コーポレート・アイデンティティとロゴの関係性 ー タカヤオオタ x 黒田明臣

Oct. 17. 2024

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ーー2024年9月、株式会社ヒーコはメディア設立から9年、クリエイティブ事業の開始から約4年半が経ち、新たなロゴと共に大きなリニューアルを発表した。今回のリニューアルは、これまでのアイデンティティを尊重しつつ、未来への新たな一歩を象徴するものだ。

このロゴの制作を担当したのは、数々の企業のロゴ制作を手がけ、独自の視点で企業のアイデンティティをデザインするタカヤ・オオタ氏。ヒーコの代表、黒田明臣氏と共に、ロゴに込められた想いとその制作過程について語る。

Takaya Ohta

Designer

株式会社ケルン代表。立教大学経営学部卒業後、デザイン事務所と事業会社のアートディレクターを経て、2017年に独立。スタートアップ企業との協業を中心に、アイデンティティ・デザインの設計・制作に従事する。

Akiomi Kuroda

Photographer

株式会社XICO 代表取締役。
フリーランスエンジニアから写真家・実業家へキャリアシフト。ソフトウェア設計、ビジネスデザイン、B2B/コミュニティマーケティング、ビジュアルプロデュースを掛け算。自社経営をはじめ、外部顧問としてビジネスデザイン領域や事業戦略設計の支援、フォトグラファーとして広告写真制作やプロデュースなど浅く、広く、活動中。

名刺デザイン例
黒田

タカヤさんの作るロゴは「このデザイン、タカヤさんだよね」という感じではなく、「これもタカヤさんなの?」という驚きがあるので好きなんですよね。今回ロゴをお願いしたのもタカヤさん以外には相談せずに一択でお願いしました。

ロゴづくりで大切にしていることはありますか?

オオタ

ロゴは、その企業の根幹にかかわると思っています。ですから、創業者や代表の方と対話して、「どうしてこの事業をやっているのか」「この事業にどのような意義を見いだしているのか」といったトピックを掘り下げることを心がけています。

黒田

今回、ヒーコのロゴ制作をお願いしましたが、ヒーコって面倒くさいなって思いませんでしたか?事前にお渡しした資料も多かったでしょう。

オオタ

そんなことないですよ。

事前資料はボリュームがありましたが、「黒田さん、やる気だな!」というポジティブに受け止めていました。お送りいただいた資料に目を通しながら、描かれている理想形を想像し制作しました。

黒田

僕たちヒーコには意外性がいくつかあって、まずひとつめが、あまり夢を描いていないという点。こうであって欲しいという理想はありますが、ビジネス的に上場しようとか、100億円の会社を目指す!みたいなことは考えていません。

それに加えて、僕自身が「間を好む人間」ということもあり、気に入るツボが見えにくいらしいんです。あと、ヒーコという会社はクライアントのことも考えるけど、クリエイターや現代のクリエイティブ文化についても同じくらい大切に考えています。どちらかに寄り添いすぎると良くないので、バランスが求められることを理解してもらう必要があります。意外とそこが難しいみたいなんですよね。

しかも、既存のロゴには社名の由来がそのまま込められています。アイデンティティのIがあって、それが人に寄り添いながら笑って手を差し伸べ、その手を取り合って円になり、Xがかけ算で無限大。点が線になって円になることを無限に増やしていきたいという象形文字のようなアプローチでつくられた当て字で、社名の由来がロゴとなっているというかなりプリミティブなコンセプトなので、頼まれる側としてはそこに引きずられずにデザインするのはやりづらいだろうなと考えていました。

ただ、タカヤさんの論理と感性のバランスや圧倒的な想像力ならこちらも全力で思いをぶつけられるだろうなという期待があって、数年越しにようやくご相談できました(笑)

オオタ

ありがとうございます(笑) 制作がスムーズに行ったのは、かれこれ7年ほどSNSで黒田さんの人柄を見ていたことが大きいかもしれません。こういう経過観察って他の仕事でもよくやるんです。人やサービスについてエゴサーチして、どういう発言をしているのか、周りがそれをどのように受け止めているのか眺めています。

それと、もうひとつは相手のお話を肯定的に傾聴すること、そして異なる視点から見ることを意識しています。さきほどのヒーコの社名由来から少し距離を取ってみると、「黒田さんご自身から聞けばよく理解できるけれど、文面やロゴだけで伝えるのは難しいかもしれない」と感じていました。ですから黒田さんの想いは汲み取りつつ、より視覚的で、他者の説明がなくても雰囲気を伝える必要があると考えました。

