私のクリエイティブルール vol.2 平山高敏

Dec. 19. 2024

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第一線でクリエイティブに携わっている方たちに、クリエイティブを生み出すにあたって大切にしている”ルール”をお聴きする連載企画「私のクリエイティブルール」。第2回はキリンホールディングスで公式noteを立ち上げからリードし、出版や講演でも活躍されている平山高敏さんにお話を伺いました。

Takatoshi Hirayama

Director / Producer

キリンホールディングス株式会社 コーポレートコミュニケーション部 主務
2005年、新卒でWeb 制作会社に入社。昭文社の旅行ガイド『ことりっぷ』のWebプロデューサーを経て、2018年にキリンホールディングス入社。note 公式アカウント、オウンドメディア「KIRINto」の運営、インハウスエディターの育成を担当。日本アドバタイザーズ協会デジタルマーケティング研究機構 第10回Webグランプリ「Web人大賞」受賞。23年1月『オウンドメディア進化論』上梓。

キリンでオウンドメディアを立ち上げるまで

―― これまでのご経歴を教えて下さい

2005年にネット系の広告代理店に入社して営業をしていました。2008年にTwitter(現X)が来て、これまではユーザーが能動的に検索をした時に出す広告か、あるいはYahoo!のようなポータルサイトやニュースサイトを見ている時にバナー広告を出すといった選択肢しかなかったところに、ユーザーが気軽に集まる場所が増え、企業自らが発信できるようにもなりました。そしてスマホも登場したことで、多分これから情報の流通が変わってくるんだろうなと感じていました。

その機運から、これからはメディア側が面白くなっていくと思っていました。そんな時に昭文社の方からお声がけをいただき、2012年に転職をしました。「ことりっぷ」という旅行ガイドブックのWeb版やコミュニティアプリなどの新しいメディアを立ち上げることになり、5年くらい携わっていました。

メディアをやっていると、今度は企業が直接発信するところにも興味が出てきました。そしてたまたまご縁があって、キリンに転職をして現在に至ります。

―― キリンに入られた当初は、どういった役割・ポジションで入られたんでしょうか?

キリンでは、最初は「DRINX」というECサイトなどを担当したり、LINEの担当をしたりといろいろやっていました。その中で、従業員の熱量に感化されたり、ソーシャルイシューに関わる取り組みに感銘を受けるようになりました。そうであれば、従業員自らの声を直接届ける場があったらいいのではと考えるようになりました。当時、ちょうど「note」が伸び始めていた頃で、参入障壁も少ないということもあり、2019年4月にスタートしました。

その後はソーシャルメディア全体の取りまとめも行うようになり、今年の10月からは、インターナルコミュニケーションの方にも携わっていて、社内のコンテクストを社外に繋ぐような役割、つまりは”インハウスエディター”のような役回りをやっています。

―― キリンとしては、元々発信系のメディアをやっていたということでしょうか?

いえ、そうではないですね。SNSやメディアは運用していましたが、今で言うオウンドメディア的なことはあまりやっていなかったと思います。

従業員にキリンのイメージを聞くと、多くの方が誠実で真面目な会社だと言います。そういった気質もあって、文章で丁寧に伝えるオウンドメディアは、キリンのカルチャーにもフィットするであろう肌感覚がありました。

マスとは一線を画しつつ”キリンらしさ”を表現するメディアへ

―― どのように社内の認知が進んでいったんでしょうか?

当初は、あまり広告的に大々的なアプローチをしていないCSVの部門の取り組みだったり、代官山にあるスプリングバレーというクラフト事業が行っている取り組みなどを中心に取り上げていました。

大きく伝えられてこなかった活動を中心につぶさに発信していくことで、独自の見せ方を確立していくことができましたし、社内外からも好意的に受け止めていただきました。それが結果として社内により広まっていくことにつながったと思います。 

そうしていくうちに、うちのブランドも深堀りしてほしい、という声や、子会社の取り組みを取り上げてほしい、という声が上がるようになりました。今では8割が依頼をもとにコンテンツを制作するほどには、社内に浸透しました。

―― 記事を依頼してくるブランドからするとどんなところが魅力なんでしょうか?

