35mmレンズと静かな写真。フォトグラファーに求められるのは選定力。

May. 11. 2021

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こんにちは。コハラタケル(@takerukohara)です。

僕のSNSの写真を見ている人は印象が薄いかもしれませんが、実は昔から仕事として家族写真を撮影しています。

今回は家族写真を撮るときに大切にしている35mmレンズへのこだわりと静かな写真、そしてフォトグラファーに求められる選定力について話させていただきます。

敢えて残す”誰でも撮れそうな”写真

50mmレンズよりも35mmレンズがおすすめの理由

僕は35mmと50mmの単焦点レンズを使うことが多いのですが、正直な話、35mmよりも50mmが良いなと思うシーンはたくさんあります。なぜなら50mmのほうが子どもたちから離れた距離で撮れますし、背景も35mmに比べると余計な情報が入りづらいからです。

大人を撮るのに比べ、動き回っている子どもたちを撮るには瞬時に状況を把握してシャッターを切るという瞬発力が求められます。なので、「本当はこの背景で撮りたいんだけどなぁ……」なんてうまくいかないことは日常茶飯事です。

実際、全員集合写真のような決めカットに関しては僕も50mmを使っています。しかし、メインは35mmなんです。35mmじゃないと写せないものがありますし、とにかく自分が一番好きな画角だから。もしかすると、ただの頑固なおじさんなのかもしれません。

ただ、35mmを使う理由としては好き以外にも理由があります。それは“誰でも撮れそう”と思わせるような写真にしたいからです。

家族写真をフォトグラファーが撮る最大の理由

例えば、下の写真を見た人は「良い写真だね」とは言ってくれるかもしれませんが「すごい写真だね!」と言う人はいないと思います。

左側には車が3台も写っていますし、娘ちゃんの脚は見切れている状態。仮にこの写真を50mmもしくは85mmなどで撮っていれば、もっと背景の情報は整理され、雑然とした雰囲気にはならなかったと思います。

人によっては「せっかくお金払って依頼したのにこんな写真か」と思う人もいるでしょうし「なんかこれだったら私でも撮れそう」と感じる人もいるでしょう。

実はそこがミソなんです。

なぜかというと家族写真をフォトグラファーが撮る一番良いところは全員が写ることができることだと僕は考えています。

つまり、仮に誰でも撮れそうな写真だったとしても、通常であればお母さんやお父さんが撮影者にならなければいけないわけであって、写真に写ることはできません。もちろん三脚等を使えば、写ることは可能だと思いますが、常に動き回る子どもたちを相手に三脚での撮影は難しいのも事実です。

“誰でも撮れそうな写真なんだけど、実は条件的に難しい”

僕が意識していることであり、35mmだからこそできることなんです。

楽しいだけが家族写真じゃない

静かな写真とは

もうひとつ家族写真を撮るときに意識していることがあります。それは“静かな写真”を渡すことです。

静かな写真とはどういうことでしょうか。ここでは下記のようなシーンをイメージしていただけると助かります。

  • 学習机でお絵描きを一生懸命にやっているシーン
  • 天気が悪い日に窓の外の雨雲を心配そうに眺めているシーン
  • 疲れているのか眠たいのか、ボーッとしている表情

ほかにも不機嫌なときや泣いているところも僕が思う静かな写真に近いです。

僕は意図的に悲しい瞬間や寂しい瞬間を狙っているわけではありません。撮っていくなかで笑顔ではない写真も撮れることがありますが、最終的に写真を渡すとき、そのようなシーンの写真も意識的に選んで渡すようにしています。

実はつい最近、僕が静かな写真が好きだということを話していたら、あるママさんからこのようなメッセージをいただきました。

「私は自分の家族写真を撮っていますが、笑顔の写真もあるし、泣き顔や何かに夢中だったりの写真が多いです。あとで見返したときに、その方が思い出せる事柄が多い気がします。娘はその写真を見て照れくさそうにしていますが、案外なぜ泣いているかなどを覚えているので、本人も思い出深いんだな……と思わされます。」

