性がないと撮れないですし、その関係性の中で“自分”が見えてくるものだと思います。その思考にできるかぎり深く潜っていくことで、“写真的体力”を身につけられると思っています。これは僕がよく使う造語なのですが、感覚で撮って良いものが量産できるのはやり始めの数年で、20年後も写真が撮れるようにしておくにはそれが必要なんです。たとえば村上春樹さんは長編を書く集中力や忍耐力を身につけるために長い距離を走るそうなんですが、同じことな気がしています。
最初の数年は撮ることも考えることも無邪気で楽しくやれる。だけどそれを超えたときに自分の感性やルーティン化したやり方に疑いがに生まれてモチベーションも落ちてしまう。このままではいけないと思う瞬間が必ず訪れ る。そのときのために写真的体力を養っておくことがキャリアを続ける上で必要なんだと思っています。
フォトグラファー生存戦略とは
企業のマーケティング活動をコンテンツで支援するXICO(ヒーコ)。エンジニアからフォトグラファーにキャリアシフトし、企業コンサルティングなども手掛けマルチに活動するヒーコ代表 黒田明臣氏が、広告写真業界を軸に独自の観点で様々なプレイヤーと対談。この時代をフォトグラファーが生き抜くためのヒントを、対話の中から導き出す。
ヒーコとは
企業のコミュニケーションをデザインし、クリエイティブで実装していく、コ・クリエイティブカンパニー。多角化する企業のマーケティングやブランディング活動を、プロデュースとディレクションを武器に支援。市場や媒体を横断しながら企業の付加価値を高めるための成果をお届けすることがヒーコの役割です。
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※本記事は『コマーシャル・フォト』2023年1月号の転載となります。