「すべては伝えきれないけど、ニュアンスはにじみ出ている」というような感じです。こうした背景もあって、ヒーコさんはクリエイターともクライアントとも共存共栄する“クリエイション”を表出させるべきじゃないかという考えに至りました。

黒田

捨て案なしとお聞きしていたので、1つだけ持ってくると思っていたら3案。しかも「捨て案は、文字通り捨ててきました」と言われたのでさらに驚きました。ヒーコには多面性があって、どの面で見るかで変わるからとおっしゃっていましたよね。出てきた案は3つとも素晴らしく、「3倍のお金は出せませんよ!」と言いたくなるクオリティでした。本当に感謝しかありません。

ちなみに、今回のように既存の流れと異なる提案をするとき、クライアントへの伝え方に悩んだりしませんか?

オオタ

新しいアイデアをクライアントに提案するとき、繊細さは抜きにしてずぶとくいくように心がけています。勝負だと思っているんで!(笑)

相手はこれまで事業をなされて感じたことを、言葉にしてくれています。それに対し、僭越ながら…みたいな態度で出すべきじゃないと思うんです。話を聞いて、自分なりに考え抜いた結果がこれになりました。自信があります!という態度で臨むべきなので、そこは物怖じしないようにしています。

1人で考え続けているとどうしてもアイデアは固定化していきますが、2人で話せば新しい視点を取り入れることができます。僕が作らせていただく意味はそこにあると考えています。

黒田

確かに、勝負ですよね。(笑)

ヒーコと世間のタッチポイントって運営しているメディアとしての見られ方が一番多いんです。とはいえその部門は事業ポートフォリオとしても5%に満たない。実態はプロデュースとディレクションの会社ですが、B2B企業なのでどうしても世の中との接点はインプレッション数の多いメディアが強くなってしまうんですよね。そのあたりのギャップを、タカヤさんは乗り越えてきてくださって、さらに構造に対しても解像度の高いご提案をいただいたので驚きました。

オオタ

今回の制作では、これまでヒーコさんがどのように見られてきたかはあまり考慮しませんでした。それよりも、黒田さんとの会話を掘り下げていくほうが、このプロジェクトで描くべきコアに辿り着けるという予感がありました。これまでの資料も参照しつつ、それだけで判断することはありません。あらゆる情報を念頭に置きながら話を聞き、自分なりにすり合わせていきます。深掘りしていくことで見えてくる部分も多いので、やはり直接見聞きしたものを信じたいです。

ーー今回ヒーコでは、ロゴにあわせてウェブサイトやウェブマガジン、SNSも含む広義のメディアのデザインやテキストなどコミュニケーション面を大幅に刷新。ミッション・ビジョン・バリューはそのまま、解釈をアップデートした。

Why: As a creative company, our belief is in designing to communicate and engineering to create.

上段:How we drive: Co-creation.
下段:What we do: Experts in produce, direction and creation.
黒田

話はちょっと変わるのですが、これまでのヒーコはタグラインを「ソーシャルメディアストーリーテラー」を定めて、SNSに軸足のあるマーケティングコンテンツ制作を銘打っていました。

開始した2019年当初はそれが我々の強みだとも思っていたのですが、実態として制作会社を5年やっていると、マスメディアでの施策やカタログの制作、イベントのプロデュースなど幅広いお仕事につながり、自分たちの真なる強みがプロデュースやディレクションにあることを再発見できて、その実態にアイデンティティを進化させようというのが今回のロゴリニューアルにおけるテーマの一つでもありました。

オオタ

たしかに、それはおっしゃっていましたね。

黒田

我々は確かにSNS起点のプロジェクトも多く行っているので、ソーシャルストーリーテラーでも悪くなかったとは思うんです。とはいえ、実際はSNSの売上が全体の半分くらいで専門というほどではありません。当時は群雄割拠の制作会社戦国時代に、どこかでポジションをとらなければという思いがあり、マーケティング的な妥協点でもありました。当時は広告制作会社としては老舗の株式会社アマナと業務提携していたこともあって、彼らに足りないピースであろうという思いもあったと思います。

