「LONG SEASON PHOTOGRAPHERS SLIDESHOW」レポート

Nov. 20. 2025

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きょうも全国各地で、さまざまなクリエイターが多様な展覧会やイベントを開催し、人々の感性を刺激している。今回紹介するのは、都内で不定期的に開催されているスライド上映会「LONG SEASON PHOTOGRAPHERS SLIDESHOW」。キュレーター・編集者の池谷修一氏が主催する「LONG SEASON」は、名だたる写真家たちが一堂に会し、自身の写真作品をスライドショーにして発表するという斬新な内容で、今、写真を愛する者たちから注目を集めているイベントだ。

気鋭の写真家たちによるスライド上映会「LONG SEASON PHOTOGRAPHERS SLIDESHOW」

筆者は、8月23日(土)、新宿区四谷の「TOTEM POLE PHOTO GALLERY」で開催された「LONG SEASON」を鑑賞した。3日間にわたり開催された第8回目の最終日であり、東海林広太氏、新津保建秀氏、西野壮平氏、蓮井元彦氏、水島貴大氏、木村克彦氏の6名が参加していた。筆者が「LONG SEASON」を鑑賞するのは初めてのことで、どのようなプログラムが発表されるのかはもちろん、上映会の構成自体も未知であったが、気鋭の写真家たちがどのような作品を見せてくれるのか興味をそそられた。

Photo by Takahiro Mizushima

「LONG SEASON」を主催する池谷修一氏は、およそ30年にわたり、さまざまな写真集の編集や展覧会のキュレーションを手がけてきた人物だ。2011年から2020年にかけては、長らく日本の写真文化を盛り上げた専門誌「アサヒカメラ」の編集部に在籍し、その最晩年を支えた存在でもある。

筆者が参加した8月23日(土)の上映会は、池谷氏による挨拶で幕を開けた。全体上映時間は3時間の予定で、1時間ごとに休憩が設けられること、それぞれのスライドショーは10分程度であり、前後に作家による解説が行われることが説明された。

スライドショーならではのメリット

木村克彦氏によるプログラム。暖かい季節の穏やかな能登の海をメインに、厳しい冬の様子や、震災後の復興のようすなどが映し出された Photo by Miu Kurashima

写真家が自身の作品を発表する方法として、写真集を発行すること、展覧会を開き、作品をプリントしたものを額装して展示することなどがメジャーであろう。写真集にせよ展覧会にせよ、数百枚の写真のなかからどれを採用するかセレクトし、厳選されたわずかな写真のみを公開することが常なはずだ。

一方、「LONG SEASON」では、より多くの写真を観覧者に一気に公開することができる。写真集や展覧会では作品同士に余白があり、それが観覧者それぞれに異なる解釈を与えるという意味で楽しみ方のひとつとなっているが、スライドショーではより作家の考えや価値観をダイレクトに伝えることができるのだ。

蓮井元彦氏によるプログラム。家族のルーツである香川県高松市を訪れた際の写真がスライド上映された Photo by Miu Kurashima

上映の仕方も、作家によってさまざまであった。淡々と写真をスライド上映する作家もいれば、独自のBGMをのせたり、2画面を使用して、異なるスライドを同時に上映する作家もいた。

水島貴大氏 Photo by Miu Kurashima

水島貴大氏は、ブラウン管テレビに映し出したスライドをスマートフォンで撮影するというユニークな技法を用いた動画を公開し、西野壮平氏は、OHPプロジェクターを用いて、手元のプリントをリアルタイムで構成して上映するプログラムを実施していた。

新津保建秀氏によるプログラム

さらに、新津保建秀氏は、近頃倉庫から発掘したという、かつて自身が製作した8mm映像作品を上映した。1995年夏、新津保氏が26歳の頃、パリ、デンバー、サンフランシスコ、ケルンをめぐりながら撮影したというものと、帰国後に井の頭公園で撮影したものの2本で、時を経た作品ならではのヴィンテージの魅力を感じさせた。

池谷氏は「LONG SEASON」について、写真をプリント作品にしたり、印刷物にしたりする必要がないぶん、写真集や展覧会に比べスピーディーに作品を公開できると解説していたが、一方で撮影から時間の経った作品でも、プロジェクションでの発表なので気軽に公開できるという点も大きな特徴であろう。

写真家がライブパフォーマンスを披露できる稀有な機会

西野壮平氏のプログラム。『Diorama Map』シリーズのそれぞれの作品を製作する過程で撮影された写真のプリントを、作者自身がライブで組み合わせ、
OHPプロジェクターで上映したパフォーマンス。サウンドエフェクトやドローイングも加わった。

休憩中に少しだけ作家陣に話を聞くことができたのだが、作家同士は当日までお互いがどのようなプログラムを発表するか知らず、また池谷氏以外の参加者と打ち合わせもすることもなかったという。参加者同士でも、それぞれの発表に「こうきたか」と驚かされることがあったそうだ。

ともすればテーマや表現の仕方が被ってしまいそうな気もするが、まったく性質の違うプログラムを、それぞれがユニークな形で発表していたことに感服した。

東海林広太氏によるプログラム。右の画面にはまぶたをとじた状態でフラッシュを浴び続けているような閃光の連続が映し出され、
左の画面では0.3秒程度のスパンで次の写真に切り替わるスライド上映が行われた。

さらに、写真家が観覧者に向けてリアルタイムで作品を観せることができるというのも、画期的なアイデアに感じられた。ミュージシャンがステージで演奏するように、アーティストが真っ白な紙に絵を描いて見せるライブペインティングのように、観覧者は作家によるパフォーマンスを間近で楽しむことができ、また作家は観覧者のリアクションを肌で受け取ることができる。双方にとって稀有な機会を創出する、画期的なプログラムではないだろうか。

なお「LONG SEASON」はその名の通り季節ごとの開催を目指しており、公式Instagramで開催情報を発信している。写真家たちによるライブパフォーマンスを、ぜひ体験してみてもらいたい。

by Sayaka Fujima

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