このメッセージをいただいたとき、ホッとしました。というのも笑顔の写真って、やっぱり強いんですよね。強いというのは喜ばれることが多いということです。家族写真は楽しい瞬間だけを残すべきだという意見の人もいるでしょう。

だから僕は静かな写真を渡すときというのは不安になるときもあります。

簡単に撮れない写真を撮ることの大切さ

例えば、下の写真をSNSに投稿したときは海外の方から「悪い予感がする」など、印象としては良くないイメージを持ったという意見をいただきました。

確かにこの1枚だけを見れば、マイナスの印象を持つ人はいるでしょう。

ただ、前後の写真を見ていただければ、決して親子の関係が悪いものではないということは察しがついたはずなんです。(補足ですが、SNS投稿時はカルーセル投稿にしているため前後の写真がわかります。)

ちなみにこの写真は転んで泥が口のなかに入ってしまい、それをお父さんが取り除こうとしているシーンです。

なぜ、このシーンの写真をお客様に送ったかというと、泥が口に入っている状態だと、それが気になるのでカメラ目線になりにくいんですよね。

実際、この写真以外はうつむいたり、小難しそうな表情で空を見上げるような顔の角度でカメラから視線をはずしていました。

前の章では誰でも撮れるような写真をあえて撮るというようなことを言いましたが、理想としては簡単には撮ることができない写真も送りたいと思っています。僕のなかではこういう瞬間を残すのは難しいことなんです。

「難しい = 技術がないとできない」と考えているので、誰でも撮れるような写真を意識的に撮影しつつも、依頼を受けて撮影している以上、技術が感じられる写真を撮ることも重要です。

対比させることで生まれる相乗効果

写真の組み合わせが重要

静かな写真を意識的に選定して渡すのには、ほかにも理由があります。それは“輝いている瞬間をもっと輝かせるため”です。そこで僕がよくやるのが対比です。

例えば、明るい笑顔の写真がたくさん並んでいれば、それはそれで素晴らしいでしょう。しかし、笑顔の写真というのは静かな写真とセットにしたほうがもっと生きると考えています。

逆も然りで、静かな写真も明るい写真とセットにすることによって、良さが増すと考えています。両極端な表情があることで、写っている子の表情の豊さや感情が写真を見た人たちにもっと伝わりやすくなると思うんです。

些細なことかもしれませんが、僕はこの静かな写真と明るい写真をセットでお送りするということを意識しています。

フォトグラファーに求められるのは選定力

流れで見たときに生きる写真を選ぶ

フォトグラファーに求められる能力というのは色々あると思いますが、僕が重要だと考えているのが“選定力”です。

たくさん撮った写真のなかからどの写真を渡し、どの写真を渡さないのか。とくに僕は1枚で完結させるよりは、2枚、3枚、4枚というように1枚で見るよりも流れで見たときに生きる写真も送るようにしています。

口のなかに泥が入ってしまった写真がまさにそうで、あの写真だけだと当事者たちはわかりますが、それ以外の人たちはわかりません。

家族写真、とくに子どもが写っている写真に関してはおじいちゃん・おばあちゃんにも写真を見せることが多いでしょう。

家族との会話まで想像する

上の写真は口に泥が入ってしまった写真のあとの光景です。1枚ではよくわからない写真というのは、その写真を見たときに会話が生まれやすいと考えています。

口に泥が入ってしまった写真だけを見た場合、おばあちゃんは「これ、どうしたの? 何かあったの?」と思うかもしれません。

しかし、続きの写真を見ることで「ああ、転んで口に泥が入ったのね。大変だったね」という会話が家族で生まれるのではないかという部分までを想像しながら写真を選定するようにしています。

この選定力こそフォトグラファーに試される能力のひとつなのではないかと思っています。

まとめ

  • 誰でも撮れるような写真に見えるけれど、家族全員が写っている写真は貴重
  • 明るい写真と静かな写真。両方を送ることでそれぞれの写真を生かす
  • 大切なのは選定力。1枚で完結する写真だけではなく、複数枚で完結する写真も送る

by Takeru Kohara

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