やはり広告やその他のアプローチでは取りこぼしてしまっている、もしくはもっと伝えたいと思っているところを埋めることが出来る、ということだと思います。実際、コンテンツを企画する時も、彼らが普段の発信内容を伺いながら、プラスアルファでどんな発信ができると理想的なのかを考えながら提案をするようにしています。

―― 「note」をスタートする時には、メディアをどう見せるか、どんな世界観にするかといったことは予め設計されていたんですか?

厳密には決めてなかったですね。「note」の特性上、ユーザーのUGCを集めながら共創していくというニュアンスも強かったので、我々が出すコンテンツ以上に、お客様とどう繋がるのかというところに軸足を置いていました。読者参加型の投稿コンテスト企画も複数回やりました。

ただ「note」自体の世界観や、どういうプラットフォームかということは分かっていたので、先述したような会社のカルチャーとnoteのコンテンツの空気感はフィットするであろうとは思っていました。

クリエイティブな人間ではないからこそ持つべき視点

―― ビジュアル的なところも含めて「note」ユーザーに刺さりそうなクリエイティブに統一されていますが、アートディレクション的なことも担当されているんですか?

そうですね、カメラマンもライターも一部は私から直接お願いしています。クリエイターとの関係性としては、彼らがキリンのやっていることに共感していただけることはもちろん、彼らの実績に載せたいと思っていただけるようなお仕事になることが大事だと思っています。その上で、その企画に合うであろうカメラマン、ライターにお声がけしています。

―― そういう”選ぶ目”や”センス”のようなものは、やはりこれまでメディアに携わってきた経験から養われてきたものなのでしょうか?

どうなんでしょう。経験で養えるだけの場数を踏んでいるわけでもないので、自身がセンスがあるとは思っていません。ただ、NGラインのような、踏み外してはいけない基準は持っていると思います。自身で設定したメディアの世界観に合わせたクオリティを担保できるラインを自身の中で持っているイメージでしょうか。

それは最低限の礼儀のようなものだとも思っていて、自身の求めるクオリティを定めたら、それ相応にその領域のことを知っているべきだという意識でいますし、自分がやろうとしているレベル感のことを知っておくということは重要だと思っています。

―― 「知る」ということについて、何か定期的にインプットするためのルールのようなものはあったりするんでしょうか?

普段からWeb上で見れるものは見ていますが、私は本屋が好きで代官山の蔦屋書店とか、下北のB&Bとかによく行っています。気に入った本を買うことはもちろんですが、ざっと店内を回りながらタイトルや装丁の傾向のようなものを頭の中で言葉にするようにしています。例えば最近は「〇〇術」みたいなタイトルが多いな、とか、「仕組み」という言葉が流行りなのかな、といったことを見ながら、世の中に求められているニーズとか、機運みたいなものを感じ取るというのは、癖としてやっていますね。

アート展なんかも好きなんですが、アートそのものに造詣があるわけではないのですが、なぜこの作品、アーティストにこんなに人が集まっているのかということを考えたりします。そういったことが私がやっていることに通じるのではないかなと思っています。

世の中の変化に対応していく筋肉を付ける

―― 他にルールとして自分に課しているようなことはありますか?

ルールという程でもないんですが、インプットしたものや自分の領域で感じていることを、月に2回、自分のnoteアカウントで文章にしています。仕事上の気づきとか、今後の可能性などを、1記事2000字くらいで書いています。どうも書かないと頭の中の思考がうまく整理できないので、書く癖をつけるようになりました。また、メディアを運営している以上、ベースとなる文章と向き合っていないと、メディアの良し悪しを判断できなくなるのではないか、とも個人的には思ってもいます。それに、今の世の中や自分のやっている領域における”違和感”のようなものを言葉にしておく、ということはやはり大切なことだと思っています。

書いている内容は、自分の領域に関することで、メディアやカルチャー、ブランドやデザインといったことから、組織のような付随するテーマもあったりします。世の中も会社も常に変わっていくので、そういった変化に対して、常に自分も変化していくための筋力を付けているという感覚です。

―― やはり、何かを生み出すこと、作ることがお好きなんですか?