そういうポジションをとってずっとやってきたのと、先ほどお話ししたメディアビジネス的な課題もあり、もう少しデジタルや時代性を連想させるテック感やモード感のあるデザインになるかな?と思ってたんです。ところが、タカヤさんがSNSとかWeb案件とかデジタルに寄せていない提案を出してきてくれたことに驚きました。とてもクラシカルで、手触り感がある、とはいえどこか真新しいかんじできちんと言語化されたコンセプトが意匠化もされているし、弊社のビジネスモデルを正確に解釈していただいて、コ・クリエイションというコンセプトを掘り出していただいた。

デザインの強度に驚いたんですよね。とはいえ、逆になぜ流されずにそうなったのかが気になります。僕自身も強く変えてくれという話をしていたわけではなかったですよね。

オオタ

黒田さんのお話を聞いていると、ソーシャルメディアの部分に力点が置かれていない気がしたんです。軸足を移すというか、現在地と整合させたいと考えていることは感じとれたので、僕もこれまでのヒーコさんの姿に固執する必要はないかなと思いました。

逆に「なぜ今のものを踏襲していないんだ?」と言われても、「勝負したいって言ったのは黒田さんじゃないですか!」って反論できると踏みつつ。(笑)

黒田

勝負してますね(笑) それほど強く方向を変えたいと伝えたつもりがなかったので、その部分をくみとってくれたのがすごいです。“手触り感のある”という話があったとき、まさに我々が欲しかった言葉だ!と思ったんです。すごく勇気を与えられたというか、我々の理想形だなと感じました。

コンセプトとしてご提案いただいたコ・クリエイションというキーワードは、ビジネス界隈でも様々な文脈で使われていますし、近年重要なキーワードの一つでもあるものの、ある種トレンド化しているミームのようなイメージもあるんですが、ヒーコでは自信をもって採用できるな、と。もともと僕がデパートメントアドバイザリーや事業戦略支援で入っていたアマナも Co-creation Partner というタグラインを掲げていたので親近感があったんですよね。

オオタ

先ほど、僕のデザインが毎回違うとおっしゃいましたが、それはお話を聞く相手が毎回違うからなんです。会話の中からコアを読み取り、想いを意匠へと抽出した結果が成果物です。

まずは自分の解釈を入れずに傾聴して、アウトプットするときに客観的な視点を織り交ぜていきます。お話の中から、本当に大事にしていることや、この先も続けたいと信じていることを汲み取って、デザインへ変換していくことが自分の責任だと思っています。ここがデザインのクオリティの差につながっていくので、スリリングであり、楽しい部分でもありますね。

黒田

今回のロゴは、僕がまだ表現または言語化できていない部分を形にしていただきました。ベジェ曲線のような計算可能なイメージではなく、どこか手触り感や揺らぎの感じられる意匠であること。僕たちが大切にしている相手に寄り添ったプロデュースや、緻密なディレクションという強みは、やっぱり人の手なくしてはなし得ないので。CとOがくっついてインフィニティループにみえているのも決め手でした。

オオタ

既存のロゴの、CとOが合わさっている表現から着想を得ています。そういう意味で、僕が完全に新規で作ったというより、「黒田さんのお話をデザインに落とし込んだとき、一言で伝わるアプローチは何だろう」という視点からいくつもアイディアを出していく中で、徐々に整理して仕上げていくような感じです。ヒアリングに際しても、できるだけ想いを取り入れたいという気持ちが根幹にはあります。

これまでの事業の背景や黒田さんの想いをロゴに反映させていただいたので、今後のヒーコさんがどのようなクリエイションをしていくのかとても楽しみです。

黒田

本当に私たちのアイデンティティを、素晴らしい形でロゴにしていただきました。みなさんがタカヤさんにお願いしたくなる理由がわかります。このロゴに恥じないようこれからも私たちらしい成長を遂げていきたいと思います。ありがとうございました。

ロゴリニューアルの詳細はこちら

Flux by kern typefaces

弊社でも愛用しているkern inc.が開発したバリアブルフォント。大きく分けてサンセリフ、フレア、セミセリフ、セリフ、エクストラセリフの5つの表情を持ち、様々な場面、様々なクリエイターにフィットする書体。フォントをお探しの方もそうでないかたも、ぜひのぞいていってください。

by Takaya Ohta

コーポレート・アイデンティティとロゴの関係性 ー タカヤオオタ x 黒田明臣

Oct 17. 2024

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