自分がクリエイティブだとは思っていないので、そうでもないんですよね。趣味もあんまりないですし…… お酒と食べることは好きですが(笑)オウンドメディアに関する書籍を執筆させていただいたこともあるので、言葉で切り取ることはある程度はできることだと思っていますが、ただあくまでこの本も解説本であって、小説のようなクリエーションではないんですよね。文章を生業にしている方やカメラマンなどに対しては、むしろ憧憬の気持ちを抱いています。

”距離感”を測ることで必要なコンテンツが生まれる

あと、私はオウンドメディアを4,5年やってきていますが、他の人も出来るようになって欲しいと思うものの、実際にはなかなか難しいということが分かってきました。属人性の高い仕事なんですね。今はマネージメントの立場でもあるので、オウンドメディアの脱属人化をはかろうと取り組みを始めているところです。

これまでやってきたことをつぶさに棚卸をして、インハウスエディター講義なるものを始めています。ちょうど今年から始めたんですが、こちらは今後も力を入れていきたいところです。

棚卸をして思うのは、メディア・コンテンツを作り出す人にとって重要な視点は、多様な”距離感”を持っているか、ということです。自身のおかれている立場や会社の影響力、またブランドの立ち位置などを理解した上で、世の中の潮流やコモンセンスなどとの距離感を捉えたうえで、発信物としての「置く場所」を考えることが出発点だと思っています。

―― ”距離感”の測り方というのは、どうやって身に付けていくものなのでしょうか?

まずは言葉にするということなんじゃないでしょうか。そのために多様な人たちとコミュニケーションをするということなのだと思います。人とのやりとりから生まれる言葉をくみ取っていくことが、距離感を捉え、引いては感性を養い、いいクリエイティブに繋げることができるということだと思います。

そしてコミュニケーションには”問い”が必要です。AIの発達もあって、最近は”答え”を出すことへの距離感が短くなり、”問い”を生み出す機会が減っているように思います。”問い”を生み出せると”距離感”が分かってくる。その距離感がいいコンテンツにつながる。そんな風に思います。

先日、長く続くブランドの最初の企画書を見る機会があったのですが、その企画書の冒頭が“未来への問い”から始まっていました。 個人的な意見ですが、”問い”があるとみんなそれぞれ勝手に解釈をし始めて、そこに言葉が生まれ始める。言葉が集まると熱が生まれて息の長いブランドになっていく、そんなこともあると思うんです。”答え”が最初からあるとクールできれいなのですが、”問い”があると焚火のように人が集まって来る。私が運営しているメディアもそういう場にしないといけないと思っています。

―― 今日お聴きした「note」を立ち上げた時も”答え”ありきではなく、ユーザーに”問い”を投げかけて共創していくという発想にも繋がっていますね。ありがとうございました。最後に、メディアを運営されている方やクリエイティブに関わる方に一言お願いします。

これまでクリエイティブと呼ばれる環境で仕事をしてきた訳ですが、大事なのは自分がクリエイティブであるということではなくて、クリエイティブであるとはどういうことなのかを知ることだと思っています。そして「知る」ためには、いろんな人と話し、いろんなものを見て、様々な視点を取り入れることです。言葉にすることを繰り返していくしかないと思います。

まずは社内の人に話を聴きに行って、”問い”をぶつけてみるところから始めてもいいかもしれません。私はそれをやり続けてきて、今もこういう形でオウンドメディアをやらせてもらえています。自分がクリエイティブでなくても、話をする、話を聞く、”問い”を出していく、ということが出来ると、クリエーションが生まれる源泉を作り出すことは出来ると思います。

LINK

◆ KIRIN note
https://note-kirinbrewery.kirin.co.jp/

◆ KIRIN ONLINE SHOP 「DRINX」
https://drinx.kirin.co.jp/

by Takatoshi Hirayama

私のクリエイティブルール vol.2 平山高敏

Dec 19. 2024

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